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追放された魔女の私、奴隷の堕天使を買ったら無双し放題だった  作者: 紫煌 みこと
第2章 堕天使の復讐 女神へのざまぁ
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第13話「ミラル、堕天使と束の間の幸福」


「リタ……」


 森から出て行ったリタは、思ったよりも帰ってくるのが遅い。

 まさか……勝手にどこかへ行っちゃった? なんて考えが浮かんでしまう自分が、嫌になってくる。


 最近、ちょっと調子が悪いかも。

 いつかはリタと離れるしかないって、心が理解し始めた頃からかな。


「……」

「すまない、ミラル。遅くなった」

「……あ」


 顔を上げると、いつも通りの様子のリタが歩いてきた。

 よかった、どこにも行っていなくて。ちょっとした安堵がこみ上げてきた。


 今日は月が綺麗な夜だ。

 森に広がる葉の隙間から、青白い月明かりが漏れている。

 私は生命を感じられる場所を好きだと言ったけれど――こういう、神秘的な場所もいいな。もやもやしている気分が、少しだけ癒された気がした。


 そして前を見れば、リタが静かに草むらへ腰かけている。

 見つめれば見つめるほど、彼は美しいのだ。

 私の護衛であって、奴隷であって、――私の、私だけの天使。

 私に逆らうはずがないし、勝手にどこにも行かない。他の誰のものでもない、私のリタなのだ。


 いつしか、そう思うようになっていた。

 でも私はリタを縛りたくないから、天の国へ帰らせる手伝いをしている。

 ――そういうことで、あってるよね?


「……」


 ……そうだ! こういう時は、ちゃんと会話をしよう。

 危ない危ない。一人で悩みすぎちゃうところだった。

 目の前にはリタもいるんだし、彼に聞いてみようかな? リタは今、どんな気持ちなのか。さっき森の外に出ていったとき、何を考えたのかも気になるし。


「そういえばリタ……」

「……!」

「リタ……?」


 顔を上げると、リタがちまちまと指で何かをいじくっていた。

 手に持っているのは、どうやら数本の白い花のようだ。


「リタ、何してるの?」

「……も、もう少し待て」

「はい?」


 するとリタは私に背を向け、おまけに翼で体を覆ってしまった。

 ……え? 本当に何してるの? いや、別にいいけど……私が見たら、まずいものだったかな。


「あの……、大丈夫そう? 手伝おうか?」

「いや。……できた」

「え?」

「これだ」


 するとリタは顔をこちらに向けて、突然私に近寄ってきた。

 ――胸が大きく鳴った気がする。



 リタは無言で、白い何かを私の頭の上に乗せてきた。



「……?」


 そっと添えられたものを、手に取ってみる。

 先ほどリタがいじくっていた白い花で出来た、可愛い花冠だった。


「……これ、リタが作ったの?」

「さっき、外から少し摘んできた花だ。……前に、ドドラを倒したとき、子どもたちから教わった。それの作り方……」

「……そうだったんだ」


 少々形にぎこちなさはあるが、白い花の部分は綺麗に保たれている。丁寧に作ったのだろう。

 私がリタを見つめると、彼の視線が横に泳いでいった。



 ――なぜ突然、花冠なんて作ってくれたのだろう。


「……どうして、これをくれるの?」

「……」


 リタは少し翼を震わせている。

 やがて小さなため息をつくと、口元を腕の中にうずめ、子どもっぽくジト目を向けてきた。


「いらないなら、返せ」

「……いっ、いらなくない! すごく嬉しいけどね!?」


 質問の答えになってないじゃん!

 もしかして、好意で作ってくれたの? 私のために?

 ――もしこれが独りよがりじゃなければ、本当に嬉しい。この先別れが来るとしても、私は絶対にリタに嫌われたくない。


「……リタってば、ひょっとして照れてるの?」

「は? 違う、そんなんじゃない」


 おーい、全部顔に出てるぞー。


 ……なんだか困ってるリタを見ていると、自然と元気になってきた。

 今なら別れが来たとしても、快く受け入れられる気がする。

 だってリタも私も、互いに好きなんでしょ? だったら、どこにいてもその気持ちに変わりはないし。ねっ!


