64/70
口いっぱい
さて。
あるところに、ちょっとだけ意地汚い嫁がおりました。あるときこの嫁が、祝い事の際にこさえた饅頭を皆に内緒で盗み食いしておりますと、折り悪くちょうどそこに姑がやって来ました。慌てた嫁は口いっぱいに饅頭を頬張ると、素知らぬ顔で姑の前に出ます。しかし姑が何と声をかけても、嫁は目をきょろきょろとさせるばかりでうんともすんとも答えません。それもそのはず、口いっぱいに饅頭を詰め込んでいるのですから、答えられるはずもありません。しかしそうとは知らない姑は、嫁が口のきけなくなったものと心配し、祈祷師を呼んで嫁に憑りついた悪いものを払ってくれるよう頼みました。
嫁を一目見た祈祷師は話を聞くと、重々しく頷き、屏風で四方を囲むと親族一同に決して覗いてはならないと厳命し、嫁とともに立てこもりました。
そうして視界を切った上で、祈祷師は手に持った幣をそれらしく振り回しながら、もごもごと饅頭を咀嚼する嫁に向かって「今のうちに早く呑み込め」と祈り、その甲斐あってかようやく嫁は晴れて無事に、再び口をきけるようになったということです。




