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上の階

掲載日:2026/07/16

 ――え、怖い話をしてくれ、ですか?

 うーん、怖いといえば怖い話はありますけど……。聞きます?


 私、マンション暮らしなんですけど、上の階の住人がやたらうるさくてですね。

 子どもでもいるのかな、ドタバタ走り回ってる音がして。

 あとは何かで床を叩いているのか、ドンドンって突くような音。


「また上の人、うるさいわねえ」


 同居している母も少し顔をしかめて、ため息をついていました。

 この音がするようになった時期、いつからだったかなあ……。だいぶ前からのような気もするし、つい最近のような気もします。

 すみません、私がほとんどこの騒音問題を気にしていなかったので、あまり記憶がなくて。

 むしろ、私が在宅で仕事してて、昼間一人で家にいるから、誰かの生活音がすると安心するんです。

 たまに別の部屋からギターやピアノの音も聞こえてきますよ。

 それ聞くと、「ああ、ここは私一人ぼっちじゃないんだなあ」って感じ。

 ……すみません、話がそれましたね。


 とにかく、母と「上の階の人って何やってるのかしら」「家族連れなのかな、そういえば会ったことないね」と話していたんです。

 マンションって、同じ階の人とすらもあまり頻繁に会ったり話す機会がないので、違う階の住人だとなおさらですよね。


 ある日、とうとう我慢の限界に達した母が、「管理人さんに代わりに注意してもらおう」と言い出して、一階の管理人室に一緒にいくことにしたんです。

 それで管理人さんに文句を言って、注意してもらうように頼んだら、その管理人さん、不思議そうに首を傾げていたんですよね。


「上の階、誰も入居しておりませんが」


 私はその場が凍りつくのを感じました。

 しかし、気の強い母は「そんなはずはない、なら直接確かめるからついてきてほしい」って、管理人さんを巻き込んで、上の階に行くことになったんです。

 母は一人きりでも居間でホラー番組を平気で見てるくらい、ホラー耐性のある人でした。

 だから、肝が据わっていて、「何が出てきてもやっつけてやる」くらいの、度胸のある女性だったんです。


 こうして、直接上の階の住人に文句を言いに行った母と管理人さん、そして一緒についていくことにした私。

 玄関のドアは鍵がかかっていなくて、ドアノブのレバーハンドルを回すと簡単に開きました。

 中に入ると家具も何も置かれていなくて、誰かが生活している感じはありません。やっぱり誰も住んでいないみたいでした。


 ……ただ、床にお酒の空き缶や空き瓶が転がっていて、明らかに「誰かいた」痕跡があったんですよね。

 床の上には、ついさっきついたような泥の足あとだけが、廊下の奥へと続いていました。

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― 新着の感想 ―
永久保セツナ 様 コメント失礼します。 人が住んでいないという恐怖、誰かがこっそり忍び込んでいたという恐怖、この二つのことが重なると、やはりとても怖いですね・・・
読ませていただきました。 怖いですね〜。 上の階にいた人は誰なんでしょう? 泥棒?ホームレスの人? 管理人さんにクレームをつけるぐらい頻繁に物音がしていたなら、ほぼ住んでいたんでしょうね。 謎は深ま…
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