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平穏

おばさん、これとこれをくれ」

 ジャガイモとにんじんを指差しながら言う。

「いくつだい?」 

 指を三本立てる。すると、八百屋の小太りなおばちゃんが言った物とりんごを三つおまけした袋を渡してくる。

「それは頼んだ覚えはないぞ」

 りんごの事を指摘するとおばさんは笑いながら、

「茜ちゃんと夕月ちゃんと一緒に食べな」

 俺の義妹と幼馴染にと言うことか。 

「そう言う事ならありがたく貰っていくよ」

 お金を渡しながらそう言うと突然、銃声がコンクリートの空に跳ね返って鳴り響く。

「遠いね」

 その声で、懐にしまったハンドガンーーSIG SAUER P220から手を離す。その際、抜きだそうとしたため乱れた服装を正す。

 ふと、おばさんの方を見ると、落ち着いて座っている。

「あんた肝が座ってんな」

 訊くとおばさんは大笑いした後に答えてきた。

「この第一層で商売してんだこのくらいできないと」

 おばさんは店少し奥に飾ってある販売許可状を指差す。そこには、一級シェルター常陸第一層において食品の販売を許可すると、大きな文字で書いてある。

「確かに、この一層はシェルター随一の治安の悪さを誇っているからなこれくらいでは動揺できないか」

「それにしてもまったく、何処の馬鹿が撃ったかねぇ」

 いくつかある心当たりの一つを言ってみる。

「あの方行なら多分、焔龍会だと思うが」

 おばさんは聞くと思い出したような顔しながら椅子に座った。  

「確か、古き良き時代を思い出せる薬だったかを販売してるんだっけ、とてもじゃないがここに来る前も良いものではなかったのに」

 おばさんは呆れ顔しながらため息をつくと手の届く範囲で品物の整理を始める。

 手を上げる向こうも手を上げるの待ってからこの場から立ち去る。

 なんとなく人であふれる大通りを急ぎ足で抜けていく。

 しばらく歩き、大通りから離れる。すると、赤い屋根が特徴的な小さな家が見てくる。 ドアに近くづくとそれを三回ノックする。

「帰ってきたぞ」

 家の中に叫ぶと鍵が中から開く音がする。

「お帰り、兄さん」

 華奢な身体には似合わないぺラッチSC3Hショットガンを片手に持った義妹の茜がこちらを出迎えくれる。

 茜は父と母が存命の頃、孤児になっていた所を父が連れてきた子だ。気が良く回るできた子で俺よりも二つ年下の十六になる。

 身内の俺が言うのなんだが落ち着いていて可愛いよりは綺麗が似合う子だ。 

 茜はボブカットの髪を整えながら廊下の壁にSC3Hを掛ける。

「ああ、ただいま。あと、これ」

 先ほど買い集めた食材の入った袋を渡す。

「ありがとう。今日はカレーだね」

 袋の中身を見ると作る料理を決めたようである。

茜は夕食の準備をすべく台所に向かう。

 それを見送ると二階の自室へ足を運ぶ。

 コートを脱ぐとP220をホルスターから抜き取り簡単な整備を始める。

 まず、スライドと銃身、機関部に分けるとクリーン液とブラシ、ウエスを使い隅々まで綺麗にしていく、そして元の形になるように組み立てていく。 

 この時、各部分にオイルを塗っておく。

 この一連の作業を怠るとP220も含めた多く銃は動作不良を起こすこととなる。

 特に、機構が複雑になるP220のような自動拳銃やアサルトライフルなどといった物は構造が簡単なSC3Hなどと比べるとその傾向が顕著になる。

 ホルスターに戻すと一階のリビングへ移動する。

「あ、兄さん悪いけど庭に吊るしあるウサギ捌いてくれない」

 リビングに入るなり言われると頷き、勝手口から庭に出る。

 そこには、血抜きされた二羽のウサギが吊るされていた。

 食用のウサギは観賞用ウサギと比べるととても大きくあまり可愛くない。ただ、冬の白い毛皮はとても綺麗だが。

 わたを抜き、毛皮を剥ぐと作業は終わるが後処理が面倒だ。わたはすぐに蓋付きバケツに入れごみの日を待ち、毛皮は売れるので良く洗い干すと作業完了だ。

 捌いたウサギを持って台所の茜の元に向かう。

「兄さんありがとう」

