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波奈子と涼子

出会い

作者: 39-Rock
掲載日:2025/12/08

佐藤修二 22歳。

大学を卒業後、ここに就職した。

アメフト部で鍛えたそのマッチョさと

「超」を付けてもいいほどのイケメン。

だが、愚直で正直で律儀で慈悲深い。

好青年のテンプレ。

大学時代、モテにモテた。


就職後もオフィスですぐ評判になり

隣のビルからも見に来るほどだった。


だが大学時代とは違う

「上司」という存在がある。

学生の上下関係とは異なり

それは、組織の一員としての繋がり。

たとえ相手が嫌いであろうと

平常心で公平に接しなければならない。

そんな中で、如実にそれを実践している

そう、思える女性上司が一人いた。


主任の 南 涼子 34歳。

他の女子社員とは全く異なる佇まい。

佐藤対しても、業務的な接触しかしてこない。

モテモテ男にとっては

それが逆に新鮮で興味を持った。


色白で異常に細く

完璧に手入れの行き届いた髪を

いつも紺のシュシュで纏めていた。

笑っているところを見たことが無い。

どこか陰のある不思議な女性だった。


「佐藤君、明日私と外回りだからね。」

「30分早めに出勤してください。」


「はいっ!!」


直立不動で返事をする佐藤を

見向きもせずに行ってしまった。


「よし!!!」


内心ガッツポーズを決め


「南主任の正体を見てやるぞ!」


佐藤は明日が待ち遠しかった。




「おはよう。」


「お、おはようございますっ!!」


「そんな難しい仕事じゃないからw」


涼子はてっきり、佐藤が仕事の事で

緊張していると思っていた。

二人で社用車に乗り込み

冷えた車内が温まるまでしばらく待った。

佐藤は急に車を飛び降り

20m先の自販機で

温かいコーヒーを2本買って戻った。


「これ!!飲んでください!!」


「ああ、ありがとう。120円だね。」


「いや!驕りです、あ、いや、その

     奢らせていただきます!!」


「じゃあ、ご馳走様。」


といってちょっと微笑んだ。

もうこれだけでも佐藤は昇天しそうだったが

とりあえず平静を保って出発した。

運転は涼子。

慣れたもので、運転も上手い。


「有能な人は何をやっても上手いんだな。」

と一人で感心し、コーヒーをすすった。


営業の仕事が終わり一区切りついた。


「もう14時だね。お腹空いた?」


「は、あ、いや、主任は?」


「ペコペコ。」


「じゃあ、僕もペコペコで!!」


涼子はまた少し笑った。


「かわいい、可愛すぎる・・・・。」

もう佐藤は完全にやられてしまっている。

死んだも同然だ。

マクドナルドに入った。

ビッグマック2、ポテトL2

ナゲット2、コーラLとミルク。

もちろん二人分ではない。

佐藤一人分。


「いただきます!」


ほおばる佐藤を見て

「すごいね。食費で破産でしょ?」


「いや、他にお金使わないんで!」


確かに佐藤は、飲み会や、アフターファイブの

遊びにも全くいかなかった。

それは

母親が車いす生活で

彼は一人でその面倒を見ている。

父は母がそうなった事故で亡くなっている。

兄も海外赴任でどうする事も出来ない。

その理由も今日初めて涼子は知った。


涼子も話し始めた。

自分も今の両親は実親ではない事

妹も早くに亡くしている事

小さい頃、病弱で生死を彷徨った事

そんな話をした。


「主任の儚さは

    そういう事だったんだ・・」


佐藤は少し黙り込んだ。

ハンバーガーは追加している。


「お腹膨れた?」


「はい!!!」


「はいじゃないよ。

    あれで足りなきゃ異常だわ。」


二人で笑った。

帰りの車中では

涼子の上司の話になった。


「石渡課長知ってる?」


「はい!超有名ですから!」


「だよねw」

涼子は、石渡波奈子を尊敬し

目標にしている事や新人時代から

常に自分をフォローしてくれたこと

それに、憧れである事も話した。

佐藤も常々、その仕事ぶりと

得意先からの異常なまでの評価に

驚愕し、尊敬もしていた。


「じゃあ今度、

  課長と出る時、一緒においでよ。」


と涼子は言った。

「口実は私に任せてw」


「はい!了解です!!!」


「もうそろそろ、

その自衛隊みたいなの何とかならないのw」


「あ、はい、いや、そうします・・」



2週間ほどして

外回りが波奈子と涼子のセットになった。

「今日、新人同乗していいですか?」


