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狼と牧羊犬

 さて。

 あるところに、腹を空かした狼がいました。何かを食べようにも森の中にはもう何もいません。小鳥でも捕まえようにも飛んでいる鳥は落とせませんし、もはや切り株でも食べようかという具合に狼は追い詰められておりました。

 ふらふらと森を彷徨っていますと、あるところで森がふと途切れました。見渡す限りに草原が広がっていて、何と馬や牛などが暢気に草を食んでいます。しめた、牧場だ、と狼は思いました。御馳走が目の前にいっぱいだ。

 しかし、ちょっと待てよと狼は考えました。喜び勇んではいけない。おれは今腹を空かせて弱っているぞ。しかし奴らはでっぷりと肥えてはいるがその分元気がいい。欲を出して大物を狙って、返り討ちにあってもバツが悪い。ここはひとつ、狙いやすい獲物を狙うべきだ。

 そこで狼は森に隠れ潜みながら牧場を一望しました。

 まずは馬が目につきました。馬はどうだろう……いや待て、馬は足が速い。気付かれて逃げられたらきっと追いつけまい。気付かれないように後ろから近付いても、もしあの後ろ足で蹴りでもされたらひとたまりもないだろう。ダメだダメだ、馬は諦めよう。

 次に牛を見つけました。牛ならどうだ。馬ほど足も速くない……いやいや待て待て。牛は気が強い。しかも見て御覧、雄牛もいるじゃないか。雄牛は気が荒いし、突進でもされたらあっさりぶっ飛ばされてしまう。ダメだダメだ、牛もやめにしよう。

 最後に、狼は羊に目を付けました。しめた、これだ! 狼は飛び上がらんばかりに喜びます。羊なら馬ほど足が速くはないし、牛ほど力も強くない。ただメェメェと啼くばかりの奴らなんて怖くもなんともないじゃないか。どうやらうろちょろしている牧羊犬もいるけれども、あんな小さな犬っころ、大したことはない。

 そうと決まればすぐに行動、狼は馬や牛に気付かれないようにして羊の群れに躍りかかりました。

「そらそら驚け狼だぞ! お前らなんぞひと呑みだ!」

 突然のことに驚いた羊たちはメェメェと悲鳴を上げ逃げ惑います。その様にさらにいい気になった狼は早速手近な羊を食べようとしました。さあ食うぞ、今食うぞ!

 そこへ飛び込んできたのが牧羊犬です。牧羊犬は小さな体ですばしっこく駆け回り、狼を翻弄します。

「ああ、もう、鬱陶しい。どっかに行けチビスケ!」

 怒った狼が唸って威嚇しますが、牧羊犬も必死です。歯を剥いて、全身の毛を逆立て、満身に怒りを込めて狼に襲い掛かります。足、尻尾、首元にまで噛み付いてきて、しかしすばしっこいがゆえに捕まえられず、反撃のできない狼には為すすべもありません。

「もういい、わかった! もう襲わないから勘弁してくれ!」

 あちこちを噛まれてとうとう悲鳴を上げた狼は、小さな勇者から這う這うの体で逃げ出しました。

 それ以来、この牧場を狼が狙ってやって来ることはなくなりましたとさ。


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