何も聞えぬ闇の中で
私は闇の中、ただぼーっと突っ立っている。悪魔が、恐ろしい悪魔が私を蔑むように笑いながら脅かしてくる。何度も殺されるのでないかという恐怖。私は身を落とした―――。
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昔からこうだったわけじゃない。ずっと昔。気が遠くなるほど昔はこうじゃなかった。日々が輝いていて、私の心はガラスのように透明で、純粋だった。
いつからだっただろうか。こんな風に絶望を味わい、苦しみ、嘆き、砂漠の中の一本の木のようになってしまったのは。
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家族は、母は、父は、事あるごとに嘆く。どうしてこんな子に育ってしまったのか。どうして親にこんな口をきくようになったのか。どうしてこれほど暴力を振るうようになったのか。
答えはただ1つしかないのに。その答えは彼らには見えないのだ。私にはこんなにはっきりと見えているのに。
どうしてかって?そんなの、あまりに単純すぎる。親の鈍感さ。私が苦しんでいる時(これもずっと昔のことだが)も、彼らは全く気付かず、私が告白して初めて知ったのだから。彼らは信頼を得るのに失敗した。あの一度のミスのせいで彼らは何年間も積み上げてきた信頼を一瞬にして失ったのだから。
それ以降も、私は何度も苦しんだ。己の首を紐でしめるとどうなるのだろう。そう思って実際にやってみた事もある。自分に傷をつけるのは、どんな感じなんだろう。実際にその傷が今も残っている。
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彼らは失敗したのだ。私の兄を溺愛するあまり、私を見るのを忘れてしまっていたのだ。兄に長所といえる長所はない。私は必死になって様々な事に手を出し、これからもそうするつもりなのに、彼らは兄を庇うのに必死になりすぎた・・・。
親になめてもらえなかった私は、人を信じなくなった。己さえ信じなくなった。最後にたどり着いたのは一つ。人類を滅亡させること。それが地球に生息する生命体にとって良いこととなるはずだ。人に飼われた獣は、人無しで生きていけなくなる。その姿があまりに哀れだったのだ。
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私は悪魔だ。人に殺意を持ち、牙を剝くタイミングを狙う。そうだ、私の目の前に現れる悪魔は私の仲間なんだ。人間が敵。私には、悪の道しかないのだ。
それの答えも一つしかない。どんなに愛を捧げても、どんなに心を捧げても、私は私の作り出した幻覚に対してでしかないのだから。私はただ、闇に向かってボールを投げ、そのボールを待っていただけなのだから。永遠に帰ってくるはずのないその小さな球が帰ってくるのを、永遠に待とうとしていただけなのだから。
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人類を滅亡させる。そんなこと、できるなんて思ってはいない。けれども、親や家族に抱く思いは1つ。哀れみと憎悪だけだ。