 この先きっと、リタが無事に天の国へ帰れるようになるには、時間がかかるのだから……その時間を最大限に楽しんで、最後の別れは気持ちよく終わろう。

 上位天使の探し方と、地上にいるうちにリタとしたいことを、今のうちに考えとこっと!



 ……でも、その前に。

 今はこの静かな時間ときに、甘えさせてほしい。


「じゃあ私は、これをあげるよ」

「……?」

「ちょっと前に見つけた、紫の花。可愛いでしょ?」


 リタが雷をぶっ放していた時、偶然私が見つけたものだ。

 岩陰に一輪だけ咲いていた。珍しいと思ったから、そっと抜いてしまった。

 そして暇つぶしに、花を使った髪飾りを作ったのだ。


 私はリタに近づき、白くて美しい頬に触れた。

 髪飾りをそっと、彼の前髪の横にさす。リタは、頭の左側についた紫の花にそっと触れた。


「うわっ、ヤバい。似合いすぎてるし! でもリタの魔法で焦げちゃいそうだから、大事にしといてよね!」

「……」

「んじゃ、寝ようかなー。森の中で寝るのなら、誰にもバレないでしょ。たぶん」


 大きく背伸びをして、私は草原に寝ころんだ。

 はーぁ。空から紙が降ってくるだとか。盗賊が追っかけてくるだとか。今日は色々めちゃくちゃだ。指名手配の件は、国家でも問題になるかも。私はどうなるのかな?

 ……どうでもいいや。リタと一緒を楽しめるなら、それで。大事だったはずの城の研究も、なんだかぼやけてしまいそうだ。


「もう寝ていい……? 私、ここで気絶するわ」

「……ミラル。こっちに来れないか」

「え? ふわぁっ!?」


 突然服を掴まれたかと思うと、気が付けば私の体はリタの胸元に埋もれていた。

 えっ!? ちょ、待って!? 抱き着かれてる!?

 あまりのパニックを起こし、暴れそうになる私。でも、顔を上げると――


 黄金色の鋭い瞳が柔らかい光を帯びて、私を見つめていた。

 端正な顔が近い。呼吸の音が、心音が聞こえる。

 そして――暖かくて。彼のぬくもりに、私は顔をうずめた。


「……」

「寒い夜は嫌いだ」

「……リタ」

「頼む。今だけ、こうさせてくれないか」


 リタ……?

 なぜ、声が震えているの?


「……ひょっとしてリタ、寒がり? 声がプルプルしてるもん」

「……」

「じゃあいいよ、これでも。今日は不安になることが多かったしね。おやすみ」


 まぁ、たまにはこういう日もいいでしょう。

 ……リタの声が聞こえなくなったのと同時に、私も目を閉じた。





「最後に見れたのがお前の笑顔で、よかった」


 ミラルは、穏やかな寝息を立てて眠っている。

 そんな中――リタは眠ることなく、寝たフリをして、ミラルが深い眠りにつくのを待っていたのだ。


「俺なりに、いろいろ考えてみたんだ」


 絶対に彼女を刺激しないよう、そっと体を起こす。

 旅をしていた一か月と、今日の一日で、彼の心は確かな変化を起こしていた。


「俺は確かに、天の国へ戻りたい。でもそのためには、ミラルと別れなくてはいけないって……。お前はそれを受け入れてくれたし、俺を手伝うと言ってくれた」


 でも……と、リタは独り言をつぶやく。


「これ以上、お前を危険な目に遭わせるわけにはいかない。天界にかかわるのは、俺だけでいい。お前が城で研究を続けて、出世して……それがきっとお前の幸せだろうし、俺もそうなってほしい」


 リタは立ち上がった。

 彼はミラルの幸福を、彼なりに理解しようとしたのだ。


 だから今夜、ミラルに甘え続けた。

 彼女の顔を見たくて。喜んでいる顔も好きで。

 花冠を作ってみた。彼女のぬくもりを、心から味わった。

 ――それは、今日が最後であることを知っていたから。


「ちょうどよかった。村人たちが、外で金銭不足に困ってる」


 最後に彼は、ミラルを振り返った。

 何も知らず、微笑みを浮かべながら眠っている。いい夢でも見ているのだろう。


「……急なことですまない。ありがとう、ミラル」


 そう言い残すと、彼は紫紺の翼を月明かりに照らし、彼女のもとから離れていく。

 紫の花をさしたまま、もう二度と振り返ることはなく――

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