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【完結】大天使と最強捜査官のクリスマス戦線 〜セレニスに集う者たち、愛か使命か〜  作者: 久茉莉himari


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18/19

【18】恋と科学、そしてピエロの笑顔が輝く夜。〜セレニス・イブの狂想曲〜

そして――

リオとアーチボルトのヴィラ、メインリビングでは。


ロクシー、ルチアーノ、リオ、アーチボルトの四人が――

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、タブレット越しの映像を見つめていた。


画面には、プールサイドでルシアンを探し続けるアンジュの姿。


「ルシアン! どこだ!? ルシアン!!」


その必死な声がスピーカーから流れるたび、

全員の胸に、針のような痛みが刺さる。


「……どうにかならないの!?」

ロクシーが叫んだ。声が震えている。


「俺様……くぅっ……!!」

ルチアーノは言葉にならず、ハンカチを握りしめて嗚咽する。


「ルシアンはこのまま天界に戻っちゃうの!?」

リオは涙をぽろぽろと零し、アーチボルトは震える声で答えた。


「……それが……天使の定めなのだ……」


静寂。

ロクシーは涙で曇ったタブレットの画面を、震える指で一時停止した。


そこに映るのは、

光に包まれたまま消えたルシアンと、

必死にその名を呼ぶアンジュの姿――。


ロクシーはぐいっと袖で涙を拭い、立ち上がった。


「泣いてたってルシアンは戻らない!

ルシアンがいなくても、恋心だけでも伝えなきゃ!!」


その言葉に、ルチアーノが顔を上げる。

泣き腫らした目に、再び光が宿った。


「ロ、ロクシー先生……!!」


ロクシーは深呼吸をして、拳を握る。


「まずはミカエルが現れた音楽スタジオに行くわよ!

リオ! アーチボルト! あんた達はアンジュちゃんの気を逸らしなさい!」


リオとアーチボルトは青ざめながらも、同時に声を張り上げた。


「ハイッ!!」


リビングに響くその返事。

まるで、聖戦への号令のように力強かった。


ロクシーはコートを翻し、タブレットを握りしめる。

その瞳には――悪魔をも従える、鋼の意志が宿っていた。





一方――

S.A.G.E.の仕事もクリスマス・イブとあって早めに切り上げたエリオットは、

ホテルのベッドの上で、放心していた。


天井を見上げたまま、ただ虚ろにため息をつく。


「……なんで、僕が……」


突然、今朝ナディアに言い渡されたのだ。

『今夜は研究者たちと関係者限定の“仮装クリスマスパーティ”を開くから、ブレア博士も参加するように。』


それはまだ、いい。

クリスマス・イブを見知らぬ土地で一人ぼっちで過ごすよりは、

人のいる場所に行けるだけマシかもしれない。


だが――


「男性の仮装は“ピエロ”のみって……何なんだよ!?

なぜピエロ縛り!? クリスマスと関係ないじゃん……!!」


エリオットはベッドの上で頭を掻きむしった。

白衣を脱いだばかりの手が髪に沈み、静かな部屋に小さな呻きが漏れる。


窓の外では、セレニス・ベイの夜景が遠く光っていた。

その光が、どこか赤く――血のように滲んで見えた。


――同じ頃、セレニスでは。

誰かが天界と地獄を繋ごうとしていた。


そして、誰かが“愛”を信じて、禁忌の線を踏み越えようとしていた。


エリオットは、そんなことなど知る由もなく。

何とかモールで買ってきたピエロ衣装の袋を睨みつけていた。


「……マジで着るのか、これ……」


あまりにも健気な常識人の嘆きが、

聖なる夜の静寂に、ぽつりと溶けていった。





ケーブルが床を這い、スポットライトがステージを照らす。

まるで映画の撮影現場のような緊張感の中、ルチアーノがマイクスタンドの前で直立していた。


その背後には、腕を組んだロクシー監督。

冷徹にして情熱的な女将軍のような眼差しが、彼を射抜く。


「つまり!」

ロクシーの鋭い声がスタジオに響いた。

「ミカエルはあんたにこう言ったのよ!

