食べてはいけない珍味
さて。
あるところに、漁師の師弟がおりました。日が昇る前に海に出て、日が沈んでから港に戻り、獲ってきた魚を選り分ける毎日です。
あるとき、いつものように弟子が魚を選り分けていると、見たこともない奇妙な魚を見つけました。怪訝に思ってつついてみると、不意にぷくっと膨れました。魚というよりは毬のようです。弟子は早速師匠に訊きました。
「師匠、変な魚を見つけました。これは一体なんですか」
「ああ、そいつはてっぽうだ。食うと旨いが、絶対に食っちゃあいけねえ。いいか、見つけても絶対に食うなよ」
きつく言われて、仕方なく弟子はそれを海に捨てましたが、旨いと聞いたからには食ってみたくあります。
後日、弟子はまたあの魚を見つけました。しかし今度は師匠には言わず、隠して取り置き、後でこっそりと食うことにしました。
真夜中、師匠が寝入ったのを確認してから、弟子はこっそりとその魚を切り分け、刺身にして食ってみました。
するとどうでしょう、今まで感じたことのない美味でありました。そのあまりの旨さに涙を流して舌鼓を打ち、とうとう全て平らげてしまうと、弟子は満足して寝所へ向かおうとしましたが、あら不思議、みるみるうちに痺れが現れ、足元がふらつき、とうとう呼吸まで止まってしまいました。
かくして弟子は、てっぽうに当たってしまいましたとさ。
「てっぽう」=フグの俗称。「アたる」ことから。




