鬼の面
さて。
あるところに、とても手先の器用な女がおりました。女は細工を得意としており、あるとき評判を聞きつけた町の長者の依頼で鬼の面を作っておりました。女は丹念に丹念に、一月かけて作り上げました。
完成したそれを、女は町まで持っていかなければなりません。風呂敷に面を包むと、女は早速朝早くに村を出ました。途中の峠には化け物が出るという噂でしたが、面を丁寧に作っていたため思っていたより時間がかかってしまい、一刻も早く長者へ届けなければならないところです。女は一心に町を目指しました。
しかし、女の足では村から町までは遠く、ようやく最後の峠へさしかかる頃にはすっかり日が暮れておりました。しかも運の悪いことに、この峠は件の化け物の出るという峠です。女は心もとない朧げな提灯を頼りに、急いで歩いていきます。
と、不意に闇の中で茂みがざわついたかと思うと、とても低くおどろおどろしい声が響きました。
「そこのお前。止まれ。止まらなければ今すぐに食ってやる」
食ってやると言うからには、化け物であるに違いありません。慌てて女は立ち止まりました。その女の前にぬっと姿を現したのは、ただでさえ頼りない提灯では腹のあたりまでしか照らし出せないほど大きな化け物でした。
化け物は女を見下ろして言います。
「こんな時間にここを通るとはいい度胸だ。おれに食われる覚悟はできていると見える。――しかしおれは男は食わん。筋張っていて不味いからな。だからお前が女なら食う。しかしおれは目が弱いからその提灯ではお前がよく見えない。お前の顔をもっとよく見せろ」
女は内心に慌てました。じっくりと顔を見られては、男と装うこともできません。このままではこの化け物に食われてしまいます。そこで女ははたと思い付き、化け物の顔が近づいてくる間に風呂敷を開くと、大急ぎで面をかぶりました。
驚いたのは、顔を近づけてまじまじと女の顔を見た化け物です。朧げな提灯の明かりに下から照らされ浮かび上がるのは、血の気の引くほど恐ろしい鬼の顔ではありませんか。ぎゃあ、鬼だ、と化け物は悲鳴を上げ、闇の中を一目散にどこへともなく逃げていきました。その後、女は無事に町の長者のもとへたどり着き、鬼の面を納めました。
化け物が尻尾を巻いて逃げ出すほど精巧で生々しい鬼の面を作り上げたということで、その後も女の評判は一層高まりましたとさ。




