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発見

今日は朝早くから夕月の父である白夜さんと仕事へと向かう。

「いつも、娘がすまないね」

 人あたりのよさそう感じの中年である白夜さんがすまなそうにしてくる。

「いいですよ。俺も茜も一緒に楽しませてもらってますよ」

「なら、良いんだが」

 白夜さんはあまり納得してないようすだが、とりあえずこの件はこれでいいようだ。

「では、私は役場に顔を出してくよ」

 今日、行う仕事の責任者である白夜さんとは一旦ここで離れていく。

 シェルターの端にあるにゲーム風に言うと冒険者ギルドと呼ばれる組合の建屋に近づくと機械にコードを打ち込んで中に入る。

 建物の中に入ると多くの人が居て熱気であふれている。そのなかには明らかに堅気の人間以外の人も混じっている。

 人を避けつつ奥に行くと防護服を配布している機械へ近づく。その機会のボタンを押して一式をもらう。

 近くの個室に入ると着替える。

 顔以外を覆い隠す設計された防護スーツは気密性が高く熱がこもる。ただ、運動性は高く、あまり不便さを感じない。

 最後に腰にあるホルスターにP220を収めるとヘルメットを持って外に出る。

「よお、裕也」

 筋肉の塊みたいな大男が話しかけてくる。

「なんだ、大介」

「挨拶をしに来ただけだ」

 こちらの肩を叩きながら言ってくる。これが結構痛い。

「お前も今日は行くのか?」

 大介は腕を組むと頷く。

「当たり前よ。こんな月一のイベントを外せる訳がないだろ」

 さも当然のように言ってくる。

「そうだな、大金が手に入るしな」

「ああ、そうだ。それにこいつが堂々と使えるからな」

 コルト・パイソンを手に取ると大介はいつものように説明を始める。

「こいつはリボルバーのロールス・ロイスに例えられる位、仕上げ良いパイソンの中で一番評判が良い初期型モデル! 職人によって細部まで作りこまれたこの銃に敵はいないぜ」

