表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第3話「ミラル、堕天使と休む」


 追放された魔女の私、ミラルは今、路地裏で手に入れた奴隷の堕天使と共に、草原を歩いていました。

 ――みたいなおとぎ話作ろうかな。いや、話が破綻するからやめよう。



「ねぇねぇ堕天使君、お腹空いた?」

「……天使は空腹を感じない」


 えぇー! それこそ最強の能力なんじゃないの!?

 いいなぁ、腹が減らないとか。今の私が最も欲しい力かも。

 だって今の私、銅貨2枚しかないうえに、さっきの街には気まずすぎて戻れないから。


 仕方ない。森を見つけたから、少し休もう。


「ねぇ、いったんあの森に入ろう? あなたの姿、外だと目立っちゃうし」


 森の中は、太陽の光が透けていて美しかった。

 私はもともと、こういう生命を感じられる場所が好き。小鳥のさえずりなんかも聴いていたい。

 堕天使は私の後ろについてきながら、緑色の森を眺めていた。



「さーて……とりあえず、このへんに座ろ。ねぇ堕天使君、火とか起こせない? 私さ、炎魔法が得意ではないんだよね」


 私の専門分野は水魔法。残念ながらいくら天才でも、得意不得意は色々とある。

 すると堕天使は、地面に向かって直に炎を出そうとした。待って待って! 違うって!


「そんなことしたら火事になるでしょ! 木の枝を集めてきて!」

「……」


 堕天使は無言で私を見つめた後、静かに木の枝を集め始めた。

 あぁもう、何か返事くらいしてよ!!



 火をおこした後、焚火を囲いながら私と堕天使は座り込んだ。

 やっぱり綺麗だなぁー、堕天使君は。あんな檻に入れられてたとはいえ、もとある美しさは一片の曇りもない。

 あとは、強すぎ。誰だっけ? 堕天使が飛んで逃げようとしたら、魔法で撃ち落とすとか馬鹿なこと言ったのは?



 ……でもそろそろ、「堕天使君」という呼び方はもどかしくなってきたな。

 名前とかないのだろうか? そうだ、聞いてみるか。


「ねぇ、堕天使君は名前とかないの?」

「――堕落した底辺の天使に、名前を呼ばれる価値などない」


 ものすごいほどの自己否定……

 肯定感がなさ過ぎて逆に驚いた。でも、この感じだと名前はあるみたい。


「私が教えてって言ってるじゃない! 名前、あるんでしょ? 堕天使じゃ呼びにくいの!」

「……」


 立場上、一応……ね? 私が上なんですし。

 すると彼はため息をついて、静かに告げた。


「……かつて天の国では、リタという名だった」

「よーし、リタね!」

「……」


 なんだ、まともな名前があるじゃん。今度からは堕天使なんていう名称じゃなくて、ちゃんとこっちで呼ぼう。


「堕天使ってなんなの? そのまま、天使が堕落したってこと?」

「……そうだ。神に反逆した天使が、罰せられて天の国から地上に堕とされる」

「天の国……」

「天界だ。教会が祈る先は、天の国に届く。遥か高い空にあるんだ」


 へぇー……実際にちゃんと、教会の願いって届いていたんだ。

 豊作とかを恵んでくれるのかな。すごく気になる……。

 というか、リタって神に反逆したんだ? 全然、そういうことをしそうには見えないけれど。


「ありがと、ちゃんと名前を教えてくれて」

「……」

「天使からすると、この世界ってどうなの? 森とか自然とか人間とか」

「……空は雲だらけだ。森も自然もなかった。人間は……どうなんだろうな」


 彼はそう言うと、私をチラリと見た。

 え、何で見たの。私、何か変なこと言った? まぁいっか。




 さて……と。

 リタから見たら、私は突然自分を買ってきた女だもんな。

 ちゃんと私のことも説明してあげないと。


「私はミラル。さっき聞いちゃったかもしれないけど、私……城を追放された魔女なんだよね」

「そうなのか。何か罪でも犯したのか?」

「違う。城にいたライバルの魔法使いがね、卑怯なことをしてきたの。いくら私が邪魔だからって、自分の失敗を全部私に押し付けてきて」

「理不尽な奴だな」

「でしょ!? だからさ、あなたにお願いしたいことがあるの」


 私は、彼の黄金色の瞳を見つめる。


「私と一緒に、魔法使いへの復讐……あなたの力を貸して!」


 私は確信していた。

 リタの力があれば、絶対に魔法使いを倒せる。権力など関係ない、最強の魔力を、あいつに見せつけてやる!


 すると、リタは静かに笑った。

 あ! やっと表情を変えたぞ、この堕天使!


「……お前は最初から、それが目的で俺を買ったんじゃないのか?」

「違うっ! あなたが強いだなんて、知らなかったし!」

「フッ……いいだろう。それが主の命令ならな」


 余裕を込めた目で私を見下ろす彼。

 私は心の中でほくそ笑んだ。

 よし……ひとまずは、リタを正式な仲間にできた。これで私は、自分をも超える最強の戦力を得たわけだ。


「ありがとう! さすがは我が天使君!」

「……」

「ほら、ご褒美に木の実をあげましょう」


 自分で言うのもあれだが、ご褒美ってなんだ?

 そう思いつつも、私は森の奥から拾ってきた赤い木の実を彼に渡した。

 彼は繊細な指で木の実を持ち上げると、首を傾げる。


「……なんだこれ。俺は腹が減らないって……」

「いいじゃん、食べてよね! ほら、はい、主の命令!」

「……」


 あぁもう、なんでもかんでも命令で何とかなるの、ヤバすぎでしょ。

 彼はため息をつきながら、木の実を口に含んだ。

 とたんにあの綺麗な瞳を大きく開ける。


「……からっ」

「え? うそ、あ、間違えた!」


 うわ、木の実に関する知識は自身があったのにな。間違えて、甘いやつじゃなくて辛い木の実を渡してしまった。

 仕方ない。いくら天才魔女とて、小さなミスくらいはあるのだ。


「それにしても、城から追放された魔女と、天界から追放された天使……私たち、すごく似た者同士じゃない?」

「……そう、かもな」

「じゃあこれからよろしくね! リタ!」


 そう言って笑顔を浮かべた私に、リタは無言で頷いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