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沢庵船
さて。
あるところに、酒場で自慢話をしている男ふたりがおりました。
「俺はな」一方の熱燗を呑んでいる男が言います。「百人の鬼と腕相撲をして勝ったことがある」
聞いている焼酎を呑んでいる男は、にやにやと笑います。
「へえ。そいつは大したもんだが、鬼を百人もどこで用意したんだい」
「そりゃあ鬼ヶ島に決まっている。あそこには鬼がたくさんいるからな」
「そうかい」次は自分の番だと、焼酎の男が口を開きました。「俺は天竺に行ったことがあるぜ」
「へえ、天竺。船でか。そんな金がどこにあったんだ」
「金はない。だから仕方なく、でかい大根をくりぬいて船にして行ったのさ」
「へえ。土産は何を持っていった」
「特になかったな。船が用意できないんだから、土産なんて見繕えるわけがねえ」
「なんと、天竺まで行って土産もなしか」
「だが船には石と米糠をたんまり積んでいった」
「そんなものを積んでいってどうするんだ。まさかそれを土産だとでも言ったのか。それじゃあさしものお釈迦さまもお怒りだったろう」
「まさか。大根の船に石と米糠を積んでいったんだからな。天竺に着くころにはうまい具合に沢庵になってるんだ。それを刻んでお釈迦さまにやったってわけよ」




