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第7話「ミラル、堕天使と村を直す」


 追放された魔女の私ミラルは、なぜか村人たちから賞賛されていた。


「うわあああ!! この方こそ、村の救世主だーっ!」

「ありがとう! ありがとう!」

「まるで神様のようなお方だ……」


 寄ってたかってとにかく褒める大人たち。よほどドドラの被害が大きかったのだろう。


「あの……私じゃなくて……」


 私はチラリと、少し離れたところで子どもたちに囲まれているリタを見た。


「ドドラを倒したのは彼です。お礼なら、彼に言ってやってください」


 するとリタは顔を上げ、こちらを見てきた。

 大人たちはリタの異様な姿を見ると、少しだけ固まる。だがすぐに、躊躇なくリタのもとへ駆け寄った。


「お前がやったのか! すげぇ!」

「羽が生えてるなんて珍しいねぇ」

「ぜひ話を聞かせてくれよな! ドドラを倒したなんて、どうやったんだよ!」

「……!?」


 一気に大人数に迫られ、目を白黒させるリタ。

 普段の静かな彼も良いが、なんだか、慌てている彼も可愛いな。私以外の人と話していると……うん……

 ――あれ、私ってば、なんで村人なんかに嫉妬してんだろ。



 そんな感情の照れ隠しのため、私は思わず大きな声でリタに怒鳴る。


「もうっ! 勝手にドドラを倒しに行って、心配したからね!?」

「すまない。一瞬悩んだが、子どもたちを放置できなかった」

「はぁぁ……リタは強すぎるから、やっぱり私が見てないと危ないよぉ……」


 ドドラを倒した件はひとまずよかったけど、悪い奴に騙されて力を解放しちゃったら、最悪世界が消し飛びかねない。



「それにしても、村のこのありさまは酷いですね……」


 いくらドドラがいなくなったとはいえ、破壊された村がもとに戻るわけではない。

 畑は完全に荒らされていて、耕しなおす必要がある。家々も、とてもじゃないが、雨風しのいで暮らしていける形状は残していない。

 放置すると、いずれこの村は本当の廃村になってしまいそうだな。でも今の私にできることは限られている。さて、どうしたものか……


 するとリタが、子どもたちを連れたまま声をかけてきた。


「ミラル、俺は人間たちの暮らしにあまり詳しくないんだが……」

「……?」

「この村、何とかできないのか? 子どもたちが腹減ってるって言うんだ」


 私は、リタの腰にしがみついている少年少女たちを見つめる。

 すっかり彼に懐いているんだな。それにしても、リタがこんなことを言い出すなんて、珍しい。


 そうね……確かに、村をおこすのは私へのメリットもあるかも。

 私はあくまで城を追放された魔女。一番欲しいのは金だが、厚い信頼もあれば実にありがたい。

 それに、村人たちを助ければね、情報も得られるうえ、私もチヤホヤ……

 あ、私は見返り目的じゃありませんからね(2回目)。


「よーし、村人のみなさん。もしよかったら、私とリタに、村の復旧を任せてくれませんか?」

「本当に? 任せていいのか!?」

「えぇ。もちろん、みなさんの手伝いも必要ですけど……」

「もちろんだ! だってオレらの村だからな。みんな、魔女さんの指示を聞くんだ!」


 村のリーダーらしき男性が声を張り上げると、それに応えるように、他の村人たちも手を上げた。

 さすがリタ。ドドラを倒したら、私もリタも深く信用されているらしい。


 私はみんなに指示を出しながら、村の復旧作業を進めることにした。


 村人たちは案外力持ちが多いようで、家の瓦礫を片づけたり、畑を耕すのを担当してくれた。その間、私は村の直し方を研究しながら、水魔法で人々に水を恵んでいた。

 まさか、私の魔法がこんな場面で役に立つとは。魔力があればいくらでも水が出せる私。普段は戦闘や研究に使うけれど、本当に水が必要な人たちに恵むのが一番なのかもしれない。