「おう!いいとも!笑っていいとも!」


3人は車に乗り込んだ。


「初めまして。佐藤と言います!」

「お噂はかねがね伺っております!!」


「暴走娘とか?ギロチン石渡とか?w」


とにかく

この石渡波奈子という上司はすごい。

社内では

「決断力の鬼!」

「迷いのない世界の使者」

「選択のギロチン」

などと噂される超有名人。

しかも、その手腕が本物なので

だれも悪い意味ではそう言っていない。

優柔不断な涼子にとってはまさに真逆。

遠い憧れであり、目標だ。


業務が終わり例のマクドナルドに入った。

食べる量は前回と変わらず。

それを見た波奈子は


「君の寿命は45歳と見たが?どうかね?」

「学生時代はそれでいいだろうけれど

 君には支えるべき存在があるんだろ?」


涼子からあらましは聞いている。


「自己管理はビジネスでも基本だ。

    せめてフィレオ2個とかにね。」

そう言って笑った。

涼子はそれを横で見ていた。

こういうアドバイスが私には出来ない。

食費の事を言った自分がいやになった。

また、佐藤は波奈子をじかに見て

「すごすぎる・・」

とその存在感と包容力に圧倒された。



どこまでも控えめで、支えてあげないと

折れてしまいそうな涼子。

すべてが屈強で突破できない壁はない

向かう所敵なしな波奈子。

二人が共に、心で繋がりあっている。

それを感じて佐藤は心が熱くなった。



佐藤は

とりあえず、課長への尊敬は後回しだ。

涼子さんをなんとか支えてあげないと。


日に日にそんな気持ちは強くなっていった。


二人は、帰宅時間が同じときは

駅までの道すがらいろんな話をした。

佐藤を気遣って

涼子は食事や飲みには誘わなかった。

でもそれが逆に佐藤を不安にしてもいた。


「俺に興味ないのかな・・。」

「確かに年は離れてる。」

「でも、30歳差まではOKなはずだ!」

ゴシップ記事も好きな佐藤は

訳の分からない理屈で自分を慰めた。



佐藤も入社して5年が経った。

そんなある日、涼子からメールがあった。

「明日帰り

  1時間だけ付き合ってくれないかな。」

涼子は必ず佐藤を独占するときは

時間を切った。

そういう気遣いの細かさ

それにも佐藤は惚れ込んでいる。


即、OKと返信した。




「波奈子が退職するらしいんだ・・。」


それは佐藤にも衝撃どころではなかった。

なぜなら、次回のプロジェクトでは

自分も波奈子の配下に入るはずだったから。

それを至上命題のように楽しみにしていたし

涼子と3人で仕事が出来る事にも期待していた。


「ヘッドハンティングですか?やはり?」


「ちがう。高知に引っ越すらしい・・。」


「高知?起業とかですかね?」


「ちがう・・・」


涼子は呆然自失で

いつもの白さがさらに青白く見えるほどに

憔悴しきっていた。


頼れる存在。

目標となる人。

自分を評価してくれる人。

切磋琢磨するライバル。

全部一瞬で失った。


「私、どうすればいいんだろう。」


そういう涼子に佐藤は言った


「忘れてませんか?補助装置?」


「補助装置?」


「ほら、目の前!」

涼子は少し笑った。

自分は勝手だ。自己中心的だ。

そんな自己嫌悪に襲われた。

辛い時や、沈んでいる時

どれだけこの青年に支えられたことだろう。

そしていま

その相手に不満だけをぶつけている。

涼子は、テーブルの上のパンケーキに

それがふやけるほど涙を落した。

佐藤はそっと隣に移動し肩を抱き寄せ。


「朝まで泣きましょう。ついてますから。」




波奈子の送別会が行われた。

会社でやる予定だったが

波奈子が断った。

そんな事の為に社のリソースを使わせない。

それも波奈子流。

有志だけ8人ほど。

もちろん涼子と佐藤もいる。

佐藤は母の事があり早めに引くので

すぐに波奈子は2人に駆け寄った。


「佐藤君。君への最後の業務命令だ。」

「涼子を絶対に幸せにすること!!!」

「忘れるなよ?」


波奈子は

手刀で首を切るしぐさをして

ペロッと舌を出し輪の中に戻って行った。



それから5年。

涼子は佐藤に支えられながら

次第に自分軸を太くして行き

折れない骨格へと成長していった。


その間に3回。

佐藤は涼子にアプローチしていた。

だが、返答は保留だった。


涼子から呼び出しがあった。

駅前のマクドナルド(佐藤はワンパタ)。

涼子はコーヒーを少し飲んで話始めた。


「なんか。思ったほど感動なかったよ。」


「疲れすぎじゃないですか?」


「そうかもね・・。」


推進課長になって一応のゴールに来た。

