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追放された第二王女はパン好き黒柴フェンリルと旅をする

作者: 柴門そら
掲載日:2026/02/21

初投稿です!どうぞよろしくお願いします。

【連載版】始めました!連載版も読んでいただけると嬉しいです。連載版はこちら→https://ncode.syosetu.com/n1620lv/

「第二王女レオノーラ。

其方は王都を離れ、王領セレーヌに監査官として直ちに向かえ。」


玉座の間に満ちていたざわめきが、ぴたりと止んだ。


重厚な赤絨毯の上で、レオノーラはゆっくりと顔を上げる。


今日は先日の事件解決の褒賞の式典ではなかったのか。

その碧い瞳は揺れていない。揺れていないはずだった。


「……どういうことかお聞きしても?」


王は感情を滲ませない声で告げる。


「貴族院における不正会計の解決。確かに其方の働き、見事であった。

ただ、あれは大きな混乱を招き、王家の威信を損なった。」


「威信よりも、民の暮らしのほうが重要です。」


間髪入れずに言い返す。


その瞬間、貴族たちの空気が凍る。

王はわずかに目を細めた。


「だからだ。お前はもう少し広い視野を持て。」


沈黙。


レオノーラは拳を握った。

その影が、わずかに揺れる。


「……正論だな。」


低い声が、耳元で囁いた。

彼女は弾かれたように振り返る。


誰もいない。


ただ、足元に小さな黒い犬が座っていた。


赤い瞳が、まっすぐに彼女を見上げている。

え?しゃべる犬?


周りには、この犬が見えていない?聞こえていない?


ふっとその姿が消えた。見間違い?私、アタマ、おかしくなっちゃった?


□□──────────────────□□


なんとか平静を装って、自室に戻ったけれど、

今日のことを思い出して、クッションをソファにばふんと叩きつける。


「王領のセレーヌに赴任って、、、それって明確な左遷じゃないの!

あの貴族院がからむ不正事件を解決したのは私なのに。」


温かい紅茶をそっとテーブルに置いたエイミーが答える。いい香りだ。


「レオノーラ様、荒れてますねー。まずはお茶でも飲んでくださいまし。

そして、荷造りしないと間に合いませんよ。明日出発ですよー。」


侍女エイミーは、淡々と告げる。


「エイミー!ここは、そんな酷い仕打ちってありますか!くらい言ってくれてもいいんじゃないの?」

「はいはい、レオノーラ様、わかってますよ〜、私はどこへでもお供しますから安心してくださいね。」


相変わらずのマイペース。


「そういう問題じゃなくて!」

私はベッドにダイブして、大きなため息をついた。

そして頭の中でぐるぐると今日の出来事を思い出していた。


事件は解決したけど、父が言うように確かに周りの反発も大きかった。

それはわかってる。


でも私は正しいことをしたわ。

それがどうしてこうなるのよ!


わかってる、一度、王都を離れて頭を冷やしてこい、ということだろう。


私だって、ちゃんとやれる。

完璧なお姉様と同じようにはなれないかもだけど、

ちゃんと役に立てるってようやく示せると思ったのに・・・


エイミーが荷造りをしている横で、

ポスポスと枕をたたいて、ぐずぐず言っていたら、知らない間に眠りに落ちていた。


□□──────────────────□□


翌朝―


出立。


姉が見送りに来てくれた。


「無理しないのよ。困った時はいつでも帰ってくるのよ」

とハグをしてくれる。


(いやいや、左遷だから、結果出さなくちゃ帰ってこれないよね。お姉様)

と心の中でつぶやく。


姉のことは大好きだ。王族としても、姉としても完璧な人。

素晴らしい女王になる。みんなそう言っている。妹にはちょっと甘い。


私も姉の助けになりたい。

でも、いつも空回りしてしまう。

今回のこともそうだ。そんな自分が嫌になる。


「ありがとう。お姉様。行ってくるわ」

ちょっとぎこちない笑顔になってしまったけど、心配はかけたくない。


さて、エイミーがついてきてくれるけれど、護衛はなし。お父様も結構放任よね。

エイミーは実は侍女兼護衛になるほど腕っぷしは強いし、私もそこらの騎士よりは強いから大丈夫(だと思う)


質素な馬車にエイミーと乗り込む。

初老の御者が一人。


アイテムボックスがあるから、まぁ荷物はないし、

馬車一台で問題ないんだけど、これが第二王女の出発でいいのかしらね?