 茜は感謝の言葉を言うとウサギを受け取る。そして、茜は使いやすくするためにパーツごとに切り分ける。

「どういたしまして、あと風呂に入るからな」

「うん、ゆっくりどうぞ」

 風呂場へ行こうとすると後ろから声が掛かる。

「兄さん良かったらお風呂の後、隣から夕月さんを呼びに言ってください」

「了解」

 手を振りながら答えると脱衣場に入る。

 服を脱ぐと身体にできた古傷が目に入る。これは、仕事と父が戦い方を教えると言って訓練した結果できたものだ。本人、曰くネイビーシールズの友人に教えてもらったとのこと。多分、嘘だが。

 ため息をつきつつ浴室に入ると手早く身体を洗うと湯船に浸かる。

 いい湯だ。一日の疲れを癒しつつこの後、訪れる面倒ごとを考えると再びため息が出る。

 しっかり温まったこと感じると風呂を出て着替える。

 一旦、コートと借りた本を取りに自室へ戻るとさそっく隣の家へと向かう。

 うちと屋根の色が違う以外余り変わりない造りをしている家のドアの前に立つとノックをする。

 待てど暮らせど一向に開く気配がないので前に預けられていた鍵で家の中に入る。

「おい、入るぞ」 一応、警告をしつつ慎重に廊下を進む。

 夕月の部屋の前に立つとゆっくりドアを開ける。

 部屋の中は壁いっぱいに色とりどりの背表紙をした本が所狭しと並べられ、そんな中にモニターの前で一人女の子が机に顔を横にして寝ている。

 長くぼさぼさの髪をしているがその隙間から見える顔が幼く見えるが整っていてとても美しい。この人物こそが件の夕月である。

「おい、起きろ」

 ほっぺをつねると目をこすりながらうめき声を夕月は上げる。 

 目を覚ましたようで夕月はこちら見上げる。

「知らない天井だ」

「なに馬鹿なこと言ってんだ? お前の家だろ」

 すると、夕月はほほを膨らまして怒ってくる。

 同い年だが幼い容姿からこういう行動が似合う。

「ネタだよ! なんで分からないの? あんだけラノベとかアニメなんかを貸してあげたのに!」

「うるさい、茜が飯食べに来いって」

 借りた本で頭を叩きつつ、夕月の手を引っ張る。

「食べるからちょっと待って、着替えるから外行って」

「あいよ」

 外へ出ると十五分程で中から青のワンピースを着て髪を整えた夕月が出てくる。

「なんか言うことあるじゃない?」

 手に持った眼鏡を掛けつつ夕月が訊いてくる。

「なに言ってんだ?」

 とても似合っているがこいつには言いたくない。

「ふふ、ツンデレさんめ」

 夕月がにやけながら頬を突っついてくる。顔が熱くなるなるのを感じ、そっぽを向く。 

 家に辿り着くとカレーの匂いが漂ってきた。

「良い匂い、カレーはソウルフードだよ」

 夕月が高揚するのが分かる。

 二人でリビングに行くとそこにはもうカレーが並べられていた。

 いつも準備がいいな。

 とりあえずコートを脱ぐと椅子に座る。

「さあ、食べよう」

 茜が言うと皆で、いただきますと手を合わせる。

「うん? お肉なに? 鳥じゃないみたいだけど」

 はしたなくスプーンを咥えながら夕月が尋ねてくる。

「ウサギだよ」

 そっけなく答える。

「軟らかくておいしいよ」

 こちらに夕月がスプーンを向けてくる。

「感想なら茜にしろ」

「そう、茜ちゃん美味しいよ」

 茜が顔を嬉しそうにする。

「ありがとうございます。夕月さん」

 食べ終えると茜が全員分の食器を片付け始める。

 夕月がこの家の物置からモニターとゲーム機を引っ張り出して来るとゲームを始める。

「楽しそうだな」

「一緒にやる?」

 こちらにコントローラーを渡してくる。

 今、夕月がプレイしていたのはゲームは何色かあるをスライムを揃えて消していく簡単な物だが人を熱中させるなにかがあるそんな名作パズルゲーである。そして、二人でこのゲームの機能の一つ、対戦を楽しむ。

「あ、そうだ。父さんが明日、仕事をするか?だってさ」

「もうそんな時期か」

 少し考える。

 まあ、悪くは無い話しだし、お金は必要だからな。

「お願いするよ」

「うん、分かった」

 会話を続けながらもゲームの対戦を続ける。夕月が有利だがまだ、何とか追いつける。

 あと少し、いける!

