6話 「魔王の拘束」
限界とは?
それは物事の最後の境目であり区切り、一般的にはゴールなどと比喩が用いられるだろう。俺はその限界という区切りをせずに己を鍛え続けていた。
何故?
いつかは自分もその限界が訪れると信じていたから。
だが、俺に限界は存在しなかった。
結果として。
俺は強くなりすぎた。
だがそれは人としてだ。
俺がどれだけ強くなろうとも人から変わることはない。人は脆く弱い生き物だ。電流を流されれば脳は活動を停止し一時的に動けなくなる。運が悪ければ死ぬ。
高度な高さから落下すれば息する間もなく砕け死ぬ。
脳を撃たれたり刺されたりしても即死、心臓を潰されれば活動はできなくなる。
それが俺の弱点であり、人の弱点だ。
そう忘れてはいけない。
自分は脆い生き物であることを。
「てめぇのせいで眠れなかったじゃないか」
「気にすることない」
「気にするわ!!ただでさえロリコン扱いされてるってのに……」
「そんな事は気にしてないはず。気配があると眠れないだけ」
「………知ってるなら添い寝なんてするんじゃねぇ」
「無理。私はトウマがいないと寂しくて死ぬ」
「ウサギか!うぜぇーんだよ消えろ!!」
俺は反射的に足で魔王を蹴り飛ばす。物凄いスピードで魔王が蹴られた方向に飛び壁に激突する。
ここは兵士の宿舎と呼ばれる場所だった。
この世界に来て一週間ほどで遂に寝床を手に入れたのだ。ちなみにそれまでは野宿をしていた。食べ物は草木や虫などだ。
あんまりしつこく聞くと食欲なくなっちゃうZE。
「ぴぇえええええええええ!!!!!」
「!?」
突然、ロリババアじゃなかった、夜が奇怪な鳴き声?いや、泣き声を上げる。俺は聞いたことのないその声に戸惑いを隠せないでいた。
えっ?これ嘘泣きじゃないよな?嘘泣きだったらデコピン本気でするけど?
ここで蹴った痛みで泣いてるのが出ないのは価値観の違いである。
「とーまぁー!!とーまぁどこぉーーー」
「いやいるよ!?お前の半径4mもしないところにいるよ!?」
「とーま!!」
俺を見つけた夜はいきなり泣き止み俺に飛びついてくる。またも反射的に蹴りそうになった足を俺は自制心で抑え込む。
「いなくならないで……」
「いきなり平静を装うんじゃねぇーよ!えっ?いきなり大泣きとか……餓鬼か!!」
「私は半径3m近くにトウマがいないと子供になる」
ふんすっ!と鼻息を出しながら魔王はドヤ顔でそう言った。
ああ……。
こいつ滅茶苦茶殴りたい。
「ちなみに10m以上離れると私の魔力が暴走して世界を滅ぼす」
「俺から離れるんじゃねぇーよ!!(泣)」
「それでいい」
「畜生このロリババア」
「その言葉を使うのはダメ」
「今から派遣隊発表なんだぞ?冗談じゃねぇーよお前背負ったまま出るのかよ……高校生の始業式並に大事なイベントだぜ?」
「あなたがそこまで大事に思ってないなら大丈夫」
「チョーダイジデス」
「世界を」
「超大事です!!」
俺は渋々、魔王を背に背負いながら部屋を出る。
何かしらの配慮で俺の部屋は俺と魔王の同室だった。本来は同期の兵士とペアになるのが相場らしい。
試験の日に情のテストだと言った時に使用した部屋に呼び出される新兵の俺たち。俺が最後だったらしく全員から白い目で見られる。
まぁ、1分前だしな。
「貴様は緊張感が掛けているのか!」
「ようハーミット、朝から元気だな」
「僕の名前はラハールだ!!!伸ばし棒しかあってないじゃないか!」
「ハもあってるだろ!!いい加減にしろ!!」
「すまない……って僕の名前を間違えるんじゃない!!」
「あはははは……」
「ハーミット朝からうるさい」
「すまないミオン……僕はラハールだ!!」
「あなた突っ込み向いてるわよ?兵士止めて就職したら?」
「ミオン冗談でも刺さるからそういう事言うのやめて」
幼馴染の言葉は刺さるらしい。
「三流芸人が」
「何でお前に三流よわばりされなきゃならん!」
「俺の話術を舐めるなよ?生半可な覚悟で聞いたら笑ってあの世逝きだぜ?」
「どれだけ自分の話術に自信があるのよ……それじゃあ私を笑わせてみてよ」
「無茶振りか!!」
「あんたが笑わせられるって言ったんでしょ!?」
まぁ、俺にそんな芸が備わってるわけなかった。
「あはははは」
「お前は村人Aか!」
「えええ!?僕の名前でもそのノリするの!?」
「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけど……」
「トウマ、最近の村人Aはチート性能が備わってて勇者より強いらしい」
「そんな別世界の話を持ってくるんじゃねぇーよ!!」
夜の話の話題は一体どこから来てるんだ……。
だが強い敵と戦ってみたいという好奇心があるのも事実だ。半分でもいい。
俺の実力を出せる相手を少し求める興味心があった。
そんな話題をしていると1分はすぐに過ぎ去り、時計台の鐘が鳴る。