 まだ、続けようとする大介が息継ぎするタイミングで手で遮る。

 まったく、いつものことながらしつこい。

 しゃべりたそうな顔をしている大介はパイソンをしまう。

 そうこうしている内に放送が入る。

「あと一時間後までに準備を終えてください」

 うん? あ、白夜さんだ。聞き慣れた落ち着いた声に反応する。

「裕也は準備を終えたか?」 

 大介が訊いてくる。

「ああ、大丈夫だ」

 頷きながら答える。

「そうか、俺はもう一回、確認してくるぜ」

 大介はそう言うと個室に歩いていく。

 俺はそれを見送ると白夜さんの元へ向かうべく本部のある二階のフロアに向かう。

「うん? ああ、裕也くんか。まあ、座ってくれ」

 白夜さんがこちら椅子を勧めてくる。

「コーヒーは要るかな?」

 頷いてコーヒーを頂くことにする。

「知っているとは思うが、私はコーヒーに凝っていてね」

 白夜さんはコーヒーの淹れ方の一つサイフォンを使って淹れていく。

 サイフォン独特のお湯が上についているロートに向かっていくさまを見つめていると白夜さんがこちらを見てくる。

「おもしろいものだろ。料理全体に言える事だが、目で楽しむことも必要だからね」

 べらをかき混ぜるながら白夜さんが訊いてくる。

「はい。結構、感慨深いところがあります」

 そうか、と白夜さんが頷くと先ほどと比べても楽しそうにしている。

「さあ、召し上がってくれるかな」

 白夜さんがこちらに淹れたてのコーヒー渡してくれる。良い香りが部屋中に広がる。

「良い匂いですね」

「はは、ありがとう」

 一口含むと芳醇な香りと共にコーヒー特有の苦味が広がる。

「おいしですね」

「良かったよ。では、これはどうかな」

 白夜さんはコーヒーに角砂糖とクリームを入れてくる。

 再び口に含むとコーヒーはまた違った顔を見せてくれる。

「これもおいしいですね」

「そうだね。やっぱりコーヒーは最初にブラックから始めて、次からミルクや砂糖を初めて入れて楽しむのがいいね」

 そう言って白夜さんもコーヒーを飲む。

「うん、いいね」

 白夜さんは頷くとノートに配合率を書きは始める。

「なんというか、白夜さんの家って凝り性ですよね」

 今まで思っていたことを尋ねてみる。

「私の父もすごいオタクだったみたいでね。私をよく膝に乗せてゲームをしていたよ」

 一瞬、ゲームのあたりで白夜さんの顔が暗くなる。

 白夜さんがこんな顔をするってどんなゲームだよ。

「それに、夕月の趣味も私の父譲りでね。家にあるそういったものは父が持ち込んだものなんだよ」

 懐かしそうに白夜さんが語る。

「良い思い出ですね」

「そうなるかな?」

 白夜さんがほほを掻く。

 あ、よくそれ夕月もやるな。

 二人がよく似た親子だと確認する。

「君のお父さんの話を聞きたいかい?」

 白夜さんが気を利かして大分前に母と共に亡くなった父について知りたいかと訊いてくるが、首を振って断る。

 今は自分の知っているままでいい。そう、太っていてパイプを咥えて、俺と茜、夕月とが遊んでいるの優しい笑顔で見つめる時に厳しい中年で。

「そうかい、まあ時間もないですしね」 

 白夜さんが時計を指してくる。五分前になっている。

「さあ、仕事の時間だ。がんばろうじゃないか」

 椅子に座るこちらに手を伸ばしてくる。

「そうですね」

 手を受け取ると身体引きあげてくれる。暖かい手を感じながら立ち上がると汚染を防ぐ為の機密性が高いフルフェイスヘルメットを被り、ヘルメットに付いているコードを各種機器に繋げていく。

 部屋を出ると集合地点になっているゲート前を目指し白夜さんと共にエレベーターに乗り込む。

 三十秒程で地上フロアに辿り着く。

 白夜さんが肩に手を置く。すると、接続部分を介してヘルメットの中に備え付けられているスピカーから白夜さん声がする。

「私は前で話をしてくるよ」 

 そう言うと前の拡声器の方に歩いて行く。白夜さんは拡声器に手をかざして接続する。

「今日の計画は港に停泊している貨物船から荷物を運び出すことです。なお、近辺には変異体が確認されています。装備には細心注意を払ってください」

 外付けされたマイクが拡声器の音を拾う。

 説明が終わると手早く装備の確認する。

「確認を終えた者は第一隔壁の向こうにあるトラックに乗り込んでください」

 聞こえたように隔壁向こうを目指し、わずかに開いた分厚いコンクリートで出来た隔壁通り抜けていく。

 そこには汚染を防ぐために分厚い装甲をした特殊トラックと作業用マニュピレータ〈神楽〉が列をなして置いてある。

 〈神楽〉の大きなアームと四メートル程の二頭身ボディを見ながらトラックに乗り込む。

 乗り込むと車内に搭載している光通信通信システムにスーツを接続させる。

 十五分程で全員がそれぞれ配置に付くと第二隔壁が重々しい音をたてながらゆっくりと開いていく。

 ここは汚染されたものを洗うための大きなシャワールームになっている。

 次に第三隔壁、第四隔壁が開くと最終隔壁である第五隔壁が見えてくる。

 持ち帰った物資を集積して選別するための設備が整っているこのエリアを他の隔壁が閉じるのを待ってから隔壁を開け通り抜けていく。

 隔壁を出るとかつて人が住んでいた廃墟が雪化粧をしながら出迎える。

「各隊、周辺警戒を怠るな」

 軍専用のゲートから出た軍の先行偵察隊から光通信を通じて警告される。

「第三捜索隊了解」

 手短に返信すると予め軍から貸し出されトラックに置いてある89式自動小銃を片手で持っておく。

 道が所々瓦礫で覆われているために道を選びながら五十分程かけて目的地の港に着く。

「変異体に警戒しながらことに当たってください」

 白夜さんの一声で全員が動き出す。

 トラックを降りると肩に付いた測定器を見る。

 この特殊スーツを着た状態でも安全に行動できるのは一日が限界の濃度を指している。

 89式を肩へ掛けると急ぎ足で停泊しいる貨物船に近づく。そこでは貨物船に入るべく軍が橋を架けている。近くにいた白夜さんに近づき肩の通信用コネクターに接続する。

「どんな様子ですか?」

「ああ、軍方々が先に乗船して安全を確保してくれるそうだよ」

 五分ほどで軍から乗船許可が下りる。

「さて、乗り込みますか」

 白夜さんが手を振ると次々と人が乗船していく。〈神楽〉も乗り込むと貨物船のコンテナを降ろしてトラックに載せていく。

 自分達も船に乗り込むと捜索を開始する。

 89式を前に突き出しながらゆっくり進んでいく。

 三時間程、表層部分を捜索すると船底の方へと移動していく。船底に近い部分の中の部屋の一つに入ると電子機器を優先して確保する。それらは背中のザックに入れていく。

 部屋の中に船員の私物とみられる小さな冷蔵庫を見つける。

 さすがに、持ってはいけないので中を覗くと腐った柑橘系の果汁百%ジュースとビールやラム酒などが入っている。

 その中でもひときわ目立っているのは三本の世界最強の酒スピリタス。それを何かの役に立つかとザックに入れる。

 その時、下から銃声が聞こえてくる。

 89式を構えると廊下に出てるとそのままの状態で船の入り口へと目指す。

 部屋を出ると廊下のダクトを何かが通り抜けて行く足音をマイクが拾い上げる。

 なんだって言うんだよ。

 足音の方に89式を発砲するとどうやら倒したらしく穴の開いたダクトから血が流れてくる。

 血の量から結構大型の生命体であることが分かる。

 これが話に挙がっていた変異体か?

