死に至る逃走
初めて投稿します。至らない点も多いと思いますが、楽しんで頂ければ幸いです。
R15、グロあり、主人公の一人称視点です。
更新は不定期になると思います。
記述の一部を変更しましたが、ストーリー上の変更は御座いません(7/8)
助けて、助けて、助けて……
あたしは松明の明かりだけを頼りに、一人で地下迷宮の通路を丸腰で走っていた。 武器も無い、盾も無い、迷宮脱出用のアイテムもない、防具は……ビリビリに破れた服をそう呼んで良いなら付けて無くはない。
出口は…出口はどこ?
そもそも、ここは迷宮のどの辺りなのだろう? 石の壁には恐ろしい地獄絵図がレリーフで刻まれ、等間隔に並ぶ石像はどれも恐ろしい悪魔の姿をかたどっている(ガーゴイルって言うんだっけ?)。 ここでは地下深くに行くにつけ、虚仮威しの装飾が増えるってアイツは言ってた。 じゃあ、ここはかなり奥の方?
怖い…
出口の判らない迷宮を出鱈目に走っている。 ずっと真っ直ぐ走ってるとアイツらに見つかるかもしれないので、通路が分かれていたら当てずっぽうに横道に逃げ込む。 この道が出口に通じてるかなんて判らない。 それどころか、もっと奥に迷い込んでいる最中なのかもしれないし、最悪の場合モンスターの巣に飛び込んでしまうかも知れない。
モンスター……
この迷宮に来て、今までに出会ったのは小鬼族や鬼畜族みたいな下っ端の魔族か、ゾンビや大ナメクジ位の、ベテラン冒険者なら雑魚と呼ぶ程度のモノだった。 それでも、あたしにとって初めて見るモンスターは、とても荒々しくて怖かった。
その小鬼族やゾンビに出くわしたのは、迷宮のかなり浅い階だった。 だったら、この奥地にいるのはどんなモンスターなのだろう……
喰人鬼?闇巨人?奇獣?それとも竜?
あたしは頭を振って恐ろしい想像を追い出した。 考えてもしかたない……どこかにいるかも知れないモンスターは確かに怖いけど、後ろからはアイツらが追って来ているのだ。 アイツらはかなり殺気立っていた。もし捕まったら、いっそ一思いにモンスターに喰われた方がマシな目に遭わされるかもしれない。
だったら、やはり逃げ続けるしかない。
でも、通路に響く足音がアイツらやモンスターを引き付けてるかもしれない。 この松明の光はかなり目立っているんじゃないだろうか……
どこかに隠れた方がいいかも知れない……そう思った時、ずっと背後から何人かの足音と、ガシャガシャ言う鎧の音が聞こえて来た。
アイツらだ! もう追って来たんだ!
あたしは後も見ずに、全力で走り出した。 もう息は絶え絶え、逃げ足も衰えてる。 頼りの松明も短くなってきてる。 お芝居ならそろそろ助けに来てくれるハズの騎士様や勇者様もいない!
神様、神様、神様聞いてますか? 聞いてください、お願い! 聞いて! あたしは確かに信心して来なかったけど、こんな目に遭うほど悪い事はしてきませんでした! ……そりゃ、小さい時に祭壇のお供えをつまみ食いとかはしましたけど!
でも、これっていくら何でもヒドイです! そんなに大それたお願いをしたワケでも無いつもりです!ただ冒険者になって、ちょっと宝物とか見つけてそれでお姫様とは言わないまでも、お嬢様って呼ばれるような暮らしがしたかった! それって、そんなにいけないお願いですか!?
だったら、それでも良いです! でも! 助けてください!! せめて、アイツらから逃がしてください! 迷宮から出してください!!
あたしは神様に愚痴混じりのお願いをしながら半泣きになって通路を突っ走った。 すると、唐突に通路が終わって広い部屋に出た。 今入って来た入り口をの反対側の壁には、上に昇る石の階段が見えた。 後ろの足音とガシャガシャ音は益々大きくなってくる。 いくつもの怒号と、あたしの名を呼ぶ声が聞こえてきた。 あの声は間違いなくアイツらだ。
迷うことはない! あたしは階段に向かって駆け出した。 上に昇れば少しは地上に近づくはずだ。神様ありがとう! やっと運が向いてきた! あたしは階段にたどり着き……次の瞬間、全身が浮き上がる様な感覚を覚えると同時に視界が暗転した。
…えっ?
と思った次の瞬間、視界が白い光に満たされた。 一瞬目がくらみ、すぐに周りが見えてきた。 …あたしは宙に浮いていた。
ここは天井の高い円形の大広間みたいだった。
ドームみたいになってて、下には石畳の床。 広間の周囲には、幾つかのぼんやりした白い光を放つ何かがあって、それが明かりになってるみたいだった。 あたしは、そんな広間の天井あたりから宙に浮く感じで床を見下ろしていたけど、すぐに自分が落とし穴に嵌って、更に下の階のこの広間に落ちてきて、今まさに床に叩きつけられる寸前なのだと覚った。
って言うのにずいぶん余裕だな、あたし……
そう言えば、昔冒険者の人が教えてくれたっけ。 人間は「もうダメだ!!」って言うような絶体絶命の状況に陥ると、周りの時間が止まった様にゆっくり感じるって。 まあ、間違いなく絶対絶命だよね。 あたしは自分が叩きつけられる予定の床を諦め気味に見下ろして……そこにある物を見つけて完全に絶望した。
剣!?
そこには大きな黒い剣を持ったこれまた黒い鎧が、ご丁寧に切っ先を上に向けて剣を掲げ持った姿勢で鎮座していた。 ……よりによって私の真下に! そんなにあたしがキライなのか神様!?
止まっていたかの様に思えた時間がゆっくりと動き出す。 あたしは次第に加速しながら剣に吸い込まれるように落ちていく。
終わった……
あたしはどこか他人事の様に自分の命を確実に奪うであろう黒い剣を見下ろした。 刀身は広間の明かりを受けて、黒い水晶みたいに艶やかに煌いている。
……綺麗。
まあ、せめて高価そうな剣に貫かれて死んだほうが、モンスターのエサかアイツらの餌食になるよりは遥かにマシよね。
そのままあたしは目を閉じて、最後の瞬間を迎えようとした。 でも、目蓋の裏に幾つもの過去の情景が浮かんできて、まったく集中できない。 ああ、そう言えばあの冒険者はこうも言ってたっけ。 「人間、死ぬ間際にはそれまでの思い出が一度に浮かんで来る」って。
ああ、どうしてこんな事になったんだろう……
剣に貫かれる最後の瞬間、世間知らずで馬鹿な新米冒険者だったあたしは、こんな結末を迎えるハメになってしまった顛末を次々と思い出し始めていた。