しかも、この馬車、揺れが半端ない。

馬車で5日の旅。耐えられるかしら・・・


□□──────────────────□□



王領といっても小さくてかなり辺境に近く、飛地で他領に囲まれている。


今回はそこの監査官としていくのだけれど、その領地では何やら問題があるらしく。


今回のミッションはそれを探ること。

サクッと解決してすぐに王都にもどるんだから!


さて、王都を出て4日目。

道中これまでは宿があったけれど、ここから領地までは街はない。

なので、なんとか今日中に辿り着きたい。野営は流石に勘弁してほしい。


しかも昨日からの雨で道が悪い。さらに馬車が揺れる。お尻が痛い。


「レオノーラ様、なにか軽いものでも食べましょうか?

昨日の宿でサンドイッチを持たせてくれたのですよ」


「そうね、昨日のお宿のパンはすごく美味しかったわよね」

「なんだか、あの地方特有のパンらしいですよ」

と、エイミーがバスケットから包みを出そうとした瞬間、


ガタッと大きく馬車が傾いた。


「レオノーラ様!」とエイミーが支える。

「トーマス、大丈夫?!」と御者台を見る。


「すみません。レオノーラ様!車輪がぬかるみにはまってしまったようでして」


大きく傾いた馬車から出てみると、なるほど、という状況。

初老男性一人、女性二人。馬車を押してぬかるみから出られるかどうか・・・


3人で途方にくれていたら、


「助けてやってもいいぞ」


と後ろから声がした。


振り返ると小さな黒い犬。

あの時王宮で見た犬!


幻覚じゃなかった、そしてやっぱり喋ってるじゃない!


「レ、レオノーラ様、こ、この犬は?」

「あ、エイミーにも見えるのね。よかった。私の幻覚かと思ったわ。」


その小さな黒い物体は、

後ろ足で耳を掻いて、ぶるぶると体をゆすって座り直した。


「ちょっと、あなた何者なの?

助けるってどうやって?しかもどこから来たのよ。」


「ふん、そのサンドイッチをくれたら、助けてやる」


「レオノーラ様!まず喋ってる時点で怪しんでくださいよ。なに思い切り順応してるんですか!」


「え、エイミー、でも敵意はなさそうよ。態度は悪いけど。」


「レオノーラ様、もしかして魔獣の子供ですかね?でも魔獣って喋れるんですか?」

「トーマス、確かに魔獣の可能性はあるわね。でもこんな魔獣見たことある?」


「ごちゃごちゃ言ってないで助けて欲しいならそう言え。でもまずはパンだな」


「ええ・・・パン?」


エイミーがおそるおそるバスケットから取り出したサンドイッチを差し出す。


それを黒い犬が口にした瞬間。黒いモヤの中から大きな黒い狼が現れた。


「え? フェンリル?」


「レオノーラ様、でも黒いフェンリルなんて聞いたことないですわ。」


その黒い狼は、馬車に近づき、

大きな体を傾いた馬車にあてて、

よっこらしょと戻して、ぐいっと押したら轍から車輪がすぽっと抜けた。


「ほら、元通りだ」


得意げな謎の生き物。


「え、そこはフェンリルだったら魔法でパーっと直すんじゃないの?ねぇ、力技?物理なの?」


「文句あるか?」

(いやないけど・・・)


