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恩返しの鶴

 さて。

 あるところに、一羽の鶴がおりました。季節の変わり目には毎年遠くへ移動するのですが、この年には鶴は不幸にも動物除けの罠に引っかかってしまい、飛び立てないでおりました。早く飛び立たなければ鶴は死んでしまうほかありませんが、鶴には為すすべがありませんでした。

 そこへ偶然通りかかったのは、町へ薪を売ってきた帰りの若者でした。若者はこの鶴を憐れに思い、罠を外し、鶴を逃がしてやりました。

 鶴は若者にとても感謝し、何とかして礼をしたいと考えましたが、鶴の身ではどうしようもありません。そこで鶴は、天の神々にお願いしました。

「ああ、天にまします神々よ、私は命の恩人であるあの若者へ何としても御礼がしとう御座います。何卒、方策をお授けくださいませ」

 鶴の誠意に心を打たれた神々は、鶴の姿を人間の、美しい女性へと変化させました。しかしながら、変化には条件がありました。

「いいかい」天の神々は言いました。「人の姿になったからには、しっかりと恩を返してくるといい。けれども、もしも若者に自分の正体を悟られてしまえば、変化は解け、お前はもとの鶴として生きていかなければならないよ」

 鶴は神々に深く感謝し、すぐに若者の家へと向かいました。

 猛吹雪の中、神々の加護によって何とか若者の家にたどり着いた鶴は、猛吹雪の中で路頭に困った娘を装い、一夜の宿を借りました。

 首尾よく若者の家へ招き入れられた鶴が、さてどうしようかと考えていたところ、貧相な身なりの若者には不釣合いなほど立派な機織り器が置いてあるのを見つけました。

「これは、おれの親父の形見なんだ」鶴に問われた若者は、そう答えました。「親父が若い頃にもらったものらしくて、他のものはみんな生活のために売ってしまったが、こればかりは大事に取ってある」

 その話を聞いて、考えを得た鶴は若者に、その機織り器と部屋を一室貸してほしいと頼みました。怪訝そうながらも了承した若者に、鶴は念を込めて言います。

「決して覗いてはいけません。いいですか、絶対に覗かないでくださいまし」

 そう言い含めると、鶴は機織り器を持って部屋に閉じこもりました。そしてそこでこっそりと変化を解くと、自らの羽毛を抜き、それで糸を紡ぎ、一晩かけて立派な布を織り上げました。翌朝、若者に出来上がった布を渡すと、鶴は若者に言いました。

「これを、町で一番大きな呉服屋に売ってきてください」

 あまりに立派な布に驚きながらも、若者が言われたとおりに町で一番大きな呉服屋に売り込みに行くと、呉服屋はその類なく美しい布を一目見るなり目の色を変えて買い取り、若者はたくさんのお金を手に入れ、そのお金を少し使って美味しい食材を購入し、帰って娘に振る舞いました。

 若者は娘に、あんな布をどうやって織り上げたのかと問いましたが、娘は何も答えることなく、折角の高級な食材であるにも関わらず穀物や小魚ばかり食べています。

 その後も何度か同じことが続き、若者はたくさんのお金を得て、死ぬまで食うに困らないほどの金持ちになりました。若者はとても娘に感謝して、贅沢をさせようとしましたが、娘は最小限しか受け取らず、しかもどういうわけか、布を織り上げるたびにやせ衰えていってしまっているのでした。

 そしてある日の晩。この日も、鶴は決して覗かないよう言い含めてから、部屋に閉じこもりました。しかし気になって仕方のなかった若者は、とうとうこっそりと戸の隙間から部屋を覗き込みました。

 鶴は、残り少なくなった自らの羽毛を紡いで布を織っておりましたが、とうとう若者が覗いてしまったことに気が付きました。若者は、娘の正体が鶴であったことに驚いている様子です。正体を知られてしまっては、鶴はもうここにはいられません。神々の加護が消えてしまう前に、鶴は急いで自らの羽毛の全てを使い、今まで織ったどんな布よりも立派で素晴らしい布を織り上げました。

 翌朝、これまでと同じように布を手渡した鶴は、若者に言いました。

「決して覗いてはならないと申しておりましたが、あなたはとうとう覗いてしまいました。見られてしまったからには、私はもうここにはいられません。この布が最後となります。願うならどうかこの布は売らず、仕立てて着物にし、あなたが着てくださいませ」

 そう言い残すと、引き留める若者を振り払って、鶴は若者のもとからいなくなりました。

 鶴を失った若者は、鶴の言い残した通り最後の布を立派な着物に仕立てると、それを大切に死ぬまで着続けました。

 若者のもとを去った鶴は、神々の加護も失い娘から鶴の姿へ戻りましたが、その姿は憐れなものでした。布を織るために使い続けたために羽毛はまるで残っておらず、鶴は飛ぶことができません。遠くへ渡るために飛ぶこともできず、鶴は死んでしまいました。

 鶴は死んでしまいましたが、鶴の報恩に感じ入った神々が鶴を召し上げ、神々の一席に加えてくださったので、若者を天から終生見守り続けましたとさ。


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