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歳暮の筍
さて。
あるところに、長介という貧乏な男がおりました。年の暮れ、知り合い近所に歳暮を配らなければならないのですが、長介は貧乏なので用意できません。ようやく見繕えたのは、筍が一本でした。しかし知り合い近所は数十あり、とても筍一本では足りません。もし歳暮を配らなければ、新年から食べ物を分けてもらうことなどができなくなります。どうしたものか、と長介は一策を講じることとしました。
まず隣へ筍を持って戸を叩きます。顔を出した隣人へ筍を差し出しながら。
「お歳暮です。これをどうぞ……うちの便所に生えていた物ですが」
一度は受け取りかけた隣人は、それを聞いて慌てて手を引きました。
「便所に生えていた筍だって!? そんなもの、受け取るわけがないだろう!」
差し出した筍は押し返されてしまいました。
次の隣の家でも同じやりとりを繰り返し、その隣も、そのさらに隣でも同じことを繰り返し、とうとう全ての家を回り終えました。
「ふうやれやれ。ようやく今年も終わったな。筍で鍋でも作るか」
そう言って、一本の筍だけで歳暮をやり過ごした長介はひとりで筍鍋を食べたんですとさ。




