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紅い魔杖と黒い魔剣

話の区切りが難しい……


誤字を修正し、一部の記述を変更しました(6/3)


怒りに任せて三人組に突っ込んだあたしに、ダグウェルの持つ杖から強烈な閃光が飛んできた。 セバスチャンには、強力な耐魔力結界があるから再び無傷で済んだものの、思わず足が止まってしまった。


「あらァ、誰かと思ったらセバスチャンじゃないのォ。 とっくに朽ち果てたと思ってたけど、いつ封印の間(ものおき)から出てきたのォ?」


突然、カンに触る耳障りな女の声が聞こえて来た。 ……ダグウェルは女じみた美形だけど、一応男だよね?

なら、声の主は……?


「杖がしゃべった!?」


あたしは思わず驚いて叫んでしまったけど、まぁ剣がしゃべるなら杖がしゃべるのもアリか。 あたしが納得している間に、杖に名前を呼ばれたセバスチャンは今までに無く苦々しい口調で杖に言い返した。


魔杖(まじょう)ザビーネ……魔王と共に朽ち果てたと思っていたが、まさか生き残っていたとは」


「おかげ様でね。 ワタシは強い御方に御仕えするのが大好き、ダグウェル様みたいな素晴らしい御方に御使え出来て今まで以上に充実した毎日よォ。 で、アナタはどうなのセバスチャン? まァさか、その薄汚いゾンビが今の御主人様(マスター)なのォ? キャーハハハハハハハハハハハァ!!」


ぐぬぬ……まさか杖なんかに言いたい放題言われるなんて。 あたしが何か言い返そうとするよりも早くセバスチャンが言い返した。


「黙れザビーネ!! お嬢様への侮辱は赦さんぞ!!」


こんなに怒ってるセバスチャンは初めてだ。 でも、ザビーネと呼ばれた杖は全然平気な風で嗤うのを止めなかった。


「アーヒャッヒャヒャヒャヒャ!! お嬢様ってその肥やし臭い田舎娘みたいなゾンビの事ォ!? アナタ、何百年か寝てる間にジョークのセンスだけは上がったみたいねウッヒャッハハハハハハハハハハハハハハハァ!」


ザビーネに釣られて三人組も笑い出した。 ダグウェルまで“フッ”みたいな感じで軽く嗤ってるし!

悔しい……。 思わず涙が滲んだ。


「その辺にしておけ、ザビーネ。 私は道具(モノ)が喋るのは好まん」


「これはシツレイ致しました、わが君(マイロード)


ダグウェルの一喝で、ザビーネは竦んだ様に言うとそのまま押し黙った。 ダグウェルは冷酷な眼で三人組を睨んで言った。


「このゾンビが、お前たちが逃がした前回の商品の成れの果てか。 お前達の下らん戯れで商品を取り逃がしたばかりか、魔剣セバスチャンの封印まで解かれるとは……。 無能を通り越して、もはや罪深いレベルの失態だな」


震え上がる三人組に、さも慈悲を掛けてやると言わんばかりに、尊大に両腕を広げてダグウェルは告げた。


「最後のチャンスだ、自分の不始末は自分で処理しろ」


そう言いながらダグウェルは指を鳴らす。 すると、後ろに控えていた幽甲冑(ゴーストメイル)の一体が四つん這いになり、ダグウェルはその背中に腰掛けて脚を組んだ。 うわ……感じ悪い。


「よろしいのですかァ? わが君」


「構わん、戯れだ。 セバスチャンが付いているとは言え、ゾンビごときに敗れる様ではどの道役には立たん。 死ねば粛清の手間が省けると言う物だ」


ダグウェルとザビーネがそんな遣り取りをしている一方で、三人組は覚悟を決めた表情で武器を抜いて構える。 あたしもセバスチャンを両手で構えて、刀身を最大まで伸ばした。


「剣だけは立派な様だが、それだけで俺達に勝てると思ってるのか?」


ジャスティンが細身の剣に魔力を込めながら、あたしに言ってきた。 アクセルが両手斧を振り回しながらそれに続く。


「勝手に逃げただけじゃ無くて、オレ達の立場までヤバくしやがって! 楽に死ねると思うなよ」


そしてニコラスが短剣の刀身を舐めながら、相変わらずの微笑を崩さないで囁く。


「死体とヤッた事は何度かありますが、流石にゾンビは初めてですよ。 一体どんな具合なんですかね。 ウフ、ウフフフフフフフ」


うわ……やっぱコイツが一番キモい。


あたしも気を取り直して三人に向かい合う。 じりじりと距離を詰めてくる三人組には、どこと無く余裕が感じられる。

まぁ、魔剣を持っているとは言え所詮小娘のゾンビだし、なにより三対一って言う数の優位があるからね。


でもね……


ガシャガシャガシャガシャガシャガシャ


突然鳴り響く金属音に、三人は怪訝な表情であたしの背後に目を凝らす。 そう、こいつらには松明の明かりが届かない暗闇は見えないからね。

あたしは軽やかにステップを踏んで、横に移動する。 直後、あたしの背後から突進して来たメイちゃんが、見た目によらない猛スピードで三人組に突っ込んでいった。


「なっ!?」


メイチャンは、かわし損ねたアクセルを跳ね飛ばすと、三人組の背後に転がされていた女の子の前に立った。 ナイス! メイちゃん! これで、万が一にも人質を取られる心配は無くなった。

これで、心置きなく戦える!


