第11話「ミラル、堕天使が指名手配される」
……暗黒に包まれた森の中を、2人の男女が移動している。
「おい、奴はいないのか?」
「……今のところ見当たりませんね」
「……チッ! どこへ行きやがった。早く見つけ出さねぇと、俺たちが処罰されるんだぞ!」
「レナス様も理不尽ですよね。自分で追放したのに、そいつを捜し出せだなんて」
月明かりが眩しい夜だった。
2人の背中から生えた真っ白な翼が、青白い光に照らされている。
「あまり俺たちも目立ちすぎるとまずいからな……。どう捜そうか」
「人間たちを利用してはどうですか? 彼らは、金への欲が意地汚い生物ですよ」
「……あぁ、奴らを使うか。懸賞金を用意すれば、こいつをさっさと吊るし上げてくれるだろう」
そう言いながら男は、手に持っていた小さな紙を睨みつける。
――黒い翼を持つ銀髪の青年が、その紙には描かれていた。
「リタ、あいつらぶっ飛ばして!!」
「無論だ」
閃光が迸る魔法陣が生まれ、雷が次々と野に落ちた。
調子に乗っていた盗賊たちは、唖然とした表情をしながら逃げていく。
「……なんなんだあの堕天使はぁっ!」
「堕天使を従えている魔女も意味わかんねぇぞ!」
「……逃げろっ! 覚えていやがれクソアマ!」
は? おいおいおい、最後に叫んだ奴、誰がクソアマだって?
「リタ、あいつだけ個人的にボコしてくれないかな」
「……やだ、めんどくさい」
「はああああ!?」
リタは羽を広げながら肩をすくめ、自由自在に飛び回っている。
……はぁ。段々と命令違反が多くなってきたよ、この人……
魔女であり、リタの主人である私――ミラルは、大袈裟にため息をついた。
私とリタが旅を始めて、だいたい1ヶ月くらいが経った。
今は少しずつ天の国の情報を集めて、リタが天界に戻れる方法を探っている最中だ。
だがこれが難しいもので……。教会に聞いても、「天の国は神聖な領域ですので、人がかかわるのはおやめなさい」と言われるだけだった。
地方の研究者も、天界には興味がない模様。なかなか有益な情報は掴めないのだった。
「リタぁ……もう一か月も旅しているけど、全然情報がないよぉ」
「俺に文句を言われても困る。情報集めはお前がしているんだろ」
「そうだけどさ……! あぁもー! みんな天の国のこと知らなすぎでしょー!」
……ん? ていうか天の国のこと、リタに聞けばよくね?
「……なんなの? 私は馬鹿なの!?」
「急にどうした」
「リタから天の国について聞けばよかったよ! ねぇ、あなたは知らないの? 天界に戻れる方法」
「……知らないな。下界と天の国を行き来する方法は、上位天使しか知らないんだ」
「上位天使?」
初めて聞く言葉だ。
なんだろう、天使の中にも階級とかがあるのかな?
「上位天使の方が、神様からの信頼が厚い。次期の神の候補となっている有力者だからだ。俺のような下位天使は、神様に嫌われるとこうなるからな」
「……でも今まで、堕天使が降ってきた事例なんて聞いたことないわよ。みんなおとぎ話くらいでしか知らないんじゃないの」
「殆どの天使は、神様の前では猫を被る。俺だって逆らったんじゃない。過去に存在した堕天使なんて、今から何百年も前の話だ」
リタが苦笑した。
「それに天使っていうのは、死んだら跡形も残らず消えてしまう存在だ。今までの堕天使は地上に堕ちた後、人間に見つかることもなく事故死していったのだろう。俺が死ななかったのは、ハンターに捕まったから……っていうのは、酷い皮肉だ」
そういえば、リタだって悪いことをしたわけじゃないのよね……。なのに地上に堕とされて、こんな目に遭っている。きっと過去の堕天使たちも、神の理不尽で……
だとすると、余計に神を許せない。どんな奴か知らないけど、会ったらタダじゃおかないですからね!
「だったらなおさらよ! そのウザい神様、私たちでボコボコにしましょ!?」
「……神様を倒すのか? ただ天界に戻るだけじゃなくて?」
「そんなの無理に決まってるでしょ、理不尽であなたを追放した神様なんて、やり返しても問題ないでしょ」
「……相手が神様となると、話が変わってくるな」
いや、それはわかってるのよ、リタ。
天使が神様を倒すとか、落ち着いて考えればぶっ飛んだ話。
……でもそれで言えば、私があの状況からロストにやり返すのだって、驚くような出来事だったのだから。リタも勇気を出すべきだ!
「じゃあまずは、天界に戻るためにその……上位天使って奴を探すべきかしら。都合よく地上に現れたりしたら――」
「……ミラル、あれを見てくれ」
「え?」
リタが空を見つめ、体を硬直させている。
私も同じように振り返ると――信じられない光景があった。
空の上に浮かぶ雲から、大量の白いものが落ちてきていた。
それは雨でも、雪でもない。
紙だ。数えきれない紙がバラバラと、空から降り注いでいるのだ。
「なっ……なにあれ!? 紙!? なんで!?」
「……まさか、天の国から降ってきているのか……?」
リタもゴクリと唾を呑み、唖然とした顔で落ちてくる紙を見ていた。
紙が降ってくるとか……前代未聞の天変地異でも起きてるの?
――紙の一枚が、私の足元に落ちてくる。
なんだろう、これ。何か書かれてる。
私は拾い上げ、紙の表面を確認してみた。
「……」
「ミラル、それは何だ」
「……リタの……指名手配書?」
「……あ?」
リタが、間の抜けた声を漏らした。
だって、本当なのだ。
私が手に取った紙には――黒い翼と銀髪を持ったリタが描かれ、金貨1000枚という懸賞金がかけられていた。
『この者を見つけて捕らえ、北の地にある荒廃した教会へ連れてくること』
紙の下部には、そう書かれていた。
「……」
「……なにこれ。まさか、全部?」
近くに落ちた他の紙も見てみたが、すべて同じ内容だった。
「どういうこと……!?」
「……これは、天の国が出した手配書だな」
「えっ!?」
「なぜか知らんが、俺を捕らえたいらしい」
なんでなのよっ!? リタを追放したのは、天界側でしょ!?
なぜ今になって、リタを捜しているのか――
「……というか、めちゃくちゃ手配書が落ちてったわよね。ここにいるとヤバくない?」
「……そうだな」
「誰か来る前に、とりあえず逃げましょ!?」
最悪。リタを天の国に戻させるために旅をしていたのに、まさかのリタが指名手配されるという。これじゃあ天界に戻ることすら危険じゃない……!
ひとまず、この場に留まっていれば、金に目が眩んだ連中が現れるかもしれない。
今はリタを連れて、安全な場所に隠れることに専念しよう。




