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家の中 2

「……見なかったという事にしたいのだが、な」

「ニャ、発動条件完了ですニャ。と、言うわけで呪怨発動開始、お命頂戴っですニャ!」


「…やれやれ、だな」言って喜色満面、目標かれに飛びかかろうとする少女に、おもむろに彼はそばにあったものを少女に向かって放り投げる。

「うにゃっ!」つい、彼女はそれを捕まえ、ゴロゴロと喉を鳴らしてしまった。

「にゃにゃにゃ!? にゃーにゃー」

そうして、男は我を忘れて食い物に夢中になる彼女を呆れたようにじっと見ていた。


「にゃーにゃー、はっ! こんな事で買収されてはいけないんでした。さて、あらためて…」己を取り戻しかける彼女に彼は無言で、次のものを放ってよこす。途端、彼女は「うにゃーっ…」と気の抜けた声をあげたかと思うと夢見心地で彼にすりよっていった。


 そこに「おにいちゃん」という場違いな少女然とした声が響いた。


「私は考えました、ハーレム構築可能な吸血鬼、サディストの夢と言うべき肉体的特性を持つ葉月、ちょっときつめの凪姉様、そして幼女趣味も死体趣味もないとなれば、…源十郎様の趣味このみは妹に相違ちがい有りません! 当然、設定は義理です」ビシッ!! と指差すその先では、誰が見ても誤解の余地のないような格好で二人がからまりあっていた。


「……な、ななな、何をしているんですか源十郎様っ!」

「ん、大きな猫に構っているだけだが…」

その誤解も弁明の余地も無いような格好で、彼は何の動揺も見せずに一言、そう、言い切った。


「げ、原十郎様、それはあれですか、妹とかなんとかというか、そういう設定のその前に、この身体に女としてのボリュームが足りないと、そう、言うことなんですか…」自分の明らかに女性としての曲線に欠ける身体と源十郎に可愛がられているような少女を見つめ少女は、落ち込んだ声で言う。


「くくく、屈辱的なのですにゃ、でも、こんなことでめげてないのですにゃ」そこにふと、我に返りかけたらしい猫少女の声がして、「う、うにゃ〜〜〜」再び男に何かを嗅がされ、その決意も虚しく男に弄ばれる。


「……何をしたんですか?」

「またたびを嗅がせて見たんだが、化け猫にもやはり効くんだな」

「ま、まぁそれは良いとして…、いったいソレは、なんなんですか?」そこから、無理矢理視線を引き剥がすようにして疑問符を投げかける。


「たぶん、暗殺者だろうな。まぁ、性質からして化け猫というのは向いているんだろうが…」言いつつ、疑問符つきの視線でその化け猫の喉を誘惑に負けたように撫でる。


「はっ!! こんな事ではいけないのですにゃ、今回はこのへんで勘弁してやるのですにゃ」三度みたび我に返った少女は、ようやく男から逃げるように走り去った。その途中で、地面に顔面からダイビングしたのはご愛敬である。


「……ところで、その格好は?」微妙な沈黙が訪れ、その見慣れない服装をした少女を見遣り、少々呆れ気味につぶやく。


「いいい、言わないで下さい、ちょっとした嗜好の発露っていうかなんというか、…乙女の秘密です」


「…そうか」いつにも増して彼女の少女然とした姿を協調する姿を上から下まで見やり、一言ぽつりと言って、彼は再び残りのサンマを焼く作業へと戻った。


 再び言い様のない沈黙が訪れ、その側を通り過ぎようとする少女の背中に「…おまえはそのままで良い」という声がかけられるのだが、追い打ちのような前半の一言のせいで、少女に彼の言いたいことの全ては伝わらなかった。


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