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家の中 1

 秋の柔らかな日差しが射し込む部屋いえの中、気づくと闇のわだかまりが落ちていた。時刻は夕暮れとも言って良い日差しがそよぐ、午後の事だった。久々に彼、能登 源十郎は一人、落ち着いた時間を過ごしていた。


 不意に部屋の温度が下がり、どこからともなくおとろおとろしい音楽が流れ出る。


 そいつは闇の中で不気味に光る瞳にゆるやかな殺気を宿し、地の底から響くような、と本人だけは思っているらしき声を発した。


「みぃーたーなー…」それは、本人だけは恐ろしいと思っている気な、低く可愛らしい声を上げた。


「……ふむ」期待された目標かれの反応は、非常に拍子抜けするものだった。それを振り向いて、一瞥するなり、男は、そこには一顧だにせず彼は作業の続きを始めた。


 ようするに、七輪でサンマを焼くという作業を。


「…みぃーたーなー、……みぃーたーなー、…………みぃーたーなー」気を取り直したように彼の背後の小さな闇のわだかまりから再度、声がしつこく響く。


「…えーと、意外な反応ですが、ここでめげてはいけませんのですニャ、みぃーたなぁ」となにやら、その中で決意を新たにする声が響き、その闇のカタマリは彼の側へと移動してきた。


「コホン、えーと…みぃーたーニャー、じゃなく、…みぃーたーなー、です。……ええと、これに応えてくれないと、非常に困るのですのにゃ、………えとえと、話が先に進まないので、ニャんか返答を返して下さいですニャ」そう言って、闇の中から不満を述べながら出てきたのは、小柄ながらも出るべき所の出た神無とは非常に対照的な身体つきの一人の少女だった。その闇の中で人間ではない事を表すかのように彼女の瞳が満月のように光る。


 しかし、精一杯がんばっているような彼女には申し訳ないが、その頭の上で何かを期待するかのように揺れる茶色い猫耳と尖端の白いしっぽ付きの、その姿のどこをどうひっくり返しても可愛らしいという表現しか思い浮かばない。それに、その口元からは涎が垂れ、その瞳は源十郎では無く、明らかに食欲をそそる臭いを醸し出す秋の味覚サンマに注がれ、それは、もうなんとういうか物欲しさが全身から滲み出していた。


 その誘惑を振り払うようにして、猫耳がしなだれ、しっぽがうなだれたまま、とてとてと気落ちしたように闇の中に戻る少女は、しつこく同じ行動を繰り返そうとして、目標くだんの人物が、彼女をようやく諦めたという感じで見つめている事に気がついた。


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