目を入れてはならぬ
さて。
あるところに、何事にもきっちりしたい小僧がおりました。万事綺麗にしたい小僧は寺を毎日隅々まで掃除しておりました。
ところで寺には立派な屏風があって、そこには実に見事な龍が描かれておりました。しかしながら唯一、龍には目が入れられておりませんでした。小僧はどうしてもそこが気になって、何度も和尚に目を入れるよう頼み込むのですが、和尚は決まって「決してあの龍に目を入れてはならない」と強く言うのでした。
ある日、和尚が法事でしばらく留守にすることになりました。寺には小僧がひとりだけです。これが好機だと小僧は喜び、和尚が外出するのを待つと早速墨と筆を持って屏風に向かいました。
改めて見ると実に立派な屏風です。描かれた龍は瑞々しく、猛々しく、今にも屏風を飛び出して踊り出しそうですらあります。きっと名のある名匠の筆によるものであるに違いありません。だからこそ、より一層目が入っていないことが堪えられないのです。
しばし見惚れていた小僧は、意を決して墨をしっかりとしみ込ませた筆で、やあとばかりに龍に瞳を入れました。
するとどういうことでしょう、目が入った途端に絵の龍がうねり出し、ごうっと屏風から飛び出してきたかと思うと、暴風と雲を巻いてあっと言う間に空高く何処ともなく吹き去っていってしまいました。圧倒された小僧は為すすべなく見送るほかありませんでした。
数日後、小僧は帰ってきた和尚に、だからあれほど言っていたのにとこっぴどく叱られてしまいましたとさ。
画竜点睛、ですね。