 リタは空を飛びながら、必要な資材を運んでくれている。

 ――よし、そうそう。彼は勝手に暴走すると危険なので、やっぱり私がちゃんと見ることにします。

 基本的には、リタの魔法のおかげで何とかなった。彼は雷の魔法を得意とするらしいが、他にもあらゆる魔法を使いこなせるらしい。うっひゃー、魔力で言ったら私よりすごい。というか全人類よりすごい。


 リタは風魔法で木材を斬り、村人たちに届けていた。

 少しずつ村が元通りの姿を取り戻していく。

 村人たちが努力した後の村は、最初の滅びかけた集落とは段違いに改善されていた。


「やったああ! 俺らの村が戻って来たぞ!」

「ありがとうございます、魔女様!」

「そして堕天使様も!」


 人々は私たちに盛大な感謝の言葉を述べた。いやいや、照れますなぁ。

 すると私の横に立ったリタが、不思議そうな様子で人々を見回していた。


「堕天使の俺なんか、不吉の象徴だろ。なんでみんな敬ってんだ」

「それは……あれだよ。リタのことを堕天使じゃなくて、ちゃんとリタという一人の人物で考えているからだよ! ……的な?」


 まずい。伝えたいこととそれを言語化できる語彙が比例しなかった。

 だけどリタはめちゃくちゃな私の言葉でも何かが伝わったらしく、顎に手を添えて考え込んでいた。


 その後、私は村人たちからお金を貰えた。

 ——よっしゃあああああああ!!

 おっと失礼、つい心の声が。ふぅ……ただ、これで脱・貧乏だ。貰った金額は銀貨30枚。金貨3枚と同等な値段だ。

 城にいたころの私の財産と比べれば、物凄く多いわけではないが、あまり贅沢をしすぎなければ一か月は命が持つ。


「みなさん、本当にありがとうございます!」

「いえいえ……ところで、こんな素敵な魔女さんが外にいるだなんて珍しい。どこから来た者なんだい?」

「あー……」


 一瞬言葉が詰まったが……もういい、この際全部話してしまおう。


「私はミラルっていうんです。王城で働いていた魔女なんですが、無実なのに追放されてしまい……」

「ありゃっ。そんな酷い奴がいたのかい」

「俺たちはミラルさんを信じるよ!」


 村人たちは大きく声を上げた。

 ……ねぇ、聞いてた、ロスト?

 あなたのこと、「酷い奴」だってさ。





 そのころ、そのロストは……

 ソファーで本を読んでおり、サディが帰ってきた途端、身を乗り出していた。


「サディ! 無事だったか! 服がボロボロじゃないか!」

「ロスト……」


 サディの元気がない様子に、ロストは気づかない。


「帰ってきたということは、もしかして、ミラルをボコボコにできたのか!?」

「……うわああああああああああああん!!!」


 突然、サディは大声で泣き出した。

 驚いたロストは、彼女の肩に置いた手を思わず離してしまう。

 サディは目元を強くこすり、床に崩れ落ちた。


「酷い! ミラル大嫌い! ねぇロスト、あいつにやられたの! 堕天使が強すぎるのっ! あいつ、雷魔法で……お願い、あいつらをぶっ殺してよぉ!!」


 喉が裂けんばかりの叫び声を聞き、ロストは肩を震わせる。

 愛するサディを、こんな目に遭わせただと……?

 それまで取るに足らない存在だと思っていたミラルに対し、急に腹が立ってきた。


「……ごめんね、サディ。辛かったよね。僕が絶対、ミラルを殺してやるから」


 堕天使が強いとのことだが、使うのが雷魔法なら勝ったも同然だ。

 なにせロストは、土魔法が得意分野の一種なのだから。電気を通さない岩々を生み出し、堕天使を倒してやる。


 ロストはサディを強く抱きしめたまま、その表情に、鋭い殺意を込めていた。

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