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プロローグ 前哨戦

初投稿になります。どうかお手柔らかに。

もう冷めてしまった紅茶をテーブルに置くと隣に居る三十代になったばかりの副長に尋ねる。

「副長、本国との通信はまだ回復しないか?」

 第三次世界大戦そう俗に呼ばれる戦争が二年程前から行われている。そんな中、三日ほど前からアメリカ本土にある司令部との通信が途絶している。

 よもや、本土攻撃はないとは思いつつも心配してしまう。

「はい、ブラッドレー艦長その通りであります。定期連絡含めた全ての通信がこの原子力潜水艦フェニックスと本国間で取れていません」

  私が乗艦するこの潜水艦はオハイオ級原子力潜水艦の後継艦であるアトランタ級原子力潜水艦の三番艦である。さらに特筆すべきは前級と同じく戦略ミサイル原子力潜水艦になることである。 

「まったく、我々合衆国がこんなにも苦戦しているとは子供のころには考えもしなかった」

 この状況と各地の戦場から送られる報告につい愚痴をこぼす。

「同感であります。いくら衰退したとはゆえ未だ我々は世界の財の半分を手にしていますから」

 彼の言う通り我々の勝利は揺るがないものだと考えられていた。しかし、蓋を開けて見ると予想に反して敵地に侵攻した部隊が敗退するなどと苦戦を強いられ、最後の手段を使う可能性も出てくる事態になってきている。

「できることなら我々に攻撃命令が下ることがないことを願いたい」

 そうできればこないことを願うなぜなら、この戦略ミサイル原子力潜水艦はトライデント……核ミサイルを搭載しているからだ。

 まったく、人とは欲が深いものだ。己の身を滅ぼすと知りながらも止められないとは。

 私もこの構造の一部であることに嫌気を覚えつつ、残りの紅茶を飲み干す。

「艦長、本国からの通信です」

 通信兵が緊張に満ちた顔で通信の内容を書きとめた紙を渡してくる。

 受けと取ると隅々まで見渡す。

 見終えるとため息を吐く。

「全員よく聞け、大統領がフットボールからコードD666を発令した。これは合衆国に敵対する全ての敵に核攻撃を加えるものだ。心して掛かれ!」

 砲雷長に担当区域の座標を書いたメモを渡す。 

 砲雷長は担当の士官と共に攻撃座標を入力し始める。

 この作戦は、アジアにおける将来的な敵を排除を目的としたものだ。 そして、それらはインド洋にいる我々に容易いことだ。

「何故、今になってこの命令が発令されたんでしょう?」

 副長がこの命令に不信感を持っているようだ。

「予想されるのは、本国に核攻撃か上陸作戦を行われて成功されたもしくは欺瞞情報か……まあ、どちらにしても一旦、会議をする必要がある。副長、幹部仕官を会議室に集めてくれ」

 通信兵にもう一度、本当かどうかか司令部に問うように言って会議室に向かう。

 会議室に入ると近くに居た副長が紅茶を入れてくれる。

「さて、諸君今回の命令についてどう考える?」

 砲雷長が口を開く。

「任務自体は簡単ですが、こちら攻撃潜水艦を伴っていません。ですから、この海域からの離脱の方が困難と思われます」

 それに対して航海長が意見を出す。

「オーストラリアに居る味方艦隊に応援を出しては?」

「いい意見だ。トライデント発射の前に応援を呼ぼう。 他には?」

 皆が黙り込む。どうやら、ここには倫理観が強い者は居ないようだ。 いや、任務として割り切っているだけか。改めて思うと軍人とはなんと罪深い職業か。

「では、最終確認が取れ次第、作戦を開始する」

 それぞれが担当へ戻っていく。

 艦橋へ戻ると顔色を悪くした通信兵が立っている。

 顔色が悪いのは、後世から大殺戮者と罵られることをするのだから仕方がないか。

 紙を受けと取ると先ほどと同じ命令が書かれている。

「副長、深度をトライデントの発射ができる所まで上げろ、オーストラリアに居る第七艦隊に援軍要請を忘れるな」

 副長は全てを聞き終えると復唱する。 その間に二本のキーを取り出す。 

「副長、スリーカウントだ」

 二本の内の一本を渡すと発射装置に差し込む。

「カウント、スリー、ツー、ワン、ファイヤー」

 ファイヤーの合図でキーを回すと最終安全装置が解除され、発射スイッチが出てくる。 それをすぐに押し込むとこの潜水艦に搭載された二十八基のミサイル発射管がハッチを開き、トライデントを打ち出す。