 弾倉を変えると再び船の入り口を目指す。

 最初の発砲後もたびたび銃声が聞こえる。

 後ろで銃声がしたので振り返ると三匹の四十センチはある大ねずみが軍の人間を襲っている。 すかさずこちらも攻撃する。すぐに制圧すると兵士の下に歩み寄り肩の通信装置に接続する。

「大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。助かった、ありがとう」

 兵士と空いている手で握手をしながら会話をする。

「何があった?」

「船底に奴ら巣があった。くっそ、俺は先遣隊の後方に居たから助かったが、他は全滅した。 どうやら、奴らあの時も船だから生き残ったみたいだな」

 ねずみは核攻撃時に機密性が高い船のおかげで助かり、その後、独自に進化したみたいだな。

「やばいな、急いで本隊に戻るぞ」

「その通りだな、君は弾薬は足りているか?」

 ポケットの弾倉を確認するとそれを見せる。

「これを取っておけ」

 89式にも使える弾倉を二つ渡してくる。

「ありがとう、あまり配給されていなから助かった」

 兵士は苦笑すると34式自動小銃ーー89式の後継機で人間工学に基づいて設計されておりH&K XM8何処となく似ている自動小銃を構え出口に向かう意思を示す。

 手を離すとこちらも89式を構える。

 ゆっくり、一歩ずつ確認しながら進んで行く。

 あまり時間を経たない内に後ろから大群が移動する音がする。 

 振り向くと百十数匹の大ねずみがこちらに走ってくる。

 兵士がこちらの肩を叩くと手にM26手榴弾を持っている。

 ピンを抜いて投げると見ると89式を肩に掛け出口に向かって走り出す。

 爆発が後方で起こると後ろに向かって走るながらP220を抜いて9mmパラベラム弾を発射する。

 再びM26手榴弾を兵士が投げようとするとダクトから突然、大ねずみが飛び出て来てその頚動脈を噛み切る。

 そのねずみの頭をP220で打ち抜く。

 そして、すぐにザックに入っているスピリタスの一本をねずみの群れ方に投げ、p220を床に撃ち火をつける。

 兵士の方を見ると傷口を押さえながら先に行くように手で示す。

 行こうとするとやっぱり待ったと言った様に兵士が掴んでくる。

 兵士の方を見ると手に彼の仲間物と思われるたくさんのドックタグと箱を持ち、突き出している。

 頷くとドックタグと箱を預かり再び走り出す。

 あまり間を空けず爆発が起こる。自決したか。

 何とか入り口まで辿り着くとそこには軍が半包囲体制で待ち構えている。

 その包囲の外に出ると倒れ込む。

 すると、その中にいた少尉が近づいて来てこちらの肩にある通信装置に手を乗せる。

「何があった?」

「四十cm程のねずみの群れに襲われた。貴方達の先遣隊も襲われ全滅した」

 そう言ってドッグタグと箱を渡す。少尉は部下の一人を呼び先遣隊のメンバーかと確認させると部下が頷いたことから話が真実だと悟ったようだ。

「引き止めて悪かったな、他はもう撤退の準備を始めているぞ」

 そう言うと肩から手を離し包囲している味方の方へと戻る。

俺もトラックに戻ると帰還の準備を手伝う。

 帰り支度を終えると包囲していた軍も撤退を始める。

 次々と列をなした車両が港内から離れていく、その後ろの方に俺の乗ったトラックがつく。

「おい! 船を見ろ」

 通信システムを介して誰かの叫び声がするのでその通りにトラックの窓から船を見る。

 そこには血の臭いに釣られ来たのか、二メートル程ある大きな狼が数頭、船の中に入ろうとしている。

 その群れに見入っていると、目の端で何かが動いた気がしたのでその群れから一旦、視線を外すとと艦橋の窓に白いワンピースを着た少女がいる。

 そんなはずが無い。

 瞬きをするとやはりいない。

 再び、狼群れに視線を戻すと、一瞬群れの長と思われる一匹の銀色の毛をした一番大きな狼と目が合う。

 その時、背筋に氷を入れられたように身震いが起きた。

 今起きた事をどうでも良くなるような、本能的な恐怖が俺を襲う。

 銀狼に生物として勝てる気がしなかった。

 銀狼が船に入る前に大きな遠吠えをした。

 とても凛々しく、絶対的な自信を持った遠吠えを。

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