狸の巣にはちひき
さて。
あるところに、ふたりの男がおりました。このふたりの男が言い争いをしております。
「本当だって。おれは見たんだ」顎の長い男が言いました。「狸の頭に烏が巣を作ってたんだ。本当だぜ」
「嘘に決まってら、バカバカしい」眉毛の濃い男が鼻で笑って言い返しました。「そんなことがあるものか。もし本当にそんなことになっていたなら、おれはお前に八匹の馬をくれてやる」
眉毛の男の言に、よしきたとばかりに顎の男が眉毛をとある田んぼにまで連れて行きました。しかし見渡す限り狸の姿などどこにもなく、ただ田んぼの真ん中に細い木がぽつねんと立つばかりです。やっぱりと笑う眉毛に、顎が勝ち誇ったように笑いながら田んぼの木を指さしました。
「あれをよく見てみろ。あの木のてっぺんに、確かに烏が巣をかけている。どうだ、恐れ入ったか」
「何をバカなことを言っている。どうやら確かにあの木のてっぺんには烏が巣をかけているようだが、狸の頭では全然ないじゃないか」
眉毛の反論に、しかし顎は全く応じません。
「何を言う。俺は初めから確かに田の木の頭に烏が巣を作っていると言っていた。なに、狸の頭だ? 聞き違えも甚だしい。さあ約束通り、馬を八匹もらおうか」
いちゃもんを付けられた眉毛は憤慨しましたが、聞き違いだと言い張られてはどうにもできません。約束は約束です。ぷりぷりしながら眉毛は家に帰り、嫁に事の次第を説明しました。
「何て約束をして来たんだい、このバカな男は!」眉毛を張り倒して嫁は怒鳴りました。「だがあっちがそう言い張るのならこっちにも手はあるというものだ」
そう言って、嫁は眉毛に耳打ちしました。
さて約束の引き渡しの日、待ちかねる顎のもとに眉毛が連れてきたのは、やせ細って弱々しい馬が一匹だけです。これに顎が憤慨しました。
「約束が違うじゃないか! お前は馬を八匹と言ったはずだ。それがたったの一匹で、しかもこんな駄馬だとは!」
しかし眉毛は全く慌てず、嫁に吹き込まれた通りに勝ち誇ってみせます。
「いやいや、おれははちひきの馬と言ったはずだ。見ろ」
眉毛が指さす先、駄馬の脚に結わえられた縄の先には、これもまた古い鉢が曳かれておりました。
「おれはちゃんと約束通り、鉢曳きの馬を連れてきたぞ。なに、馬が八匹? 聞き違えも甚だしい。さあ約束通り、これを引き取ってもらおうか」
とんだお荷物を引き渡された顎は、地団太を踏んで悔しがったということです。




