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道塞ぎの大岩

 さて。

 あるところに、小さな村がありました。山間に位置するこの村の住人は、周囲の山で取れた木の実や兎などを、峠を越えた先の海辺の村で取れる魚介類と交換して生活していました。山の村から海の村へ向かう道は、とても狭い道が一本しかなかったのですが、誰も不便には思っておりませんでした。

 ところが、ある嵐の翌朝、山の村人が海の村へ行こうとすると、どこから転がってきたのかとても大きな岩がたったひとつしかない道をふさいでしまっているのでした。

 村人たちは困りました。海の村へ向かう道はこれ一本しかないのです。この道を通らなければ新鮮な海の幸をもらってくることができません。何とかしてこの岩をどけなければならない、と村人たちは考えました。

 まず最初に村人のひとりが言いました。「村中の力自慢を全員集めて、皆で力を合わせて押せば、あの大岩もきっと動かせるに違いない」

 その言に従って、村中の力自慢を集めてきて三日三晩顔を真っ赤にしてうんうん頑張ってみましたが、しかし大岩はびくともせず、大汗を流した力自慢たちは皆ひと回り小さくなってしまいました。

 次に村人のひとりが言いました。「あの大岩に熱いお酒を目一杯かけてふやかせば、きっと蒲鉾かまぼこのように切れてしまうに違いないぞ」

 そのげんに従って、村中の酒を念入りに温めてから三日三晩じゃばじゃばと浴びせ、それ今だと斧やのこぎりを入れようとしましたが、どれも全く歯が立たず、斧はただの棒になり、鋸は刃が削れてただの薄っぺらな鉄板になってしまい、村中のお酒が地面に吸われてしまっただけになりました。

 最後に村人のひとりが言いました。「村中の皆であの岩を取り囲み、休む暇もなくバカにし続ければ、あの大岩もむっつりと黙っているわけにはいかなくなって、きっと怒って追いかけてくるに違いない。その上でしかるべき場所まで誘導すればこっちのものだ」

 その言に従って、村人総出で三日三晩休みなく大岩を取り囲み罵倒し続けましたが、大岩はやはりずっとむっつり押し黙っているばかりで怒り出す様子は毛ほどもなく、ただ村人全員が寝不足になり体調を崩しただけでした。

 とうとう村人たちは疲れ切って諦めてしまいました。「これじゃあもうどうしようもない。何の知恵も浮かばない。もう海の村へは向かえない」

 と、そこでそれまでずっと家で寝ていた長介がやってきました。長介は村一番の穀潰ごくつぶしでバカであると有名だったので、この騒ぎの中でも誰も長介を呼びには行かなかったのです。

「おやおや、知らない間に大騒ぎ。こいつは何があったんだい」

 疲れ切ってどうでもよくなっていた村人たちは、長介にもことの次第を説明しました。全てをすっかり聞いた長介は、成程、と頷いて自分の胸を叩きました。

「皆は本当にバカだなあ。いつもおいらのことをバカだバカだとバカにするけれども、ことこれに関しては皆の方がよっぽどバカなようだ。どれ、それならおいらに任せてみろよ。てきめんに片付けてやる」

 自信たっぷりに言う長介に、村人たちは怒る気力も沸きません。ただ、村一番のバカ長介にそんなことが出来るはずがないと、ぞろぞろと長介の後ろについて行きました。

 何の用意もなく懐手ふところでで大岩の前に立った長介は、おもむろに大岩をこんこんと叩くと、

「大岩さん大岩さん、なあなあ聞いてよ大岩さん。この道はおいらたちの大事な道なんだ。あんたが塞いでちゃ通れないから、ちっとどいてはくれんかね」

 すると、今まで村人たちが何をしてもうんともすんとも応じなかった岩が、のんびりとした調子で、

「何だい何だいそうだったのかい。近頃随分騒がしいと思っていたが、それはそういうわけだったのか。それならそうとさっさと言えばよかろうに。いいとも。こいつは邪魔して悪かった。おれはさっさとどけるとも」

 言うなり大岩は、その重い重い腰をようやく上げて、えっちらおっちらとどこへともなく去っていきましたとさ。


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