木魂報恩
さて。
あるところに、とても貧しい母子がおりました。父が早くに亡くなったため、ふたりはともに日々働き、細々と暮らしておりました。
自分たちが食っていくことも満足にできない生活ながら、娘は粗末な家の近くに立つ古い大木に毎日供え物を欠かさず、自分たちの大過ない暮らしを祈っておりました。母はそれを知りながら、娘の信心深さを知っていたので黙って見逃しておりました。
あるとき、新たな船を造ろうと考えていた殿様が、この大木を見つけ、ちょうどいいと喜んで切り倒してしまいました。娘はとても悲しみましたが、殿様の命ではどうにもできません。大木が刈り倒される様を黙って見守っているしかできませんでした。大木が失われた後も、娘は細々と、その切り株に供え物を捧げ続けました。
一方、大木を使って見事な船が出来上がりましたが、いざ進水しようとしても船は陸地からどうにも動きません。国中の力自慢が総出になって頑張ってみても、うんともすんともいいません。とうとうどうしようもなくなった殿様は国中に、この船を進水させてみせたものには莫大な恩賞を与えるとのお触れを出しました。
この話を聞いて、その船とはあの大木を使って造り上げたものに違いないと思った娘がひとり、名乗り出ました。
貧しい生活からやせ細っている娘が、この巨大な船を動かせるはずがないと誰もが思っておりました。しかし、娘が船に近寄り、そっと手を触れるだけで嘘のようにすんなりと、自ら船が浜を滑り出し、見事進水してみせました。
この功で、約束通り母子は殿様から莫大な恩賞をもらい、末永く幸せに暮らしたということです。




