鬼の嫁取り
さて。
あるところに、とても粗暴な鬼が住んでおりました。鬼はしばしば近隣の村にやって来ては家畜や畑の作物を奪って帰っていくので、村人たちはほとほと困り果てておりました。
その鬼が、あるとき村の娘を寄越せと言って参りました。誰でもいいから誰かひとり、嫁に取るというのです。
村人たちは困り果てました。乱暴な鬼のもとへ嫁に行きたいという娘がいるわけがありませんでしたし、自分の娘を鬼のもとへ遣りたいという親もまた、ひとりもおりませんでした。
ところで。
村のある一家に、娘が三人おりました。上の娘は器量不足で我が強く、中の娘は要領はいいが計算高く、末の娘は病弱で優し過ぎるきらいがありました。末の娘は優し過ぎるがために、しばしば末の娘は上のふたりの娘にいいように使われ、よくよくこき使われているのでした。家事だけでなく、日常の細かなことまで、上のふたりは遠慮なく末の娘に押し付けるのですが、末の娘はいつでも静かに微笑んで引き受けるのでした。
不幸なことに、村人総出で行われたくじ引きの結果、この家の娘の中からひとり、鬼の嫁に出されることになりました。当然、娘は全員嫌がりました。上の娘も、中の娘も全力で拒絶しました。当然です。粗暴な鬼のもとへ嫁げば、どうなってしまうかわかりません。そしてふたりの娘は、そろって末の娘に押し付けました。
末の娘は、優し過ぎる娘でした。だから当然、いつものように、断りませんでした。
末の娘が鬼のもとへ嫁ぐことになりました。
両親は喜びませんでしたが、村で決めたことですから、誰かを出さなければならないのです。
末の娘は、村と別れるときも静かに微笑んでいました。
村のはずれで、末の娘は鬼に引き取られました。
鬼の嫁となったならば、きっと長くは生きられないでしょう。いたぶられて、遠からず食われてしまうのでしょう。
それを悟っても、末の娘は泣くことも、嘆くこともしませんでした。
ただ、静かにその日が来るのを待っておりました。
鬼は、不器用な鬼でした。
気性が荒いのは生まれつきで、持って生まれた力の使い方もよくわからず、誰かと仲よくしようにも恐ろしげなその容貌から誰も近寄ってくることはなく、いつもひとりぼっちなのでした。
末の娘が、村にとって生贄として、鬼に差し出されたことはわかっておりました。
末の娘自身が、それを受け入れていることも、わかっておりました。
だから、ただ、鬼はその末の娘を、大切に、末永く愛しましたとさ。