“罰しに来たのではない。ただし、口を開くな。動くな。その瞬間、私がお前を消す。”――だったわね!?」


ルチアーノが姿勢を正し、軍人のように叫ぶ。

「はいッ! その通りでありますッ!!」


ロクシーは目を細め、間髪入れずに続ける。

「で、あんたはその通りにして……脂汗かいて震えてただけ! OK!?」


「OKでありますッ!!」


「そしてルシアンは楽器の練習をしていた……! 何回?」


ルチアーノは一瞬、遠い目をしてから――

「182回でありますッ!!」


ロクシーの唇が、ゆっくりと持ち上がる。

「……よろしい。」


彼女はミキサー室へ歩み寄り、コンソールの前に立つ。

赤く光る無数のボタンの中から、ひとつを指先で選び取った。


――カチッ。


スイッチの音が鳴ると同時に、ルチアーノの背筋がピンと伸びた。

ロクシーの目が怪しく光る。


「……これで良いわ……!!」


その声は、まるで戦場の勝利を確信した将軍のようだった。





ホテルの小ホール。

天井からは眩いシャンデリアが吊るされ、豪奢なカーペットの上にはクリスマスツリーが煌めいていた。

赤と金のオーナメントが光を弾き、窓の外の雪景色さえも祝福しているようだ。


――この特別仕様の会場は、イーサンが急な頼みにもかかわらず手配してくれたものだった。


だが、その完璧な舞台に似つかわしくない空気が漂っていた。


ナディアは、美しい脚線美をこれでもかと引き立てるシルバースパンコールのイブニングドレスに身を包みながら、不機嫌そのものだった。


何故なら――

エリオットのピエロ姿が、あまりにも中途半端だったからだ。


もじゃもじゃの赤いカツラに、黄色の三角帽子。

赤い付け鼻に、口の周りを大きく白く縁取っているだけ。

衣装の前面こそカラフルだが、後ろは真っ黒でファスナー丸見えという惨状。


しかも――呼んでもいないS.A.G.E.のヴィヴィアンが、勝手に参加していた。


彼女は全身黒ずくめのピチピチスーツ。

ボディラインがくっきりと浮かび上がるくせに、顔は目だけを出して覆面状態。

おまけに安っぽい赤いマントを翻し、全身から強烈な“自信”を放っている。


そして――猫なで声で叫ぶ。

「私のエリー! 私が守るわ! 私から離れないで!」

何度も、何度も。

その“私”の三連打が、ナディアの神経を削っていく。


ナディアはとうとう眉をひくつかせ、爪先で床をトントンと叩いた。


――耐えられない……! この空間の統率が崩壊している……!!


彼女のイライラが頂点に達した、その瞬間――

ギィ……と扉が開いた。


「こんばんは! 皆さん、早いですね!」


ニコニコ顔で入ってきたのは、ベックだった。


その姿を見た瞬間、エリオットは「ギャーーーッ!!」と叫び、腰を抜かす。

逃げ出そうとしたところを、ヴィヴィアンに羽交い締めにされる。


「私のエリー! 私が守るわ! 私から離れないで!」

再び三連打。完全にカオスである。


だが――ベックの姿は、すべてを凌駕していた。


顔には寸分の狂いもなく描かれた白と赤のペイント。

頭には完璧なカツラ。

そして身体全体を覆う、原色のコントラストが眩しい完璧なピエロ衣装。


それは――FBI行動分析課を立ち上げた伝説のレスラー捜査官に、

殺人鬼ジョン・ゲイシーが刑務所から贈った“手描きのピエロ絵はがき”を忠実に再現したものだった。


ナディアの瞳が震える。

呼吸を忘れ、両手を口元に当てたまま、ただ見つめる。


――見つけた……!! 私の王子様……!!


次の瞬間、彼女はもう駆け出していた。


ベックの両手を握りしめ、瞳を輝かせて言葉を放つ。


「メリー・クリスマス! 私と――交際して下さらない!?」


ベックの顔が、ピエロペイントの上からでも真っ赤に染まるのが分かった。


――聖夜の鐘が鳴る。

狂気と恋が交錯する、セレニスの夜が始まろうとしていた。

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