でも、いまでも追えない目標が

涼子を苦しめていた。


佐藤は思っていたことを言った。


「じゃあこれはどうです!」

「久しぶりに

    石渡先輩の所に行って見れば?」


涼子はその提案をすんなりと受け入れた。

佐藤はお互いまた

あの繋がりできっと元気になれる。

そう思っての進言だった。

が、涼子は違った。


「そうだ。やっぱりこの決着は示したい。」

「私の努力の結晶を認めさせたい。」

本心は「認めてほしい。」だった。


佐藤は

涼子の目が違う人に見えて

少し不安になった。



涼子がお土産の「いもけんぴ」を持って

会社に来た。

佐藤は駆け寄った。

「どうでしたか?」


「私ね。高知に引っ越す。」


何があったのか全く理解できない。

波奈子が辞めた時の涼子と

全く同じ感情だった。

佐藤は激しく後悔した。


「だよな、だよな。あのブルドーザーで

押されたら、ひとたまりもないな・・。」


下らない進言をしてしまった事を後悔した。

だが

涼子の表情が、行く前とは全く違う。

それはもう別人であった。

佐藤はすこし寂しかった。

二人は曲がりなりにも「交際」と言える

枠組みにはなんとか到達していたから。

でも決めた。

「涼子さんが決めたこと。それでいいんだ。」

そう自分に言い聞かせた。


送別会の日、怖くて聞けなかった事を

やはり聞けなかった・・・。

そこで

こういう問いかけをしてみた。

「先輩!

 高知で素敵な彼氏見つけて下さいね!」


「え? 裏切り?」


「あ、いや、その、僕の、あ・・・」


涼子はいたずらっぽく笑って


「私、『遠距離恋愛成功法』

       って本買ったんだけど?」

「じゃあ、650円返してよw」


「はい!!!!返しますとも!!」

「そんなもの読まなくても

      僕が絶対成就させてみます!」


「おい自衛隊!頼んだぞ!!」


すっかり波奈子流になっている涼子を見て

佐藤は無性に嬉しかった。

「いい。これでいい。ゆっくりでいいんだ。」

佐藤は手を振って涼子を見送った。


4年が経った。

遠距離恋愛は順調だ。

会えるのは年2回だけれども

メッセージや電話ではほぼ毎日話している。

そんなある日、波奈子から電話があった。


「もしもし?佐藤君?元気?」


ああ、あの懐かしいハスキーボイスだ!


「ああ!石渡さん!お元気ですか!」


「うんうん!元気過ぎて病気だ。」


「ははは!変わってないですね!」


「実はちょっと相談があるんだ・・」


佐藤は咄嗟にあのことだと思った。

涼子が佐藤との結婚を決断しないことを

波奈子が気にしているのは

涼子から聞いていたし佐藤自身もずっと


「佐藤君の気持ちは

       嬉しすぎるくらい嬉しい。」

「でもね、私の命の恩人に近い人を

   利用して逃げるみたいなこと

           私にはできない。」 


涼子にそう言われていた。


慎重すぎるし、気遣いをし過ぎる。

それが涼子のいい所でもあるが

時にそれが相手を疲弊させる。


思った通り

石渡先輩はそれが重荷になっていた。

そして涼子に結婚を決断させるために

とても神経を使っている。

今回もそんな事で

狂言をしたいとの相談だった。

佐藤もそれに乗ったが

      どこか罪悪感もあった。


その翌日に涼子から電話があった。


「佐藤君、ごめんね宙づり状態で・・。」


「いいんです!答えが出るまで考えれば!」


「答えは出た。」


「・・・・・・・・・・!」


佐藤は心臓が止まりそうになった。

ついに今日、判決が下る。

死刑囚の気持ちがちょっとわかった。


「東京に戻る。」


佐藤はガッツポーズを

千手観音に依頼したい心境だった。


「ただ・・・・」


それからは波奈子の今後について

3時間以上話し合った。



佐藤は東京から涼子を迎えに来た。

「一人で帰れるって言ったんだけどねぇ」


「はいはい、お熱い事でw」


久しぶりに3人で2時間ほども話し

二人はレンタカーに乗って東京へ戻った。


帰り際

涼子が珍しい事を言った。


「価値観って、不変じゃないよね。

       成長して変わるもの。

また、変わったから成長できたもの。

    捕らわれ過ぎも良くないね。」



波奈子は二人を見送って

ゆっくりとその意味を嚙み締めた。

涼子は解っていたんだ。

私のもう一つの迷いを。

そして、そっとつぶやいた。


「このままでは終われなくなったな。」

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