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きつねとたぬきの化かし合い

 さて。

 あるところに、たいそう化けるのが得意なきつねと、たいそう化けるのが得意なたぬきがおりました。

 お互いにお互いの評判を聞いたきつねとたぬきは、ある日どちらの方が変化の腕前がまさっているか、腕比べをすることにしました。

「やあ、たぬき」きつねはたぬきに言いました。「お前は化けるのが得意だそうだね。しかし実は私もそうなのだ。いくらお前が得意と言っても、さすがに私には敵うまいね」

「おお、きつね」たぬきは答えました。「おれも聞いているともさ、あんたの変化の評判は。だがこいつは聞き捨てならないな。あんたがおれより上手いとは! おれの方が上手いに決まっているというのに」

「それなら試してみようかね」

「いいとも」

 というわけで、二匹は変身勝負をすることになりました。

「見ていたまえ」まずはきつねが言いました。「私は強いものに変身できる。それでは狼を御覧に入れよう」

 言うなりとうっとトンボを切ったきつねは、着地するときには眼光鋭い狼に化けていました。

 ほう、とたぬきは感心します。

「成程上手い化け様だ。身はしなやかで牙は鋭い。しかし力強さは足りないようだ。ではおれは虎に化けよう。もっと力強くなってみせよう」

 言うなりどろんと煙を吹いたたぬきは、晴れる頃には筋肉波打つ虎に化けていました。

 おお、ときつねは嘆息します。

「確かに大した化け前だ。どんな獲物も逃すまいな。だがいくら虎と言えども、この狩人には敵うまい」

 言うなりついっとトンボを切ったきつねは、着地するときには血気盛んに猟銃を構える紅顔の美男子に化けていました。

 ほう、とたぬきは感心します。

「成程上手い化け様だ。ひとたび狙いを定められれば、その銃弾の餌食だろうぜ。しかしおつむはどうやら足りないようだ。ではおれは可憐な乙女に化けよう。男を破廉恥に篭絡してやろう」

 言うなりばふんと煙を吹いたたぬきは、晴れる頃には妖艶可憐な美少女に化けていました。

 おお、ときつねは嘆息します。

「確かに大した化け前だ。もし流し目など送られたなら、その手の甲に接吻せずにはいられまい。しかし乙女は深窓に在するものだ。例えばこんな堅牢な館に」

 言うなりぽぉんとトンボを切ったきつねは、着地するときには質実剛健なお城に化けていました。

 ほう、と天蓋付きベッドに横たわりながらたぬきは感心します。

「成程上手い化け様だ。これではどんな乙女も箱入りだ。だがどうやら武骨なばかりのお城で、華やかさには欠けているようだ。もっと華麗に飾るべきだろう。そう、例えばこんな風に」

 言うなりばばっと煙を吹いたたぬきは、晴れる頃には巨大で豪奢な宮殿に化けていました。

 おお、と王宮を見上げながらきつねは嘆息します。

「確かに大した化け前だ。これでは王子も迂闊には近寄れまい。しかしどうやら欠けている。宮殿には国が必要だ。国がなければ様にならない。これだけ立派な宮殿ならば、街はこんな風だろう」

 言うなりきりっとトンボを切ったきつねは、着地するときには広大な領土をもつ国に化けていました。

 ほう、と街を歩きながらたぬきは感心します。

「成程上手い化け様だ。これほど栄えた国はあるまい。しかし国が繁栄するには、お天道様の恵みが不可欠だ。お天道様に化けられるなら、それ以上はないだろう」

 言うなりどどんと煙を吹いたたぬきは、みるみる空へ昇っていくと、太陽そっくりに化けました。

 変化を解いたきつねが見上げると、瓜二つの太陽がふたつ並んでいます。どちらが本物かわかりません。

 おお、ときつねは嘆息します。

「確かに大した化け前だ。まるで初めからふたつであったかのようだ。しかしいくら日が強くても、受ける地上がなくては我々は生きられまい。この地球に化けられたなら、それを越えるものもない」