「なめるなああああ!!」


ジャスティンは激高して、魔力の籠った剣戟の衝撃波を連続で放った。 魔斬波(スラッシュウェーブ)、離れた敵にダメージを与える魔剣士(マギフェンサー)の得意技。

生前、まだ騙される前のあたしはジャスティンのこの剣技を何度も見た。 鬼畜族(オーク)の鎧だろうが、巨甲虫(ジャイアントビートル)の殻だろうが易々と切り裂いたこの技を連続で放ったら、多分屍喰巨蟲(グールウォーム)でも致命傷を負うだろう。


……普通の相手(モンスター)ならね。


でも、魔斬波は(ことごと)くセバスチャンの耐魔法結界に弾かれる。 驚愕の表情を浮かべたジャスティンとニコラスに、そのまま突っ込んでセバスチャンを横に一薙ぎする。


「うおっ!?」


「あぶな!」


二人は間一髪であたしの攻撃を回避して間合いを取る。 腐っても高レベルってワケね。

アクセルがやっと起き上がって斧を構えるが、その前にメイちゃんが立ちふさがった。


「ざけんじゃねぇ!! 幽甲冑ごときに遅れを取るかよ!!」


不意打ちを受けて、頭に血の昇ったアクセルはメイちゃんに斧を振り下ろすが、メイちゃんは紙一重で避けて逆にアクセルの懐に潜り込み、華麗にジャブを数回胴体に叩き込んだ。


「グエッ!?」


アクセルも頑丈な鎧を着込んでるお陰で、大きなダメージには成らなかったみたいだけど、拳の衝撃を完全には消せなかったみたいで、メイちゃんから一旦距離を取って連続で斧を繰り出したけど動きが少し鈍っているみたいだった。


もちろん、あたしもメイちゃんに見とれてたワケじゃない。 ゴツい両手剣に見えるセバスチャンを素早く連続で繰り出すあたしに、ジャスティンは戸惑いながら防戦一方になって行く。

ニコラスは距離を取って弓を構えたが、ジャスティンに誤射する可能性があるからか、狙いを付けられないでいるみたいだ。


セバスチャンとメイちゃんのサポートがあるとは言え、互角以上にベテラン三人組に渡り合えている。

いける! と思ったあたしの慢心が一瞬の隙を作ってしまった。


「なめんなゾンビ女!」


ジャスティンはあたしの横薙ぎの一閃を屈んでかわすと、ローからの脚払いであたしを転ばせた。


しまった!


素早く立ち上がったジャスティンが、剣を逆手に持ってあたしの胸に突きたてようとする。 あたしはセバスチャンを短剣位の大きさに縮めながら、横に転がってかろうじて剣を避けた。


マズい、この体勢では起き上がる間に突き刺されてしまう。

メイちゃんはアクセルと一歩も退けない攻防中で、あたしのサポートどころじゃない! 一体どうしたら……


転がりながら連続で突き立てられるジャスティンの剣を避けているあたしに、一筋の光明が見えた!


「これだ!」


あたしは転がりながら半身だけ起き上がってセバスチャンを、ニコラスに向かってブン投げた。

ニコラスは慌てて飛びのくが、狙いはあの変態じゃなくて一筋の光明、つまり……足元の松明!!


バシュッ!!


大きな音を立ててセバスチャンは石畳に突き刺さり、衝撃で松明が吹き飛んで明かりが消えた。


「しまった!」


明かりが消えてジャスティン達が狼狽した声を上げた。 これで、アイツらは物が見えなくなったけど、

あたし達はそうじゃない!

あたしはすかさずジャスティンの股間を蹴り上げて、あいつが股間を押さえてうずくまった間にセバスチャンを回収して、ジャスティンの首筋に当てた。


「グエッ!?」


同時に、メイちゃんがアクセルのアゴに手のひらの付け根の部分を叩き込んだ。 アクセルは、後ろにブッ倒れて動かなくなった。


「さて? あたしたちの勝ちみたいだけど? 肥やし臭い田舎娘のゾンビに自分の企みを台無しにされた気分はどう?」


あたしは勝ち誇ってダグウェルに言ってやった。 でもあいつは全く動じる事無く気だるげに溜息を吐くだけだった。


「無様な。 数々の失態の上にゾンビ如きに負けるとは……もういい、余興は終わりだ。 始末しろ」


え?


ダグウェルが言い終わるのと同時に、ジャスティンのこめかみに矢が突き刺さってジャスティンは物も言わずに石畳に倒れこんだ。

顔面から石畳に倒れたにも係らず微動だにせず、じわじわと血が周囲に広がっていく……


即死みたいだ。


あたしは驚いて、矢が飛んで来た方を見た。

矢を放ったのは……いつの間にか奇妙な形のゴーグルを装着したニコラスだった。 仲間を撃ち殺したのに、相変わらずの笑みを浮かべていた。


「悪く思わないでください、ジャスティン。 さっき言ったでしょう? 今までの方法で女を攫うのは潮時だって」


矢筒から矢を取り出して、再び弓につがえる。 弦を引き絞りながら、楽しそうに嗤って台詞を続けた。



「だから、どの道お前らはここで用済みだったんです」

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