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尻をまさぐられる感じ

 さて。

 あるところに、この世に何も怖いものなどないと豪語して憚らない男がおりました。その男に、ある日友人が言いました。

「お前、常日頃から怖いものなんて何もないと言っているけれども」友人はにやにや笑いながら言います。「果たして本当にそうだろうかね」

 挑発するような友人の言い方に、男は腹を立てて言い返しました。

「当たり前だろう。おれは怖いものなんかない。鬼でも幽霊でも何でも来いってんだ」

「成程、ならば試してみよう」友人は言って、山の上に小さく見える小さなお堂を指さしました。「あのお堂には、夜な夜な見えない物の怪が出るんだそうだ。何でも、取って食われることはないらしいんだが、寝泊まりしている人間を物色するらしい。襲われた者は皆一様に、何だかわからないが尻をまさぐられるような感じがしたと口をそろえるのだそうだよ」

「尻をまさぐられる? 何だそりゃあ」男は大いにバカにして、胸を張りました。「そんなもの、屁でもないね。上等だ、行ってやろうじゃないか。そんでもってその物の怪を踏んじばって連れてきてやるとも」

 早速男はその晩、ひとりで山の上のお堂に入り、大の字になって大いびきで眠り始めました。

 さて真夜中。何か物音がしたような気がして目を覚ますと、闇の中に何かがいる気配があります。さては物の怪だな、と男は内心にほくそ笑みました。さっさと捕まえて連れて帰ってやろう。

 お堂の中は暗く、月明りも差し込みません。それでも男はやあっと物の怪に跳びかかりました。しかしひらりとかわされます。そんな格闘を数度繰り返したところで、物の怪が男の尻にひたりと手を当てました。途端にうひゃあっと悲鳴を上げて、男はお堂を飛び出し、一目散に村まで逃げ帰っていきました。

 翌朝、青い顔をしている男に友人が問いました。

「やあ、昨日はどうだったんだい。その様子では不首尾に終わったようだが」

 友人に、男は震えながら答えました。

「あ、ありゃ何だ。いきなり尻を触ってきやがって。気持ち悪いったらありゃしねえ」

「お前も尻を触られたのか。で、どんな感じだったんだ?」

「な、何と言えばいいのかわからねえんだが……何というか、こう、尻をまさぐられる感じだった」

 自分の尻を撫で回しながら、男はぶるぶる震えておりましたとさ。


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