「レオノーラ様、いやここはもう少し警戒した方が」と、トーマス。

「でも助けてもらったんだし、大丈夫じゃない?」


黒いフェンリルに向き直り、

「ありがとう、あなた、名前は?」

「ふん、アーヴェルだ」

「こっちから聞いてなんなのだけど、立派な名前ついてるのね。人間みたい。

アーヴェル、アーヴェルね、うーん、じゃあヴェルね。

そしてありがとう。あなたのおかげで助かったわ。

なんだかよくわからない生き物だけど、よかったら一緒に来てくれる?お礼もしたいわ。」


「でもその姿だとちょっと目立つわね」


「レオノーラ様、目立つ、目立たないの問題ではないのでは?」

トーマスは冷静だ。


「あ、大きいから馬車に乗れないとか?」

(そうじゃなくて!)という二人の視線を浴びていると、


また黒いモヤが出て、小さな犬サイズに小さくなったヴェルがいた。

「これなら問題ないか?」


「そ、そうね。じゃあ馬車に乗りましょうか?暗くなる前に到着したいわ」


ということで、

フェンリル?らしき魔獣「ヴェル」と領地に向かうことになったのだった。


□□──────────────────□□



ガタゴトと馬車は揺れる。相変わらずお尻は痛い。でもそれも今日で終わりよ。


ヴェルは座席の上で丸くなって眠っている。

バスケットの中のサンドイッチは全部彼のお腹の中。よほど気に入ったらしい。


私たちの食事はアイテムボックスから出した、干し肉と硬いパン。

「なんならもっと食料持ってくればよかったわ。甘いものとか。」


窓の外を眺めながらつぶやいた。


「レオノーラ様はお腹が空くとちょっとご機嫌斜めになりますよねー。

甘いものだって結構たくさん持ってきていたのに、

あと1日で着くからって昨日食べちゃってましたし。」


ぐうの音も出ないが、お腹はぐうと鳴る...


日が暮れる頃、城壁が見えてきた。



□□──────────────────□□



「レオノーラ様、お待ちしておりました」


領主の館では、執事が出迎えた。横に補佐官もいる。

今は領主不在で臨時に補佐官が執務を指示している。


先日領主が川で遺体で発見されたのだ。

護衛をつけずになぜそんなところにいたのかは不明だが、領主不在のまま、そして事件は解決されないまま3ヶ月が経っていた。


「出迎えご苦労様です」


「お部屋の用意ができております。

晩餐の準備が出来次第、お呼びいたします。そして荷物を運ばせますので」


と言ったところで馬車も1台で荷物が少ないことに気づいた執事。


「後から荷物を積んだ馬車がくるのですか?」

「荷物は全部アイテムボックスに入れてきたわ。

部屋で必要なものを出すから大丈夫。

家具の配置換えなどで必要があれば人をお願いするわね。」


「承知しました。それではお部屋にご案内致します」

とその時、黒い小さな犬がレオノーラの足元にいることに気づく


「レオノーラ様、この犬は・・・?」


首を傾げるヴェル。ちょっとあざとい系じゃないこの子。


「あ、あぁ隣町からここに向かう途中で拾ったのよ。

この子の寝床になるようなクッションや毛布も用意してもらえると助かるわ」


「はい、承知いたしました。

おや、この辺りでは珍しいですね...東の国にいる犬種じゃないでしょうか?黒毛のものは小さな狼に似ていると。茶色のものは狐ににていると聞いています。確かシヴァ?いやシバ?でしたか。初めてみました。」


「そうなのね」

(知らなかったわ、とにかく魔獣ってバレなくてよかった...)


