14話 「天使の接触」
「お時間よろしいでしょうか?」
「私ですかな?」
そいつ明らかに貴族だろ。
中央広間に集まり、俺たち王国兵士たちに告げられた任務は裏世界の人間の捜索だった。しかし、残り少ない人類の土地といっても一周するのに一ヵ月ほど掛かるので俺たち兵士は分散していた。
まずは隊ごとに16方向に分散し(一部の隊は分散の分散)、さらにそこから隊で分散の捜索である。しかし、当然ながら雲を掴むような話で見つかるわけがなかった。
俺はフウとラハールと共に行動していた。
ちなみに先程から通りゆく人に職質をしているのはラハールだ。
「フウ、裏世界の人間ってのはお前みたいに気配とかには敏感なのか?」
「そうね。私たちは極力気配や人には絶対的疑心を抱いているわ」
「物騒だなおい」
「トウマ人のこと言えない」
背中の魔王から野次が飛んでくるが無視して話を続ける。
「だからこんな大通りにはいないと思う」
「ぶっちゃけ無駄って事か」
「そもそもこんなので見つかると思ってるの?」
「微塵も思ってねぇーな」
当然だが、この後二時間ほど職務質問をするが俺たちは裏世界の人間との接触はなく、手柄なしに城へ戻る事となった。
「貴様ら!!どうして僕だけが炎天下の下で裏世界の人間捜索をしているんだ!!」
「いやお前さ?見つかると思ってんの?」
「諦めたら終わりだ!!!」
「始まる前から終わってるっての」
と、中央広間に向かっていると俺たちは異変に気付いた。
「騒がしいな」
「ん?確かに少し広間が騒がしいな。人だかりもできているようだ」
「どうかしたのか?」
ラハールが人だかりの最後尾にいたリューシュに原因を聞く。
「第三部隊の兵士七名が重傷を負ったんだ……」
リューシュは少し血の気の引いた表情でそう言った。
「なんだと!?」
「おいフウ、表には出てこないんじゃなかったのか」
「どうやらかなりの過激派みたいね…」
「ミオンは無事なのか!!!」
「悔しいけど無事よ…」
「ミオン!!よかった!!!本当に!!」
と、抱き付こうとしたラハールを軽く右に流すリン。
「僕らが襲われたんだ……」
「悔しいけど背後から攻撃されて反応ができなかったわ…」
リンは悔しそうに歯を食いしばる。どうやら自分の鍛錬不足を悔いているようだ。
「そこを僕らと一緒に行動していた上官さんが庇ってくれたんだ……」
「ちょっと待てよ七人も怪我を負わされたんだろ?敵は一人じゃないのか」
「今確認されてる数だと八人。今現状で裏世界の人間が八人以上紛れ込んでいる事になるわ」
「そりゃあかなり厄介だな……」
全員が一丸となって俺にぶつかるならば未だしも、闇討ち?のような行動をしているとなるとかなり厄介だ。
「おお!!アリス様だ!!!」
「きゃー!!素敵!!」
人が重傷を負ったのに随分と色気めいた叫び声が聞こえるな……。
俺は人だかりを掻き進み、最前列まで行く。するとそこには血を流し横たわる兵士をその兵士の傍にしゃがみ込み、両手を添えているアリスの姿があった。
アリスの両手は直に怪我に触れている、がその触れている部分からは青い光が漏れていた。
治癒系統の魔法か……。
一目で俺はアリスの魔法を理解する。案の定、アリスが放っていた青い光が消えると傷口は姿を消し、血を流していた兵士は止血されている形となっていた。
「いつ見てもアリス様の『天使の接触』はいい魔法だよな」
「うちの王国でもっとも重要視されてる回復魔法だもんね」
回復魔法系統の利点は医療を凌駕する治癒力と勝手の良さである。この治癒力は恐らく、どれだけ発達した医療を持っても追いつけないだろう。
だがメリットだけでは魔法は使えない。デメリットも当然存在する。
まず、回復魔法の大半は自分に扱う事はできない。過去の世界で回復魔法を扱える人間が自分に回復魔法を使っている姿を俺は見たことがなかった。
そして、回復魔法は恐ろしく効率が悪い。魔力の消費が激しいのだ。完治をさせるとなるとかなりの魔力が必要となるはずだ。
恐らくアリスのあれは止血程度だからこそ連続して使えている。
完治させるとなるとアリスは三人目あたりでぶっ倒れるだろう。
それは刹那の出来事だった。
「!!!」
俺は思わず辺りを見渡すがそれは見つからない。
言いようのない俺の背中に……魔王に向けられた殺意のような眼差し。肌にヒシヒシと伝わってくるその感覚はあの世界をまたも思い出させる。
「裏世界の人間か……やりあってみたいもんだ」
そんな事を口にしながら俺はその場を後にした。