 言うなりぶぅんとトンボを切ったきつねは、着地するときにはどこにもおらず、ただ地球がふたつに増えていました。

 変身に疲れたたぬきが休もうと地球に近づくと、何と地球がふたつあります。どちらに戻ればいいのかわかりません。

 ほう、とたぬきは感心します。

「成程上手い化け様だ。しかしこれでは埒が明かない。どちらの腕前が上なのか、化け比べでは比べられない。そこで考えたがどうだろう、誰かに定めてもらうというのは」

「いいとも」変身を解いたきつねは頷きました。「それでは森のふくろうに訊こう。誰より賢いと評判だ」

 そうと決めたら急ぐべし。二匹は森へ飛んでいくと、眠っているふくろうを叩き起こしました。

「どちらが上手いか決めてほしい」二匹は口々に言いました。「あなたならきっとわかるはずだ」

「成程化け比べをしていると」気持ちよく眠っていたところを無理に起こされたふくろうは、不機嫌そうながら頷きました。「いいだろう。しばし待て」

 言ってふくろうは目を閉じました。考えて、考えて、考えます。あまりにふくろうが動かないので、まさか寝てしまったのではないかと二匹が心配になってきた頃、ようやくふくろうは目を開けました。

「決めた。それではこうしよう」ふくろうは翼で二匹を示しました。「お互いがお互いに化けるのだ。自分のことを自分以上に知っているものは自分以外にはおるまい。だからお互いに化け、相手の不足を指摘すれば、どちらが化け上手かもはっきりするだろう」

 よしきた、と早速二匹はお互いに化けて見せました。

 たぬきはきつねに、きつねはたぬきに化けました。両者ともにあまりにも見事に化けたので、どちらが本物のたぬきだったのか、どちらが本物のきつねだったのか、全く見分けがつきません。

 ふむ、と両者を見比べたふくろうは、ひとつ頷くと言いました。

「確かに両者とも見事な化けっぷりだ。では両者とも、変化を解いてよろしい」

 ふくろうの宣言で、たぬきときつねはどろんともとに戻ります。その姿をもう一度見比べて、ふくろうは言いました。

「さて。わたしはこれからたぬきときつねのどちらが化け方が上手なのかを判定しなければならない。そのためにはまずどちらとも本物のたぬきときつねであるとわからなければならないようだが、しかし今の変化を見るに、わたしはまずそこから疑わなければならない」

 ふくろうはたぬきを見て、

「君は本当にたぬきかね。きつねが化けているのではないのかね?」

 次にきつねを見て、

「君は本当にきつねかね。たぬきが化けているのではないのかね?」

 ふくろうの言葉を聞いた両者は憤慨し、口々に言いました。

「おれがたぬきだ、間違いない」

「私がきつねだ、絶対に」

「しかし、君たちはお互いに本物と瓜二つに化けて見せた。もし君たちがまだ化けているのだとしても、わたしには判断ができない。もしかすると、君たち自身が自分の化けっぷりに騙されて、自分をたぬきだと、あるいはきつねだと、勘違いしてしまっているという可能性はないかね? どうだね?」

 ふくろうの言葉を聞いて、たぬきは思いました。おれがたぬきだ、間違いない。

 きつねも同じく考えました。私がきつねだ、絶対に。

 しかし両者とも同時にふと疑いました。自分は本当に自分だろうか?

 考え込んでうんともすんとも言えなくなったたぬきときつねに、ふくろうはほうっと言いました。

「両者とも、お互いが本物であると確信出来たら、もう一度わたしのところへ来なさい。そのときにもう一度、判定をやり直そう」

 ふくろうのこの言葉で、両者は渋々と解散しました。

 そしてその後、ふくろうのもとにそろってやって来ることはありませんでしたとさ。


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