 全弾発射すると急いでハッチを閉じて急速潜航をさせる。 

「オーストラリア方面へ急いで移動開始。ただし、敵に気取られるな」

 一息つこうとすると観測手が大声を上げる。

「直上からセンサーに熱源反応、かなりの高速物体と思われます」

 くっそ、対空警戒は完璧だったはずだ。何故だ。ステレス機か? いや、この地域に我々の索敵を破れる機体はないはずだ。今はもうどうでもいい今すべきは、

「急速潜航急げ、全員対ショック姿勢」

 早次で命令を出すのと同時に艦全体を強い衝撃が襲う。

「被害報告をしろ!」

 艦橋に響き渡るように叫ぶ。

「先ほどの衝撃は水面で爆発が起こったものと思われます。ゆえに直撃はしていませんが、

艦の装甲に著しいダメージを与えています。さらに機関部からの報告によると歪みの影響でバラストタンクの開閉ができないそうです」

 機関部からの報告に艦橋は騒然とする。

 最悪に近い状況だ。敵地のど真ん中で自由に行動できないなんてサバンナに裸で放り出されたのと同じだ。

「センサー類はどうだ?」

「辛うじて生きてはいますが、一度、工場に行くことは確定ですね」

 ここで、目も潰されたか。

「くそ、再び熱源反応。今、来ます」

 観測兵が言うと同時に再び衝撃波が襲う。

「さ、最悪だ。スクリュウ及び生命維持装備に甚大な被害発生。補助の装置を使っても数時間の内に艦内の酸素が足りなくなります」

 悪いことは続くと言うが神は我々に試練を与えすぎではないだろうか。 

「副長、艦内に居る者に私の酒を配れ。どうせ最後だ。景気よくやろう」

「了解です。おい、手伝え」

 近くに居た者を連れて私の部屋へと去って行く。

 まったく、味気ない人生だったな。毎日、訓練と巡回警備しかない単調な仕事。せめて、結婚の一つでしていれば良かったのだろうか? 親には三十六にもなって孫の顔を見せられなかったのは悪いと思っているが。 

「艦長もこちらを」

 私の部屋から戻ってきた副長がブランデーを渡してくる。受け取ると艦内に全体に声が届くようマイクを取る。

「諸君……戦友諸君、どうやら我々の命運は尽きかけているようだ。その酒は私からの最後の餞別だ。皆、準備は良いか?」

 周りを見渡すと艦橋に居る全員がグラスを上げる。

「では、乾杯」

 あちこちからグラスがあたる音がする。グラスを一気にあおると喉を焼けるような感覚が通り過ぎて行く。 

 誰かがアメリカの国歌であり、多民族国家である合衆国の国民の心をつながさせる〈星条旗〉を歌い始める。 一人、また一人と増えて行きしまいには、艦に居る全員で歌いあう。

 そして、歌い終えると隣にいる戦友たちと涙を流し始める。家族を、恋人を、それぞれの大切な人を思い浮かべて。

「副長、今日までありがう」

「何を言ってるのですか。貴方らしくない。土臭い名前だと言わわれながらもその地位に着いているではありませんか。それに黒人である私やヒスパニックそれにアジア系の部下達も貴方は白人と変わらない態度で接してくれました」

 副長は深呼吸すると、

「本当にありがとうございました」

 案外、私の人生も悪いものでもないようだ。最後にこれを聞けて良かった。

 副長は自室に戻ると敬礼して去って行く。

 次々と敬礼して艦橋から部下たちが出て行く。 

 最後の一人になると暗号文などの機密書を全て細かく切った後にトイレに流して処理し、ダメもとで救難信号を出してから、ブランデー入り紅茶を楽しみながら最後のときを待つ。 

 酔いが回るころには酸素がかなり薄くなってきている。

「いよいよか……」

 つい、言葉にする。 

 もう意識もなくなりつつある。それは死神の鎌が首にあてられている事を意味する。 

 突然、金属を切る音が艦全体に響き始める。幻聴も聞こえてきたか。海の中で救難できるはずがない。

 足音が近くでする。

「anatagakannkyoudesuka?」

 艦にいないはずの女性の声がする。

 随分、本格的な幻聴だ。私の知らない言語で話している。

「貴方が艦長ですか?」

 今度は流暢な英語で話し掛けてくる。それに、辛うじて頷く。

「良かった」

 なんて美しいんだ。  

 顔を上げると東洋人の女性が慈愛の女神と表現するにふさわしい優しい笑顔で安心してくれている。  

 一目惚れと言うべきか。私は始めてこの人と結婚したいと思った。きっと科学者達は口を揃えてつり橋効果だと無粋な言葉で片してしまうような感情だ。だが、きっと叶えてみせる。

 安心と酔いが私を眠りへと誘う。もっと、彼女を見ていたいのに。

「しっかりしてください」

 彼女が揺らしてくるのを揺り篭にして夢の世界へ旅立つ。 

 彼女にきっとプロポーズすると決意しながら。

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