資産家独居老人の道楽2
ワシは剛田甚左衛門78歳だ。
どうも最近めっきり客が来なくなった。
次に使うつもりだった名刀を鞘から抜き刀身を眺める。
素晴しい波紋だ。
先日連絡の来た銀行員や保険の外交員の女性は、せっせと情報屋にワシの情報を売ってはいるらしい。
別の筋からの情報では、ワシの家はヤバいという噂が流れていて、強盗を指示する奴らのリストから外されたとのことだ。
なんてことなんだ!
ワシは強盗団に怒りを覚えた。
試し斬りが出来ないではないか!
湯呑の上質な緑茶をすすりながら、策を練る。
あ。
あれを試してみよう。
ワシは昔のコレクションの高級腕時計から最高の品を手首に巻き、着流しの着物に高級ブランドバック、そして長財布を入れてスマホでタクシーを呼んだ。
数十分後、黒塗りのタクシーが我が家の前に停まる。
杖をつきながら、それに乗り込み運転手に行き先を伝える。
「街へ向かってくれんか、繁華街の辺りで良い」
「かしこまりました」
しばらくタクシーを走らせるとネオン輝く繁華街が見えた。
「釣りはいらんよ」
そう言って1万円を運転手に手渡す。
ショーウィンドウに映るワシの姿は年老いたご隠居という感じだろう。
客引きから声がかかるが、断りながら繁華街を歩いて行く。杖の重みが心地よい。
この杖は100年前に作られた業物の仕込み杖だ。
明らかにチャランポランな風体の若者がワシに声をかけてくる。
「おじいさん、キャバクラどうですか?」
「ほう、美人さんはおるかの?」
「それはもちろん美人ばかりですよ」
「いくらかの?」
「ワンセット50分で9000円ですけど、特別に5000円でいいですよ!」
「それは安いの、ボッタクリではないのか?」
「いやいや、この街にはもうボッタクリはありませんよ」
「じゃあ寄ってみようかの」
「はい、新規1名様セット5000円でのご案内ですけどいけますか?…。いける?了解です」
チャランポランな若者がちゃんと仕事をしておる。人は見かけによらんのう。これはハズレかも知れん。
若者に案内されてビルのエレベーターに乗せられる。
なかなか高級そうなビルで清潔なエレベーターじゃの。
5階で降ろされてエレベーターの目の前に店の扉がある。
「おい、兄さん?この1軒だけなのかの?」
「お客様、この店はワンフロアすべて使っているこの繁華街で1番広いキャバクラですよ、在籍数も多いのできっと気に入る娘がいるはずです」
店の看板には「A」とだけ書いてあった。
チャランポランな若者がどんどんチャランポランさを失いながら店の扉を開ける。
「どうぞごゆっくり」
そうチャランポランだった若者は言い残して店を去って行った。
席に案内された2人がけの狭いテーブル席だった。
「すまんがワシは狭いところが苦手での、もう少し広い席をたのめんかの?」
「かしこまりました」
こうしてワシは広めの席に座った。
若いボーイが温かいおしぼりを持ってきてくれる。
「すまんのお」
「いえいえ、しばらくお待ちください」
するとなんとも素晴しいドレスを着たショートヘアの若い娘がワシの横に座りながら。
「アキです。よろしくお願いします」
と言った。
なんとも言えない香水の香りが娘の胸元からしてくる。
「何を飲まれますか?」
「そうじゃのお、もうこの歳なんで強い酒は無理じゃのう」
「薄い水割りでもおつくりしましょうか?」
「もう少しシュワシュワしたのがいいのお」
「ビールとか?シャンパンとかですか?」
「アキさんとやら、どっちがいいかの?」
「それなら私を場内指名にしてシャンパンのみませんか?」
「そうしようかの」
「シャンパンのメニューお持ちしますね」
「そんなのは面倒じゃから1番高いのにしてくれ」
アキという娘はボーイを呼んで声をかけた。
「ご注文ありがとうございます」
ボーイが片ひざを付いて頭を下げる。
アキという娘は大喜びでシャンパンを飲んだ。
「そういえば剛田さんの腕時計ってなんかすごいですね」
「まあ、昔の趣味じゃよ」
「おいくらくらいしたんですか?」
「1000万は越えてたかの」
「えー!?」
それからアキはシャンパンを飲み干した。ワシは1杯目をちびちびと飲んでいた。
「アキとやらよ、今日は客が少ないみたいじゃの?」
「まあ、平日ですからね」
「なんか、こう、せっかく遊びに来たのにさみしい感じじゃの」
「わたしとだとつまらないですか?」
「そういう理由ではないのじゃ、せっかく遊びに来たからパートした気分になりたくての」
「女の子増やしますか?」
「全員呼んできてくれ、人数分のシャンパンもな」
こうしてワシは小1時間で100万円ほどを使って店を出た。
アキとは連絡先も交換した。
上手く釣れるかのお。
こうしてワシは2日おき3日おきにアキに会いに行った。
「剛田さ〜ん。こんど同伴しませんか?」
アキは女子大生だった。
親の仕送りも無く給付型奨学金で学ぶ真面目な学生だ。
そんなアキをワシは気に入り始めていた。
「いつ同伴とやらをしようかの?」
「明後日の夕方とかは剛田さん空いてますか?」
上目遣いがなんとも可愛い。
「何か食べたいものはあるかの?」
「お寿司食べたいかも」
「よしよし、わかったぞ」
そして2日後待ち合わせ場所に私服のアキがやって来た。