「それでは、お部屋にご案内致します」



執事の案内で廊下を歩く。


手入れの行き届いた屋敷だが、なんだか寒々しくて暗い感じがする。

あんな事件があってまだ解決していないのだから当然か。


「こちらのお部屋でございます」


シンプルだけど明るい部屋だ。もう暗くなってしまったが日当たりは良さそうだ。

「私は隣の使用人部屋を使わせていただきます」とエイミー。


「お屋敷のご案内は明日にでも」

「わかったわ、ありがとう」


まずは湯浴みをして、着替えなければ。


「ヴェル、あなたも一緒に入る?埃だらけでしょう?」


「な、ななな何を言う。オレは汚れてなんてないぞ。風呂は入らん」


「へぇ、魔法とかで綺麗になるのかしらね。それなら便利よね」

抱き上げてくんくんしてみたが、確かに臭くない。

お日様の匂いだ。もふもふして気持ちいい。


嫌そうに前足で突っ張って距離を取ろうとするのはなぜだ。解せぬ。


「喋れることはエイミーとトーマス以外には秘密よ。」

「ああ、わざわざ面倒なことはごめんだからな」


湯浴みをして着替えをしたら、お茶と焼き菓子が用意されていた。


「ありがたい・・・お腹すいた・・・」


温かい紅茶と焼き菓子を堪能していたら、

横からぐいぐいとアピールしている黒い物体が。


「オレにも菓子をよこせ」

「ええ・・・あなたお菓子食べても大丈夫なの?」

「もちろんだ。食事は人と同じで大丈夫だ。というより同じものがいい」

「あなた、魔獣よね?」

「さあな」


その時ドアがノックされた。

「晩餐の準備ができました。」

「ありがとう。今行くわ」


□□──────────────────□□


晩餐は、素朴だが温かいものだった。


ミルクをたっぷりとつかったシチューに

メインは鹿のローストだ。

パンも焼きたてで美味しい。


王宮の料理ももちろん贅を尽くしたものも多いし素晴らしいけれど、

私はこう言った料理の方が好きだ。


そして、パン。ここのパンも美味しい。

果物やナッツを練り込んである。ワインに合う。

赤ワインもこの土地の名産らしい。


「トレバーさん」

執事に声をかける。

「は、レオノーラ様」


「明日の朝、今回の調書をお願い。そして午後は補佐官と面談をしたいわ」

「明朝、今回の事件の調査報告のために騎士団長を呼んでおります。」

「そう、助かるわ。あ、朝食は部屋でとることにするわね」

「承知しました」


晩餐の後は、エイミーと作戦会議だ。


部屋に戻ったらエイミーがハーブティーを淹れていた。


なぜかほぼ同じ料理をヴェルも食べている。

お肉は食べやすいようにカットされている。さらにパンは山盛りだ。

「よく食べるわね」

「本来はあの大きさだからな」


「まあいいわ、エイミー、明日からの作戦会議よ」

「はい、レオノーラ様。

屋敷内は先ほどざっくりと回ってみました。

メイドと侍女が数人、護衛が2名。調理場に料理人と助手、そしてランドリーメイド。

家政婦長、執事ですね。使用人は少ないほうかと。前任の領主様が単身だったからかもしれません。」


「領主の家族はいないの?」


「王都に奥方と娘が二人いるそうです」


「単身で来ていたのね。正式な領主が決まるまでの任期は3年だったからかしら?

今は丸2年だったわね。」


「そうですね。」


「使用人の雰囲気はどう?」


「皆口数が少ないですね。そりゃ事件のあとということもありますが、

こちらが監査官ということもあり余計なことは話さない、という雰囲気があります」


「あ、でも料理長は感じがいいです。料理も美味しいですし」

「確かに料理は美味しかったわ。明日お礼をいわなくちゃ」


その夜は旅の疲れもありぐっすり寝ていた。物音にも気づかずに。


カタン・・・と窓が鳴った。気づいたら窓に黒い人影が。


その時、黒いモヤから赤い光が出て、眩しくて目が開けられないほどに。

ギャっという声と共に外からドスンという音がした。


エイミーが駆け込んできた。

「レオノーラ様、ご無事ですか!」


暗闇の中に赤い瞳、ヴェルだ。

「今の光はヴェルが?」

「ああ、そうだ。ちょっと下を確認してくる」


窓から小型の姿のままひょいと出ていく。


「ちょ、ここ2階よっ」


平気らしくそのまま窓から戻ってきた。

「え、ヴェルって飛べるの?っていうか、なんだったの?あれ」


「弾き返したが、地面から姿は消えていた。ヒトか人ならざるものか。」


「ちょっと怖いこと言わないでよね。まぁどっちでもいいか」


(なんでレオノーラ様はそういうとこ気にしないのかしらね・・・)