「じゃあ、止めといきますか」

 そう言うと画面にある自分のエリアの隣に魔法をひたすら唱える少女が現れる。 

 上にあるカウンターが彗星を越えたあたりでこちらの動きが止まる。

「おい、てめぇ」

「勝負とは非道なものだよ」

 ドヤ顔で言ってくる夕月を無視して一つ一つ消していくが、圧倒的に数が足りない。

 くっそ、えげつね事しやがって、まだ落ちてくるなよ。

 良し、いい子だ。

 あ、また増えた……もう無理。

「はは、戦いは数だよ兄貴!」

 その夕月のツッコミ所満載の声と共に敗北が決定した。

「最後のは無理やり過ぎないか?」

 悔しいのであてつけに言ってやる。

 夕月は考えた後、恥ずかしそうに少し顔を赤らめる。

「確かにそうかも」

 そこへ、茜が片付けを終えてやって来た。

「なにやら、楽しいそうですね」

「茜もやるか? こいつ強いぞ」

 コントローラーを渡すと茜は俺の横に座る。すると、すぐに対戦が始まった。

 ゲームが始まってからいくばくもしないうちに茜が形の良い口を開く。

「そう言えばさっき兄貴とか大声が聞こえたんですが?」

 茜が尋ねると一瞬、夕月の動きが止まる。

 場外攻撃か茜もなかなかやるようになったな。ただ、夕月がこのままやられっぱなしのはずが無いが。

「なに? ジェラシーしてるの義妹」

 今度は、茜の動きが止まる。

 き、禁句を平気で言いあがって。

 義妹と言われると茜は機嫌が極端に悪くなる。

 一回、理由を訊いた事があるが黙って笑顔で睨まれた。できれば二度と思い出したくない。

「夕月さん、宣戦布告とっていいかしら」

 貼り付けたような笑顔で茜が尋ねる。

「いいわ、相手になってやる」

 同じような笑顔で夕月が返す。

 そこからは、ハイレベルな戦いで普段二人がどれだけはまっていたかが分かった。

 片方が牽制に三連鎖をするとすかさずもう片方が四連鎖で返す。そこへ、負けじと返すから一向に終わりが見えてこない。

「やるわね、茜」

 汗をにじませながら茜に夕月が声を掛ける。

「夕月さんこそ」

 同じく汗を流しながら茜が返す。

「でもここで終わり」

 そう言って茜が九連鎖を放つ。

 えげつねぇ、さすがに夕月も終わりか。

「くっ、まだ終わらよ」

 夕月も対応する。

 今までに作ったタワーを使い夕月は相殺をする。

「良し、降らなければどうということはない」

 すべてのストックを返し終えると夕月は楽しそうに言う。

「やはり、夕月さんは強いですね」

 茜は苦虫を噛んだような顔をするが対して夕月は愉快そうににやけている。

「でしょ、でも私の攻撃はまだ終わらない」

 攻守を入れ替えて夕月が責め始める。

 五連鎖だが連鎖を終えたばかりの茜には致命傷になる。

「きつい」

 めずらしく茜が愚痴をこぼす。

 勝負はそのまま夕月の圧倒的有利が変わらずに夕月の勝利で終わった。

「さて、帰るかね」

 夕月が帰り支度を始める。

「さっき悪かったね、茜ちゃん」

 夕月が頬を掻きながら言う。

「いえ、いいですよ。楽しかったですし」

 茜はもうなんでもないようだ。

「そう言うことなら良かった」

 仲直りをできて良かった。

 一度、仲を悪くしてそのまま……なんてよくある話だしな。

 コートを取ると夕月を彼女の家へ送る。

 家を出て夕月の家に辿り着くと夕月がドアの鍵を開ける。

「ありがとう、裕也」

「ああ、お休み」

 夕月は手を振りながら入って行く。

 夕月が完全に入ったのを見届けるた後、特に理由なく上を見る。

 そこには、コンクリートの空が広がっていた。

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