【9】朝焼けの薔薇と、理にかなった恋愛実験〜巨人にガチ恋発動〜
セレニスの朝は、まるで宝石のように静かだった。
柔らかな陽光がカーテンの隙間から差し込み、アンジュの頬を照らす。
ふわりと身体を起こすと、海辺のヴィラを包む空気が、ほんのりと甘い。
潮と薔薇の香りが混じり合う――それがすでに“仕掛け”の始まりだった。
「ん〜……良い朝だな。ロクシーの選んだホテルは最高だ」
アンジュは小さく伸びをして、部屋を見渡した。
テーブルの上には、見慣れない箱。
リボンをほどくと、中には繊細なレースのワンピースが入っていた。
「おおっ! なんと美しい……!
きっとロクシーが用意してくれたんだな。流石だな、ロクシー!」
アンジュは嬉しそうに笑い、ワンピースを手に取る。
そのとき、床に散る赤い薔薇の花びらに気づいた。
「……ん? なんだこれ? 薔薇の花びらが……道みたいに……?」
足元から続く花びらの道が、窓辺へと導いている。
アンジュは首を傾げたあと、ふふっと微笑んだ。
「なるほど。ロクシーのドッキリだな?
騙されたふりをしてみようじゃないか!」
ルンルンと軽い足取りで花びらの道を辿るアンジュ。
朝の光に金髪がきらめき、ワンピースの裾がひらりと揺れた。
――それはまるで、ロクシーの脚本どおりの“ヒロイン登場シーン”そのものだった。
バルコニーの先では、ルシアンが立っていた。
ショッキングピンクの悪夢を脱ぎ捨て、今日はロクシーが選んだ“超イケオジ仕様”。
白いシャツの袖を少しまくり、黒のスラックスに金のカフス。
胸元には赤い薔薇のコサージュ――完璧だ。
テーブルには、絵画のように整えられた朝食。
クロワッサンにスクランブルエッグ、フレッシュオレンジジュース。
そして、中央には“天使の好物”であるベリータルトが添えられていた。
アンジュは思わず目を輝かせる。
「おおっ! なんて美味しそうなんだ! ……あ、ルシアン、お前も食べるか?」
ルシアンが一瞬、息をのんだ。
「い、いえ……これはアンジュさまのためにご用意したもので……」
「そうなのか? だが、お前は今は人間だ。栄養補給をしろ!
そうだ、半分こしないか?」
一拍の沈黙。
ルシアンの頬が、信じられないほど静かに赤く染まる。
「……アンジュさまのご命令とあらば……!!」
ナイフとフォークを手に、祈るように一口食べるルシアン。
その動きひとつひとつが神聖儀式のようで――
アンジュは何の疑問もなく「うむ、うまい!」と満面の笑みを見せる。
一方そのころ、隣のヴィラ。
カーテンの影から双眼鏡を構える二つの影――ルチアーノとロクシーだ。
ルチアーノは興奮で震えながら、
「ロクシー先生!! 完璧です!! あれはまさしく奇跡の朝!! ラブ❤️」
と叫んだ。
しかしロクシーは腕を組み、冷静に言い放つ。
「甘いわ、ルチアーノ。これは昨夜のバタフライを帳消しにしただけよ。
まだ“恋の確定”までは遠いわね」
「な、なんですと!? あれだけ眩しい笑顔を見せているというのに!?」
「演出家をなめないで。
本当のロマンスは“偶然の魔法”で生まれるの。
次は――決定的な一撃を打つわ!」
ロクシーの瞳が怪しく光る。
隣でルチアーノはハンカチを噛みしめて叫ぶ。
「ロクシー先生っ!! 天才ですか!! いや、神ですか!!」
そしてふたりは、次なる脚本の構想を練り始めた――。
その頃、朝焼けのバルコニーでは、
アンジュが幸せそうにタルトを食べ、ルシアンが静かに天を仰いでいた。
「……アンジュさま。これが……幸福というものなのですね……」
――神は、たぶんまた「よくやった」としか言わない。
クロフォード邸の前庭では、既にクリスマスの飾り付けが完成していた。
ツリーは金銀のリボンで包まれ、庭のアーチには雪の結晶のライトが揺れる。
「ジニー! この角度どう思う!?」
脚立の上でノアが声を張る。
「完璧だよ、ノア!」
そう笑顔で答えながらも――ジニーの胸に嫌な予感が走る。
「ううん、まだ“完璧”じゃない!
