【18】恋と科学、そしてピエロの笑顔が輝く夜。〜セレニス・イブの狂想曲〜
そして――
リオとアーチボルトのヴィラ、メインリビングでは。
ロクシー、ルチアーノ、リオ、アーチボルトの四人が――
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、タブレット越しの映像を見つめていた。
画面には、プールサイドでルシアンを探し続けるアンジュの姿。
「ルシアン! どこだ!? ルシアン!!」
その必死な声がスピーカーから流れるたび、
全員の胸に、針のような痛みが刺さる。
「……どうにかならないの!?」
ロクシーが叫んだ。声が震えている。
「俺様……くぅっ……!!」
ルチアーノは言葉にならず、ハンカチを握りしめて嗚咽する。
「ルシアンはこのまま天界に戻っちゃうの!?」
リオは涙をぽろぽろと零し、アーチボルトは震える声で答えた。
「……それが……天使の定めなのだ……」
静寂。
ロクシーは涙で曇ったタブレットの画面を、震える指で一時停止した。
そこに映るのは、
光に包まれたまま消えたルシアンと、
必死にその名を呼ぶアンジュの姿――。
ロクシーはぐいっと袖で涙を拭い、立ち上がった。
「泣いてたってルシアンは戻らない!
ルシアンがいなくても、恋心だけでも伝えなきゃ!!」
その言葉に、ルチアーノが顔を上げる。
泣き腫らした目に、再び光が宿った。
「ロ、ロクシー先生……!!」
ロクシーは深呼吸をして、拳を握る。
「まずはミカエルが現れた音楽スタジオに行くわよ!
リオ! アーチボルト! あんた達はアンジュちゃんの気を逸らしなさい!」
リオとアーチボルトは青ざめながらも、同時に声を張り上げた。
「ハイッ!!」
リビングに響くその返事。
まるで、聖戦への号令のように力強かった。
ロクシーはコートを翻し、タブレットを握りしめる。
その瞳には――悪魔をも従える、鋼の意志が宿っていた。
一方――
S.A.G.E.の仕事もクリスマス・イブとあって早めに切り上げたエリオットは、
ホテルのベッドの上で、放心していた。
天井を見上げたまま、ただ虚ろにため息をつく。
「……なんで、僕が……」
突然、今朝ナディアに言い渡されたのだ。
『今夜は研究者たちと関係者限定の“仮装クリスマスパーティ”を開くから、ブレア博士も参加するように。』
それはまだ、いい。
クリスマス・イブを見知らぬ土地で一人ぼっちで過ごすよりは、
人のいる場所に行けるだけマシかもしれない。
だが――
「男性の仮装は“ピエロ”のみって……何なんだよ!?
なぜピエロ縛り!? クリスマスと関係ないじゃん……!!」
エリオットはベッドの上で頭を掻きむしった。
白衣を脱いだばかりの手が髪に沈み、静かな部屋に小さな呻きが漏れる。
窓の外では、セレニス・ベイの夜景が遠く光っていた。
その光が、どこか赤く――血のように滲んで見えた。
――同じ頃、セレニスでは。
誰かが天界と地獄を繋ごうとしていた。
そして、誰かが“愛”を信じて、禁忌の線を踏み越えようとしていた。
エリオットは、そんなことなど知る由もなく。
何とかモールで買ってきたピエロ衣装の袋を睨みつけていた。
「……マジで着るのか、これ……」
あまりにも健気な常識人の嘆きが、
聖なる夜の静寂に、ぽつりと溶けていった。
ケーブルが床を這い、スポットライトがステージを照らす。
まるで映画の撮影現場のような緊張感の中、ルチアーノがマイクスタンドの前で直立していた。
その背後には、腕を組んだロクシー監督。
冷徹にして情熱的な女将軍のような眼差しが、彼を射抜く。
「つまり!」
ロクシーの鋭い声がスタジオに響いた。
「ミカエルはあんたにこう言ったのよ!