エイミー、聞こえてるわよ。


「とにかくヴェル、助かったわ。」

「明日のパン、2倍で手を打とう」


といって毛布の上に丸くなった。


単に食いしん坊なだけなのかしら、この子。

でも助かったわ。初日からこんな洗礼があるとは。

私のことが目障りな人がいるっていうことね。逆にやる気がでてきたわ。


□□──────────────────□□



翌朝―


部屋で食事をとっていて、パンをお代わりする。

といってもヴェルの分だ。ヴェルがなにやらエイミーに言っていたが、

エイミーがカートで運んできた山盛りのパンの量にびっくりしたわ。


今度来た監査官(しかも第二王女だよ)は、

やたらパンを食べる人とか、大食いだと思われていそうで怖い。

こっちは嫁入り前のうら若き乙女なのだから、大食い認定はできれば避けたい。

でもまあいいか。気にしない気にしない。


執務室にて、

騎士団長キースから話を聞く。とても実直そうなタイプ。


3ヶ月前、川で領主の遺体が発見される。

外傷はなし。溺死と見られること。

貴重品は盗られていない。


護衛をつけずに外出することは度々あったようだ。

ようだ、というのは夜に領主が護衛を連れずに帰ってくる姿を何度か見た、という使用人がいたからだ。


親しくしている女性がいて通っているのかと思っていたと、その使用人たちは言っていた。

ただ、調べても女性の影は見つからず、酒場などでも目撃情報はなかったらしい。


結局は事件なのか事故なのかは不明。


「なるほど、報告ありがとう。でも何もないわけではなさそうよ。昨夜、早速襲撃があったわ」

執事と騎士団長の顔色が変わる。


「一体何があったのですか?」

「窓から侵入しようとした者がいたわ。そのまま消えたけれど」


「消えた、とは?」

騎士団長が不思議そうな声を出す。

「ええ、下に落ちた音がしたけど、何もなかったのよ」


「レオノーラ様、護衛を増やしましょう。騎士団から派遣致します」

「ええ、お願いするわ。」




午後からは、補佐官との面談。


「テイラー補佐官、これまで領内の執政でなにか問題があったのかしら?」


「いいえ、大きな問題はなかったと思います。

領主様もこれまでのやり方を大きく変えたわけではありませんし」


「領民とのトラブルはないの?」

「全くないとは言いませんがそれほど大きなものはないかと。

確かに昨年の収穫があまり良くなかったので領民たちは少しきついと感じていたかもしれませんが、

今年は豊作が見込まれているので問題はないかと」


感じのいい青年だ。まだ若いけれど仕事ができるタイプだろう。

色々なことをそつなくこなし、人当たりもいい。

彼が補佐官であれば仕事がしやすかったに違いない。


でもなぜ領主が殺された?いや、まだ事故の可能性もあるのか。


お父様はなぜ、私をここに派遣したのか?ただの左遷?いや何か理由があるのかもしれない。

都落ちという形で来るのであれば、敵もあまり構えないからかもしれない。


昨日襲撃はあったわけなので私は歓迎されていないわけだ。

脅迫とも取れる。余計なことはするな、と。


領主は何かに気づいてしまったから消されてしまったのかもしれない。


「テイラー補佐官、ありがとうございました。」

「いいえ、レオノーラ様、何かあればいつでもお呼びください」


彼は爽やかな笑顔で礼をとった。


□□──────────────────□□



部屋に戻ると、


「あいつは胡散臭い」


「あいつって誰よ」


「補佐官だ」


「どこで見てたのよ」


「オレは影に入り込むことができる。お前の影の中にいた」


「え、そんなことできるのね。でもそういうことは先に言ってよ!」


「フン、でもあいつはオレに気づいていた。普通の人間ではありえない。」


「そうかな、いい人っぽいけどね」


「お前、そんなんで本当にこの前の貴族院の不正を解決したのか?」


「そうよ、私には誰にも負けない嗅覚と運があるのよ!」


「それって行き当たりばったりっていうんじゃないのか・・・」

(でも確かにコイツには加護がある。

危なっかしいが守られてはいるようだ。運がいいのは加護のおかげだな)