もっと雪の妖精が通り抜けるような感じにしたいな!」
「……妖精……」
ジニーの目が遠くなる。
そして、背後からイーサンに通信が入る。
『クロフォード邸、警護ライン異常なし。
対象者は依然として活動的。』
イーサンはオフィスで「よろしい。引き続き任務をこなせ」とだけ答える。
ノアは脚立の上で、光るオーナメントを振りかざして笑う。
「ジニー、もっと雪を増やそう! ほら、スプレー式のやつ持って来て!」
「うん……分かった……」
ジニーは内心で頭を抱えつつも、ノアのためにクリスマスの飾りが詰まったケースへと向かった。
同じ頃、ルチアーノのヴィラのリビングでは、ロクシーがルチアーノを前に脚本を振りかざしていた。
「いい? 第2弾は“朝焼けの王子様”でリカバーした。
でも次は“運命の出会い・クリスマスマーケット編”で仕上げるの!」
「ロクシー先生っ!! 完璧すぎます!!」
ルチアーノが涙目でハンカチを噛みしめる。
「で、ルシアンにはこう言って誘うの。
“ルシアン、感性は大切だ。自分の心でクリスマスを感じなさい”――はい、練習!」
「ルシアン、感性は大切だ!」
「自分の心でクリスマスを感じなさい!」
「そう! 完璧!!」
ロクシーが両手を打ち鳴らした。
そしてその数分後――。
「ルシアン♪ クリスマスマーケット行こうぜ!」
ニヤニヤが止まらないルチアーノを、ルシアンが怪訝な顔で見る。
「ヴィラの飾り付けも良いけどさ、自分の感性も持つべきだ!」
ルシアンは真顔でうなずいた。
「……理にかなっているな」
一方そのころ、アンジュはロクシーからの誘いメッセージを見て大はしゃぎしていた。
『アンジュちゃん、今日の夜はマーケット行かない? クリスマスを目一杯楽しもうよ!』
「おおっ! マーケット! きっとホットワインがある! クリスマスのお菓子も溢れているな!
ロクシーは、やっぱり分かっているな!」
――こうして“恋愛フラグ”のつもりが、アンジュの中では“食べ歩きツアー”に変換されたのだった。
S.A.G.E.本部、ナディア・ウォーカー所長に用意されたオフィスにて――。
デスクの上には、昨日の会食でベックからもらったメニュー表が置かれている。
ナディアはそれを両手で見つめながら、ため息をついた。
「……あの笑顔。
どうしてあんなに眩しいのかしら……。
キュービー顔で、筋肉で、善良……。
何よりホラーも似合う……!!
まるで人間界に降り立ったサンタクロースね……!!」
頬を押さえてうっとりしていると、ノックの音。
「ウォーカー所長、失礼します。」
――来たッ!!
ナディアは一瞬で姿勢を正した。
ドアの向こうから現れたのは、やはりベック。
いつもの温和な笑顔を浮かべている。
「最近、偽造紙幣の件でお疲れではありませんか?
ウォーカー所長、もしよければ……
クリスマスマーケットに行ってみませんか?
きっと気分転換になりますよ!」
「い、行きます!!!」
即答。
間髪入れず、書類を投げ出して立ち上がるナディア。
ベックは嬉しそうに笑う。
「よかった! では18時に広場で!」
「ええ! 必ず!」
ベックが去ったあと、ナディアはデスクに突っ伏した。
「……ああ、もう……この恋、科学的には説明できない……!」
――そして夕刻。
雪の舞うセレニスの広場に、三組の“奇跡の出会い”が集結しようとしていた。
ノアは雪をまき散らし、
ルシアンは理にかなった恋愛実験に挑み、
ナディアは善良な巨人に心を奪われていた――。
クリスマスマーケットの夜は、
きっと誰もが想像しなかった方向に転がり始める。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
明日も17時更新です☆
Xはこちら→ https://x.com/himari61290
自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪
〈ルシアンとガブリエルをもっと知りたいあなたに…〉
【完結】大天使と“ズッ友”になりたい地獄の王。 〜柄物スーツに一目惚れしてから、すべてが始まった件〜
https://ncode.syosetu.com/n5195lb/
【完結】大天使ガブリエル、地上に爆誕!〜神の命がふんわりすぎて、祈ろうとしたら迷子になりました〜
https://ncode.syosetu.com/n2322lc/
【完結】大天使たち、日本昔話に異世界転生する。〜初恋成就作戦を決行するポンコツ地獄の王に振り回されています〜
https://ncode.syosetu.com/n7024ld/
【完結】大天使ルシアン、最強捜査官になる〜神の沈黙と愛の証明〜
https://ncode.syosetu.com/n5966lg/
を読んで頂けるともっと楽しめます(^^)
こちら単体でも大丈夫です☆
\外伝の元ネタはこちら✨/
『最強捜査官』本編 → https://ncode.syosetu.com/n2892lb/




