三人の外道と闇妖精
「アイツら……」
ジャスティンにアクセルにニコラスの三人組……あたしを陥れて、売り飛ばそうとし、挙句にあたしがゾンビ化する事になった元凶。 まさか、こんな所で……
連中は、呆然として身動きも出来ずに固まってるあたしに気付く由も無く、無駄話を続けていた。
「そろそろ、この手段で女を攫う手も潮時ですかね」
ニコラスの台詞にアクセルが同意する。
「だな。 ギルドの新人育成制度を利用して、新米をダンジョンで確保するってお前のアイデアは中々良かったけど、いい加減怪しまれ始めてるしな」
ジャスティンも頷きながら言う。
「今までは、“育成が恐ろしく下手なベテラン”で誤魔化せたが、一緒に付いた新人が毎度消えてれば……な。 この手段はコイツで手仕舞いにして、新しい手を考えないとな」
三人組に気を取られて気付かなかったけど、アイツらの足元にローブ姿の女の子が縛られて転がされていた。 猿轡を咬まされて、涙の滲んだ怯えた目でアイツらを見上げている。
「なぁ、縛られたままなら、前みたいに逃げられようが無いしちょっと楽しまないか?」
アクセルが下卑た表情でその娘を眺めながら提案するが、ジャスティンが却下する。
「やめとこうぜ。 前回、獲物に逃げられて依頼人はかなりイラついてる。 ここで傷モノなんか納品したら、今度こそ契約を切られるぞ」
前回の獲物って、あたしの事か!! 怒りで拳が震えたが、グッと我慢してもう少し様子を見ることにした。
「でも、この怯え切った表情は中々にそそりますね。 仕事じゃ無ければ念入りにいたぶって遊びたい所なんですがね。 ウフフフフフ」
ニコラスの下衆野朗が、女の子の前にしゃがみ込んでナイフでその娘のお尻を軽く突っつく。 くぐもった泣き声を上げながら身体を捩じらせるその娘の反応をみて、三人は酷薄な笑みを浮かべた。
……アイツら!!
我慢できずに飛び出しそうになったあたしを、セバスチャンが小声で制した。
「お待ち下さいお嬢様! 魔力の増大を感知致しました。 あの部屋に何者かが転移して来ます!」
セバスチャンの言葉が終わらない内に、部屋の中に雷みたいな白い光が一瞬走ったかと思うと、まるで魔法みたいに……って、魔法か。 とにかくアイツらの前に、三人の人物が忽然と現れた。
闇妖精族……
青みがかった黒い肌に長く尖った耳、女みたいな端正な顔だけど切れ長の冷たい眼や、薄い口元に冷酷な正確が伺える。 銀髪を腰まで伸ばして黒いローブの上から、気味の悪い装飾入りの肩当の付いたマントを羽織って、自分の身長ほどもある紅い杖を手にしている。
その姿は、おとぎ話や絵本なんかで定番の悪役である、魔貴族の姿その物だったけど本物を見るのは初めてだった。
その後ろに立つ二人の人物は、メイちゃんに良く似た揃いの黒い鎧の人物で、メイちゃんとは鎧のデザインが違う物の彼女と同じ幽甲冑であると判った。
揃って片手剣を腰から下げて、丸い盾を持っている。 その盾には、黒い三本の首を持つ竜の紋章が描かれていた。
あれって、闇鬼畜族が持ってたメダルと同じ紋章。 じゃあ、あの闇妖精族が件の魔貴族なんだろうか……
「これはダグウェル様。 この様な場所に自らお越しとは」
ジャスティンがダグウェルと呼んだ闇妖精族に恭しく挨拶をして、他の二人もそれに倣う。 ダグウェルは挨拶を無視して、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「フン、ここの所まともな商品を送って来ないのでな。 直々に品定めにやって来たまでだ」
「申し訳御座いません。 ここの所、商品の確保に手こずっておりまして……」
あの傲慢だったジャスティンが、ダグウェルに対しては卑屈に近いほど恐縮した物腰で接している。 後ろの二人も緊張している様だ。
「前々回は死にかけの傷物を寄越してきて、前回は直前で逃げられたとの言い訳。 私の忍耐を試しているのかと思ったが、ようやくまともな商品を用意出来た様だな」
「申し訳ございません!!」
三人が地に着かんばかりに頭を下げる。 アイツらは確かに下衆だったけど、一応腕の立つ冒険者だった。
それがまるで、鬼畜族の子分の小鬼族みたいにペコペコしていた。 あの魔貴族は、きっとかなりの強さなんだろう。
「……仕事の不手際も問題だが、大きな臭いネズミがさっきからコソコソしていると言うのに、それに気付かないのも問題だな」
ダグウェルは、不機嫌な表情のまま紅い杖を軽くかざす。
次の瞬間あたしの周りの空間に火花が散ったかと思うと、あたしは轟音と共に爆炎に包まれた!
「なっ!?」
驚くジャスティン達に、ダグウェルはまた不機嫌そうに軽く溜息を付いた。
「あんな悪臭を放つネズミにも気付けないとは、お前たちを買いかぶっていた様だな」
「言ってくれるじゃない! だれが悪臭を放ってるって!?」
あたしは部屋の中に一歩踏み込んで、ダグウェルに啖呵を切った。 まさか隠れて居たのに気が付いて、いきなり魔法を撃って来るなんてセバスチャンの耐魔法結界が無かったら、本当に危ないところだった。
「まったく死ぬかと思ったわ……って、死んでるか」
焦げ後一つ無く軽口を叩くあたしに、ダグウェルは少し驚いたかの様に眉根をピクリと動かした。
ジャスティン達はもっと驚いて、まるで幽霊でも見たみたいに口をあんぐりと開けていた。 まあ、幽霊じゃなくってゾンビなんだけどね。
「お前は……」
ジャスティンがようやく声を絞り出して言った。
「シヌルじゃないか! ……生きていたのか!?」
「シヌルじゃ無くて、シンダじゃありませんでしたっけ? それに“生きては”いない様ですよ」
コイツら……あたしは怒りに駆られて、セバスチャンを構えながら三人組に怒鳴り返した。
「あたしの名前はシネルよ! よくもあたしを騙して売り飛ばそうとしてくれたわね!! 絶対に許さないから覚悟しなさい!!」