「剛田さんって、いつも着物なのね?」
「これが楽での。さあ寿司を食べようかの?」
待たせてあったハイヤーにアキを乗せ、車を出させる。
30分ほどで目的地の寿司松だ。
ワシは入り口の扉をガラガラと開けて店内に入った。
「これは剛田さま!お久しぶりです。さあこちらへ」
店主の松原とは40年近い付き合いだ。
アキは店内を見て関心している。
「さあ剛田さま、お連れ様どうぞこちらへ」
「ありがとう。アキは食べれないものはあるかい?」
「なんでも食べれます!」
こうして寿司松のおまかせコースがスタートしたのであった。
「剛田さん!こんなに美味しいお寿司!わたし初めてです!」
「それはよかったのう」
「でも、こんなに美味しいのになんでお客さん来ないんだろうね?」
「お連れ様、今日は剛田さまの貸し切りなんですよ」
「え!?」
こうしてワシは松原に10万円ほど支払って、店の入り口で待つハイヤーにアキと乗り込んだ。
「ねえ!剛田さん!?お寿司いくらするの?」
「ワシが今日頼んだのは1人5万くらいじゃの」
「えーー!?」
こういう同伴を数カ月続けた頃にアキがアフターなるものを提案して来た。よく聞くと閉店した後にデートのような物をすることらしい。流石に起きてられそうもないのでやんわりとお断りしたら、アキは悲しそうな顔をしていた。
だが、シャンパンが3本ほど空くとアキは陽気になってこう言った。
「わたしが学校もお店も休みの日に剛田さんの家に遊びに行ってもいいかな?」
「それはかまわんぞ、ぜひ年寄りの慰みに来てくれ」
こうして度々アキは我が家へ遊びに来るようになった。彼女は何にでも興味を示すので、昔の趣味の高級腕時計のコレクションや絵画、日本画、水墨画、焼物など見せてやった。
金庫から金のインゴットを取り出して持たせてやったこともある。
そして、アキと出会って半年も過ぎた頃にアキが急に甘え出した。
「ねえ、剛田さん?今夜泊まってもいい?」
「こんな年寄りの家に泊まっても楽しくなかろう」
「添い寝しようよー」
ほう、78歳の年寄りが18歳の娘と添い寝か。
悪くはないのお。
「泊まってもいいぞ、ただ添い寝と言ったって加齢臭がするだろうから客間にも布団を用意しておくからの」
夜中ワシが寝たふりをしていると、アキがワシのベッドからそっと抜け出して行った。
さて、どう出るかの?
アキは階段をそっと降りていき、玄関の施錠を外した。
せつないのお。
このワシの胸にこみ上げてくる悲しみは誰にもわかるまい。
気配がする。
1人。
2人。
3人。
4人。
5人。
6人。
オールスターじゃのう。
アキを入れれば7人か。
高級腕時計の置いてあるキャビネットを漁るカチャカチャという音が微かに聞こえる。
ワシが階段を忍び足でそっと降りて行くと、見張りの男が階段の下に居た。
ワシは戦国時代に忍びが実際に使っていたクナイを投げた。
それは見事に見張り約の男の喉に深々と突き刺さり、男は声も上げずに血の泡を口から出しながら倒れ込んだ。
ワシは急いでその男を支えてそっと床に寝かしつけた。
アキは男たちにあれはここにあるよ!
これはそっち!
とテキパキと指示を出していた。
残り6人。
高級腕時計のキャビネットの部屋を除いた。
2人の男がカバンに腕時計を入れている。
ワシは部屋の扉をそっと開いて、電気を消すと右手で持った兜割りで手前の男の頭蓋を縦に真っ二つにしながら、左手に持った日本刀で奥の男の肩甲骨の間から心の臓を貫いた。
その2人の男もそっと床に寝かしつけた。
すると背後から「そっちはどうだ?」と言う声と共に1人の男が部屋に入ってきた。
ワシはその男の股間から胸まで切り上げた。
「ぎゃあ!」
男は断末魔の叫び声を上げた。
ワシはその男の襟首をつかんで、金庫のある部屋に放り投げた。大パニックである。特にアキが。
股間から切り上げられた身体からは内蔵が飛び出して、腸も切り裂かれているので、たまらない異臭がする。
男のうちの1人はその場で嘔吐していた。
ワシは無視して袈裟懸けに切る。
上半身が斜めにズレていき頭から上の部分が床に落ちる。
金庫と遊んでいた男は「すいませんでしたー!」と床に土下座して謝りながら号泣している。
そしてワシを見て拝み始めた。
「ゆるしてください!」
ワシはその両の腕を切り落とした。
「うわー!!」
切り落とされた手首からは脈打つ様に血液が飛び出している。
もう長くはないな。
介錯してやろう。
その男の首が落ちた。
アキはというと、どこから手に入れたのやら拳銃を構えていた。
「アキよ、撃ったことはあるか?」
「うるさいわね!この化け物が!」
パンッ!
ギャンッ!
ワシは弾を切り落とした。
「剛田さん何者なのよ!?」
「ただの独居老人じゃよ」
そしてワシはアキの首元に刀をトンッと当てた。
「みね打ちじゃ」
ワシは警察に連絡した。
「剛田さん!?最近静かだったのにまたですか??」
ワシも今回は反省しておるところだ。
ひょっとしたらコスパが悪すぎるかも知れん。
部屋にはアキのスースーと言う呼吸が響いていた。
ワシは懐紙で血に濡れた刀を拭う。
「これも良い刀だな、次はあれを使おう」
剛田甚左衛門の道楽に終わりはない。