□□──────────────────□□



次の日、


領主の遺体が見つかった現場へと向かうことになった。


もう3ヶ月も経っているし、とくに何か見つかるわけでもないかもしれないが。


騎士団長のキースと私、そしてエイミーが同行する。

キースが発見時の様子を伝えてくれる。


それを聴きながらあたりを見回して、

もう何も手掛かりがないかと思ったら、何か川縁に光るものがあるのに気づいた。


「ねぇ、これ何かしら?」


「綺麗な赤い石ですね。」


「宝石の原石かしら」


キースとエイミーがじっくりと眺めながら答える。


『魔鉱石だ』

頭の中に声がした。ヴェルだ。念話ができるらしい。


『とりあえず余計なことは言わずに、屋敷に一度戻れ』


「とりあえず、これが何か調べてもらいましょう。

何か手掛かりになるかもしれないわ。二人とも、念の為この石のことは内密にしてちょうだい」


「「わかりました」」


キースが屋敷まで送ってくれて、私室で一息つく。

エイミーがお茶を淹れてくれる。


「レオノーラ様、何を考え込んでいるのですか?」


「うーん、ちょっとね。ねぇヴェル、寝てないで説明してちょうだい」


夕日が射す窓辺に丸くなっているヴェルが、顔を上げた。


「それは魔鉱石だ。それもただの魔鉱石ではない。ちょっと面倒な代物だ。

領主はそれを知っているが、それを狙っている者を見つけてしまったんだろう。

だから消されてしまった。」


「ヴェル、それはどういうことなの?なぜそんなことを知っているの?」


「この話は、絶対に口外するな。命に関わる。」


「今夜、動きがあるはずだ。あの怪しかった補佐官の動きを見張る」


エイミーと動きやすい服に着替えた。


テイラー補佐官が夕方業務を終え、

敷地内の官舎へ戻っていったのを見届ける。


「何も変わったことはないじゃない」

「これからだ」


しばらくして、テイラー補佐官が部屋から出てくる。

周りを気にしながら門番のいない通路から敷地を出た。


それをそっと追いかける。


テイラーは酒場に入っていく。

流石に女二人で酒場に入ると目立ちそうだ。

どうしようかと考えていると、ヴェルが影から出てきた。


「オレに任せろ。誰かの影に入って、奴の様子を視界で共有する」

「そんな便利なことできるわけ?」

「いいから、そこの荷馬車の影にかくれていろ」


そして今酒場に入っていった男の影に潜んだらしい。

見張りはエイミーに任せて、目を閉じる。

映像が映し出される。ヴェルの見ている景色だ。


テイラーは、カウンターでエールを飲んでいる。

そこでフードを被った細身の男に声をかけられている。手に何か受け取ったようだ。


残ったエールを飲み干し、立ち上がる。

裏口から出ていくらしい。


『裏口だ。気づかれるなよ』


私たちは、裏口に回ってさらに後をつけることにした。

町の教会の奥の墓地までやってきて、周りを気にしながら、小さな小屋に入る。


『どうする?このまま見張る?』

『ちょっと中を見てくる』


黒いモヤが小屋の隙間から入っていった。

(なんたるチート能力・・・)


『地下だ。地下に続く通路がある。そこに入ったようだ。

今は小屋にはいない。内側から鍵を開けるから入ってこい』


そっとドアを開けたら、

鍵が壊されていた・・・(また物理・・・)


エイミーと二人、小屋の中に入る。


地下への扉を開けたら、叫び声が聞こえた。


「やめてくれ、私はどうしてこんなところにいるんだ?た、助けてくれ!」


二人で地下の通路に降りた。

遠くに灯りが見えている。

とりあえず灯りに向かって走る。


そうするとひらけた場所に出た。


そこには、祭壇で口から血を流して倒れているテイラーがいた。


そしてうわごとのように何かをしゃべっている。


「テイラー補佐官、しっかりして。何?何を伝えたいの?」


「わ、私が領主様を、死なせてしまった。なぜ、こんなことになったのか・・・」

とつぶやきガクリと力が抜けた。


「テイラー補佐官、しっかりして!」


「もう無理だ、息がない。」


「なんてこと、いったいどうして・・・」


手には赤い石が握られていた。

そしてテイラー補佐官の体が黒いモヤに変わっていく。


そして最後に赤い石だけが残った。


そのモヤが部屋の隅に集まる。

その中に黒いマントを着てフードを被った男が現れた。


「あれは何?誰なの?」


フードの男は言った。


「さて、ここは一旦引くが、あなたたちに私を捕えることはできないさ。

敏腕監査官レオノーラ様。ね、有賀さん。」


一瞬、空気が凍った。


レオノーラが首を傾げる。

「アリガサン?ありがとさん、ってこと?」


ヴェルは、何も言わなかった。

ただ、赤い瞳が細くなる。


男は霧のように消えた。


この静けさがなんだか怖い。

「ヴェル、今の……」

「知らん」


即答。

だがその声は、わずかに低い。


□□──────────────────□□



屋敷に戻り、テイラー補佐官の部屋を調べたところ、手記が見つかった。


「領主様の死は私のせいだ」と書かれた日記。


自白とも単に自責とも取れる内容。


結局は証拠不十分だ。

これだけで彼が犯人だとは言えない。


しかも本人は黒いモヤになって消えてしまったのだ。死体もない。


これを公に説明することはできず、日記を残して失踪したという扱いになった。


なんともすっきりしない結末。


騎士団がテイラー補佐官の行方を追う形となり、

私たちも一旦ここでの調査を終え、王都に戻ることとなった。



その夜。


毛布の上で丸くなりながら、

ヴェルは目を閉じなかった。

暗闇の中で、赤い瞳が光る。

(なぜだ。あいつはなぜ前世の俺の名を知っている)


外では風が鳴いていた。


翌朝―


王都へ戻る馬車の車輪が、ゆっくりと回り始める。

第二王女の監査は終わった。

だが―

何かが、始まっている。


読んでいただきありがとうございます!よければ評価いただけましたら嬉しいです。

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パン好きのフェンリル、今後の活躍とグルメ楽しみです。
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