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美しい兄妹

 さて。

 あるところに、とても美しい兄妹がおりました。その美しさは男女を問わず惹きつけ、ため息をつかせ、いつどんなときでも人目を釘づけにしてしまうほどでした。勿論もちろん、ふたりともが自分たちの美しさを自覚しており、それを鼻にかけてはばからないのでした。

 あるとき、森でひとりで遊んでいた妹のもとに、ふたりの評判を聞きつけた女がやって来ました。みすぼらしい老婆の様相ようそうをした女は、花を摘んでいる妹へ問いかけます。

「娘さんや」しわがれた声で、老婆は言います。「娘さんは、この世で最も美しいのは何だと思うかね?」

「さあ、そんなものは知らないわ」妹は答えました。「でも、この世で最も美しい人なら知っているわ。最も美しい男性なら私の兄さん、最も美しい女性ならこの私よ」

 妹の高飛車たかびしゃな物言いに、老婆は思わず声を上げて笑いました。

「何よ、何がおかしいの?」

「いや、お前さんのその自信がおかしくてね。確かにお前たち兄弟は、今は最も美しいのかもしれない。けれど、それも今のうちさ。お前たちが若いだけなのだ。年を取ってしまえば、お前たちもしわくちゃでみにくい老人と老婆になるのさ」

 老婆の言葉に、妹はむっとして言い返しました。

「そんなはずはないわ。私たちは年を取ってもこの世で一番美しい。そうに決まっているもの」

「決まっているものかね!」老婆は大声で笑います。「その証拠に、私をよぅく見てみるといい。今でこそ私はこんなしわくちゃの婆さんだがね、若い頃はお前さんなんか比べ物にならないくらいそれはそれは美しく、この世に並ぶものないとまで言われたものだったのさ! それがどうだい、百年も経てばこんなものだ」

「そんなはずがないわ!」今度は妹の方が、老婆を指さして笑いました。「そんなにしわくちゃで醜いあなたが私より美しかったなんて、絶対に在り得ないわ! あなたみたいなお婆さんは、生まれたときからずっとしわくちゃだったに決まっているもの!」

 これを聞いた老婆は、いたく激怒しました。杖を握る手をぶるぶると震わせながら、地の底から響くような声で言い放ちます。

「全く身の程を知らない娘だ! 傲岸不遜ごうがんふそんはなはだしい、思い上がった愚かな娘め! そんなに美しさが大事なら、永遠にそのままでとどまっているがいい!」

 言うなり老婆は杖を打ちふるい、妹に魔法をかけました。何と老婆は魔女だったのです! 魔女の手によって時を止められてしまった妹はその場に崩れ落ち、二度とは目覚めることのない眠りに落ちてしまいました。

 これを知って驚いたのは、妹を探しに来てようやく眠っている妹を見つけ出した兄です。

「何てことだ、妹よ!」妹を抱きかかえ、天を仰いだ兄は大いに嘆きました。「悪い魔女に魔法をかけられたなんて! 折角せっかく美しいお前でも、起きて笑っていなければただの人形と変わりないじゃないか! ああ、だから頼むから妹よ、どうか目覚めて私に再び笑いかけておくれ!」

 兄は妹を目覚めさせるために方々ほうぼうへ駆け巡りました。著名な医者に頼りましたがすぐにさじを投げられました。偉大な祈祷師きとうしを尋ねましたが手も足も出ませんでした。それでも兄は八方手を尽くしましたが、妹は全く目覚めませんでした。

 とうとう兄は意を決して、妹に魔法をかけた魔女のもとを訪れました。

「ああ、魔女よ、妹の非礼は兄である私がお詫びします」泣く泣く兄は魔女にすがりつきました。「だからどうか、妹の魔法を解いてください!」

「やなこった」しかし、魔女はそっけなく断りました。「老いを認めない娘なんざ、そんな具合ぐあいがお似合いさ。永遠に美しいままなのだから、その娘もさぞかし嬉しいだろうよ!」

「そんなことはありません。眠ったままでは美しくても仕方がありません。私は妹の笑った顔が見たいのです!」

 断っても追い出しても諦めずすがりついてくる兄に、とうとう魔女は根負けしました。

「わかった、そこまで言うのなら仕方がない」魔女の杖を振るって、荒々しく言い放ちます。「だが勿論、タダで魔法を解いてやるわけにはいかない。交換条件さ!」

「覚悟の上です。どんなものでも差し上げます!」

「いい心意気だ」魔女は言いました。「ではお前の美しさを全てもらおうか!」

 魔女の言葉に、思わず兄は息を呑みました。美しさを全て奪われてしまえば、兄はこれまでの全てを失ってしまうことになります。ああ、今まで美しさのお陰でどれだけのいい思いをしてきたことでしょう! 兄の胸中きょうちゅうを様々な思いが駆け巡ります。

「わかりました」しかし兄は、長く考えることなく言いました。「私の美しさを全て持っていって構いません。ですからどうか、必ずや妹を目覚めさせてくださいませ!」

「いいともさ。約束だ」

 魔女は軽く頷くなり杖を荒々しく打ちふるいました。

 そうして、晴れて妹は目覚めたのでした。

「あら、私ったらどうしていたのかしら」

 ベッドの上で身を起こすなり、妹は目をこすりながらいいました。

「何だか長い夢を見ていたみたい。兄さんはどこ? ねえあなた、私の兄さんを知らない?」

 妹は枕元でじっと妹を見守っていた老人に問いかけました。

 老人は口を開いて何かを言いかけましたが、やがてうっすらと微笑みました。

「お前の兄さんはね」老人は言いました。「魔女の魔法を解く方法を探しに出て、それっきり戻ってこないよ」

「まあ、そうなの? 私はもう目覚めてしまったのに。旅に出る必要なんてなかったのよ、バカな兄さん!」

 きゃらきゃらと妹は笑いました。その笑顔をじっと見つめてから、老人はそっと立ち上がりました。

「ねえ、どこに行くの? それに、あなたは誰?」

「私は」老人は振り返らずに答えました。「もう誰でもない老人だよ。お前の知らない老人だ。ああ、願うなら、どうか自分の美しさを鼻にかけないで。静かに、そうして幸せにおなり」

 そう言い残して、見る影もなくしわくちゃとなった老人は部屋を出て行きました。

 それ以来、妹はひとりでつつましく一生を終え、老人の姿を目にしたものは誰もいなかったのだそうな。


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