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流浪する女

 さて。

 あるところに、露店でアンティークを売る古物商がおりました。古物商は道行く先々でいろいろなものを仕入れ、それを遥か離れた町で売るので、それはそれは珍しいものばかりが並べられているのでした。

 その古物商の露店へ、ふとひとりの女が立ち止まりました。並べられている品物を、物珍しげに眺めています。それに気が付いた古物商は、早速揉み手で営業を始めました。

「いらっしゃい、綺麗なお姉さん」古物商は調子よく言います。「どのようなものをお探しですかな」

「いや、別に何かを探しているわけではないのだがな」女は答えました。「随分と珍しいものがあると思って。これは東方の山奥で作られている器だろう。私も昔、足を向けたことがある」

 竹製の器を指して言った女に、ほう、と古物商は感心した声を上げました。

「お客さんもあちらへ行ったことが。へえ。あそこは遠いでしょう、旅のお方ですかな?」

「ああ、ゆえあってひとところに留まれないのでな。もう随分長いこと、旅を続けている」

「へえ。ではあっしの商品なんざ珍しくもないかもしれませんがね……これなんかどうです? さる砂漠の王家に伝わっていたとされる水差しでさあ」

 ガラス製の水差しを手に取って見せる古物商に、軽く手を振りながら女は答えます。

生憎あいにくだが、水差しなど買っても旅の身の上では使い道がない」

「へへ、そうでしたね。ではこれは? この髪飾りなんて、美しいあなたにはよくお似合いでしょう」

 古物商は銀製の髪飾りを出しますが、女はこれにも軽く手を振ります。

「そんな目立つものを身に着けていたら、暢気のんきに夜道も歩けない。……まあ、そもそも私は、自分のための土産が欲しいわけではなくてな。これから昔の友人のところに立ち寄るから、その手土産にと思って。しかし彼女には水差しも髪飾りも間に合っているようだ」

「成程、そいつぁお目の高い御友人であらせられるようだ」頷いた古物商は、おもむろに商品裏の箱を漁ったかと思うと、布の巻かれた大きく四角いものを取り出しました。「それじゃあこいつがとっておきでさあ。御友人もきっと喜ばれる」

「ほう、それは?」

「あっしが西方の田園でんえん地域を旅していたときに、偶然立ち寄ったさる大貴族の家宝のひとつとして、五千年ほど飾られていたという、初代貴族令嬢の御尊顔でさあ。何でもその大貴族、とうとう没落しちまってお屋敷も家宝も全部売り払って一家離散とかいうことで、あっしがひとつ買い取らせてもらいやしたのよ」

「成程、没落。それは残念な話だな」

 言葉とは裏腹に、女は淡々としています。そんなことには全く構わず、男はここぞとばかりに女に顔を近づけました。

「しかしその大貴族、ただの貴族じゃあありませんで。何でもその地方には大昔から代々語り継がれる伝説がありましてな。旅に明るいお客さんなら、ひょっとすると小耳に挟んだこともあるやもしれません」

「さて、どうだろうな。伝説? それはどんな伝説かな」

「へえ、その伝説というのは、何でも不老不死になる秘密の技法が、その地方には存在したというお話で。残念ながらその詳細までは伝わってないらしいのですが、たったひとりだけ、その不老不死になる技法に成功した奴がいる、と」

「ほう。して、それは?」

「それがこの絵に描かれている、某大貴族の初代御令嬢なんでさあ!」

 勢い込んで売り込みにかかり、男は布を大きく取り払いました。その下から現れたのは、確かに大判の一枚の絵画です。ひとりの女性が描かれています。

「その伝説には続きがありましてな。その貴族令嬢は不老不死になった後、一族を繁栄させたんですが、不老不死のお陰でいつまでたっても若く美しいままだったんで、気味悪がった一族の者たちに追い払われてしまったんですとさ。この絵はその直前に描かれたものなんですがね。その令嬢は今でも、全く変わらない容姿によってひとところに留まることを許されず、この世界のどこかを彷徨さまよい続けているんですとさ! しかし見て御覧なさい、お美しいお顔でしょう」

 ばっと絵の中の女性を指して、古物商は言います。

「実にお美しいお顔だ。こいつも不老不死の技法のお陰なんでしょうかね。こんなお顔、一目見たら決して忘れられないでしょうよ! しかもまだどこかで生きているというのだから、きっとこの絵からそのまま抜け出てきたかのような美しい女が、女、が……」

 ふと何かに気が付いたように、古物商は動きを止めました。それから絵を見て、次いで食い入るように客の顔を見ました。何度も何度も絵と客とを見比べ、みるみるうちに青ざめていきます。

「どうした?」

 客の言葉に、古物商はしどろもどろになっています。歯の根が合わないほど震え、脚もがくがくしています。

「い、いやあ、その……」

 すっかり怯えきってしまっている古物商を見て、面白がるように笑いながら、女は言いました。

「成程、面白い話だった。気に入ったよ、その絵を一枚いただこうか」

 言うと、女は古物商にお金を渡し、布を巻き直した絵を小脇に抱え、街道の人ごみのなかに紛れていきました。

 後に残された古物商は魂を抜かれたような顔で、全くその絵から抜け出してきたような女をただ見送ることしかできませんでしたとさ。


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