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絵に描いた龍虎

 さて。

 あるところに、絵の大層上手な小僧がおりました。小僧は大変上手に絵を描くのですが、いかんせん描く場所を選ばず、寺の柱やふすまなど至るところに好き勝手に描くもので、和尚おしょうはほとほと手を焼いておりました。

 あるとき、和尚のもとへ殿様の使いがやって来て、相談事があると言いました。何でも、殿様が遠方より譲り受けた襖に描かれた大虎が、夜な夜な抜け出して暴れるため、殿様ほか城の者たちが安心して眠れないので何とかしてほしいとのことでした。和尚はこれを引き受け、小僧をつかわせることにしました。絵の獣の恐ろしさを知れば、小僧も好き勝手な場所に描き付けることがなくなるだろうと考えたのです。

 城へ招かれた小僧は、早速その大虎の描かれた部屋へ通されました。そこでひとり待っていると、話に聞いていた通りに大虎は絵から抜け出して、のしのしと歩き回っては大きくえます。これは凄い、と小僧は眺めておりましたが、頼まれているのはこの大虎をどうにかすることです。小僧は少し考え、はたと手を打ちました。

「ちょっと待っていてください」小僧に気付いて牙を剥いた大虎を手で制して、小僧は筆を持ちました。「すぐに済みますから」

 言うなり小僧は、大虎の収まっていた襖の反対側の襖に、さらさらさらさらと大きく絵を描きつけました。できあがりましたこちらは、嵐を引きつれる大龍おおりゅうです。

 描き上がるや否や、大龍はこちらもぬっと襖から頭を出して、大虎をひたりと睨みつけました。これには大虎も安易に動けず、じりじりと後ずさるともとの襖に戻ってしまいました。

 翌朝、成果を褒め称えられた小僧は得意げに菓子を頬張りながら、

「古来より龍虎りゅうこ相搏あいうつと申しますから。対岸に龍の御座いますれば、さしもの虎も軽々けいけいには動けますまい」

 この功でたくさんの褒美を持ち帰った小僧は、その後も調子よく寺中に絵を描きつけ続け、強く言えなくなってしまった和尚の頭を悩ませ続けましたとさ。


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