馬車賃を安く
さて。
あるところに、長介というバカな男がおりました。この日、長介は法事で町まで行っておりましたが、帰りは馬車で帰ることになりました。馬車に乗ることなんて滅多にありませんから、長介は考えます。
「折角馬車に乗れるんだから、目一杯乗ってやらないと損しちゃうな」
帰り支度を済ませると、長介は早速馬車に乗り込み、自分の家の場所を告げました。馬車は動き始めます。
「ところで」道中、長介は御者に訊きました。「なるべく安く乗りたいから、村の入り口で下してもらおうか、それとも家の前で下してもらおうか考えているんだけど、どちらの方が安いだろうね」
御者は答えました。
「どちらも変わりませんよ。その距離なら、村を通り過ぎて森に入るくらいまで全部同じ料金です」
何だって、それはいけない、と長介は考えました。それでは馬車賃を損しているじゃないか。料金分はきっちり乗らないと。
馬車が長介の家の前に着き、止まろうとしたところで長介は御者に言いました。
「まだだ、まだ先へ行ってくれ。この料金で行ける限界まで行ってくれ」
御者は怪訝に思いましたが、言われたとおりに料金分だけ目一杯進めて、森の中まで来てからようやく馬車を止めました。
料金を支払って、長介は馬車を満喫したような顔をして来た道を戻っていきます。
「ここから家へ歩いて帰るんじゃあ、町から歩いて帰るのより遠いんだけどな」
悠々と歩いていく長介の背を見ながら、御者はそんなことを思っておりましたとさ。