“罰しに来たのではない。ただし、口を開くな。動くな。その瞬間、私がお前を消す。”――だったわね!?」
ルチアーノが姿勢を正し、軍人のように叫ぶ。
「はいッ! その通りでありますッ!!」
ロクシーは目を細め、間髪入れずに続ける。
「で、あんたはその通りにして……脂汗かいて震えてただけ! OK!?」
「OKでありますッ!!」
「そしてルシアンは楽器の練習をしていた……! 何回?」
ルチアーノは一瞬、遠い目をしてから――
「182回でありますッ!!」
ロクシーの唇が、ゆっくりと持ち上がる。
「……よろしい。」
彼女はミキサー室へ歩み寄り、コンソールの前に立つ。
赤く光る無数のボタンの中から、ひとつを指先で選び取った。
――カチッ。
スイッチの音が鳴ると同時に、ルチアーノの背筋がピンと伸びた。
ロクシーの目が怪しく光る。
「……これで良いわ……!!」
その声は、まるで戦場の勝利を確信した将軍のようだった。
ホテルの小ホール。
天井からは眩いシャンデリアが吊るされ、豪奢なカーペットの上にはクリスマスツリーが煌めいていた。
赤と金のオーナメントが光を弾き、窓の外の雪景色さえも祝福しているようだ。
――この特別仕様の会場は、イーサンが急な頼みにもかかわらず手配してくれたものだった。
だが、その完璧な舞台に似つかわしくない空気が漂っていた。
ナディアは、美しい脚線美をこれでもかと引き立てるシルバースパンコールのイブニングドレスに身を包みながら、不機嫌そのものだった。
何故なら――
エリオットのピエロ姿が、あまりにも中途半端だったからだ。
もじゃもじゃの赤いカツラに、黄色の三角帽子。
赤い付け鼻に、口の周りを大きく白く縁取っているだけ。
衣装の前面こそカラフルだが、後ろは真っ黒でファスナー丸見えという惨状。
しかも――呼んでもいないS.A.G.E.のヴィヴィアンが、勝手に参加していた。
彼女は全身黒ずくめのピチピチスーツ。
ボディラインがくっきりと浮かび上がるくせに、顔は目だけを出して覆面状態。
おまけに安っぽい赤いマントを翻し、全身から強烈な“自信”を放っている。
そして――猫なで声で叫ぶ。
「私のエリー! 私が守るわ! 私から離れないで!」
何度も、何度も。
その“私”の三連打が、ナディアの神経を削っていく。
ナディアはとうとう眉をひくつかせ、爪先で床をトントンと叩いた。
――耐えられない……! この空間の統率が崩壊している……!!
彼女のイライラが頂点に達した、その瞬間――
ギィ……と扉が開いた。
「こんばんは! 皆さん、早いですね!」
ニコニコ顔で入ってきたのは、ベックだった。
その姿を見た瞬間、エリオットは「ギャーーーッ!!」と叫び、腰を抜かす。
逃げ出そうとしたところを、ヴィヴィアンに羽交い締めにされる。
「私のエリー! 私が守るわ! 私から離れないで!」
再び三連打。完全にカオスである。
だが――ベックの姿は、すべてを凌駕していた。
顔には寸分の狂いもなく描かれた白と赤のペイント。
頭には完璧なカツラ。
そして身体全体を覆う、原色のコントラストが眩しい完璧なピエロ衣装。
それは――FBI行動分析課を立ち上げた伝説のレスラー捜査官に、
殺人鬼ジョン・ゲイシーが刑務所から贈った“手描きのピエロ絵はがき”を忠実に再現したものだった。
ナディアの瞳が震える。
呼吸を忘れ、両手を口元に当てたまま、ただ見つめる。
――見つけた……!! 私の王子様……!!
次の瞬間、彼女はもう駆け出していた。
ベックの両手を握りしめ、瞳を輝かせて言葉を放つ。
「メリー・クリスマス! 私と――交際して下さらない!?」
ベックの顔が、ピエロペイントの上からでも真っ赤に染まるのが分かった。
――聖夜の鐘が鳴る。
狂気と恋が交錯する、セレニスの夜が始まろうとしていた。
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