【19】奇跡は静かに訪れる。〜天に帰る天使、残された旋律〜
結局、ロクシーとアンジュは、リオとアーチボルトのヴィラで開かれたクリスマス・イブのパーティーに参加した。
もちろん、ルチアーノも一緒だ。
皆、懸命に笑っていた。
楽しそうに、明るく、できる限り自然に。
だから――アンジュも笑顔でいた。
大天使ガブリエルとして、愛と祝福の夜に涙を零すわけにはいかない。
だがその微笑みの奥に、わずかな寂しさが揺れていた。
やがて、時計の針が0時に近づく。
ロクシーが手にしたシャンパンフルートを、スプーンで軽く“カンカン”と叩いた。
「ルシアンは急なお仕事でいなくなっちゃったけど――アンジュちゃんに、贈り物があるの!」
アンジュは首をかしげる。
「クリスマスプレゼントなら、すでに貰っておる。イヤリングとネックレスを……」
ロクシーは人差し指を横に振り、いたずらっぽく笑った。
「うん、それも大切なプレゼント。でもね……ルシアンから“心のプレゼント”があるの!」
「……心の……?」
その瞬間、空気が静まり返る。
そして――フルートの音が響いた。
曲は、アメージング・グレイス。
どこまでも澄んだ旋律が、冬の空気を震わせ、魂に届く。
アンジュの青い瞳が揺れ、透明な涙が頬を伝う。
「ルシアンは、昼間この曲を練習していたの。
それをルチアーノが録音してたのよ。
本当は、生演奏がいちばんだけど……録音でも、いいよね?」
ロクシーのやさしい声に、アンジュは何度も頷いた。
涙がぽたぽたと床に落ちるたび、音楽がやさしく包み込む。
そして――クリスマスの鐘が鳴り響く。
日付が25日を告げたその瞬間、
アンジュ――いや、大天使ガブリエルは、
静かな光に包まれ、天界へと還っていった。
――残されたのは、フルートの旋律と、永遠の祈りだけ。
神の御前に、天は静まり返っていた。
御座の周りを包むのは、永遠の光――沈黙すらも聖歌のように響く世界。
その中央で、大天使ガブリエルが跪いていた。
神が、やさしく語りかける。
「ガブリエルよ、よくやった。
では――私の誕生日を祝ってくれるな?」
「御意。」
「よろしい。
お前の分身は、すでに地上に在る。
聖務に励み、愛を忘れるな。」
「ありがたきお言葉……!
このガブリエル、この身を呈してでも、聖なる務めを果たします……!」
一礼し、ガブリエルは政務室へと戻った。
けれど、その心はどこか遠く、静かに波打っていた。
能天使さまが下された決定――
“最大なる竜”の退治に、大天使ミカエルが選ばれ、そして……ルシアンも共にあるという。
ガブリエルはそっと目を閉じた。
ルシアンが贈ってくれたイヤリングとネックレスの記憶が、光の粒のように浮かび上がる。
けれどそれは、地上の分身がハリウッドの自宅で大切に保管しているもの。
思い出すたびに、胸の奥が痛くなる。
――能天使さまの軍に加わるのは、大天使として誉れ高いこと。
ルシアンも、きっと全力で戦っているはず。
だからガブリエルは、静かに祈った。
「ルシアンよ。私は祈ろう。
聖なる戦いにおいて、能天使さまとミカエル、そして大天使たち皆が――
必ず、勝利を収めますように……」
そう言葉にした瞬間、頬を伝う涙。
理由は分からない。
けれど、その涙は真珠よりも尊く、祈りそのもののように光っていた。
――そして、一週間後。ヴェネツィア。
ルシアンは、能天使さまの率いる聖戦から戻っていた。
戦いは終わり、勝利の報告がすでに天へ届いている。
しかし彼の姿は、またもやボロボロだった。
恩寵をもってしても修復が追いつかない“柄on柄スーツ”を脱ぎながら、ルシアンは静かに息をつく。
だが、心の内には確かな誇りと安堵があった。
“ガブリエルさまの御名の下に戦えた”――
それだけで、彼には十分だった。
「ルーシアン♪」
その軽快な声。
振り返ると、いつもの笑顔――ルチアーノがいた。
「もう〜! 一週間も戦ってるとか、俺様寝不足だっ!
30分おきに水晶玉チェックしてたんだからなっ!!」
「そうか。」
淡々と返すルシアン。
そして、手をかざして一瞬で着替えを終える。
その所作は、いつも通り完璧だった。
すると――ルチアーノが、ずいっとフルートを突き出した。
「ルシアン! クリスマス・イブ、録音流したんだぞ!
俺様、ちゃんとお前の演奏を保存してたんだ!
アンジュちゃん、泣いて感動してた! ……な?
今度こそ生演奏だ!
今、大天使の務めはないんだろ? 練習しろ!」
「……泣いていらした? あのお方が……」
ルシアンのヘイゼルグリーンの瞳が、かすかに揺れる。
そして、静かにフルートを手に取り、唇へと運んだ。
その頃――天界。
ガブリエルは、大天使たちの報告書に目を通していた。
だが、次の瞬間――ペンが止まる。
聖なる静寂の中に、
懐かしい旋律が流れ込んでくる。
――アメージング・グレイス。
それは地上から届いた、ルシアンの音。
ガブリエルは無意識のうちに、翼を広げていた。
光の粒を蹴り、天を越え、ヴェネツィアへと舞い降りる。
冬の街に響くフルートの音。
雪のような白い息の中、ルシアンが目を見開く。
そして、微笑んだ。
演奏は続く。
ガブリエルは、ゆっくりと彼の前に立った。
真珠も叶わぬほど美しく輝く涙を流しながら、
ガブリエルは囁くように言った。
「メリー・クリスマス。ルシアン。」
その瞬間、世界が静止した。
風も、光も、鐘の音さえも――すべてが、愛の余韻に包まれる。
――奇跡は、静かに訪れた。
そして、祈りは音になり、永遠の旋律となって天と地を結んだ。
〜fin〜
これにて完結です。
ここまでお読み下さり、本当にありがとうございましたm(_ _)m
どなたかの琴線に少しでも触れることが出来たら、幸いです。
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