【16】理性、恋に落つ。〜大天使の神の命と、悪魔の策〜
セレニス・ベイの夜明け。
空には淡い金色が滲み、街はクリスマス・イブを迎える静かな熱気に包まれていた。
遠くの鐘の音が微かに響き、凍るような空気の中で光だけが穏やかに揺れている。
ルシアンは窓辺に立ち、胸の奥に広がる名もなきざわめきを感じていた。
「これは……何なのだ……」
理性の名を持つ彼の心に、理屈では説明できない感情が芽を出していた。
――アンジュさまが、リオとアーチボルトと合同パーティー……。
それ自体は問題ではない。
アンジュさまは安全だ。
きっと、笑顔でクリスマス・イブを過ごされるだろう。
だが、それでも――
胸の奥に、言葉にならない熱が渦巻く。
それは焦燥にも似て、切なさにも似て、ただ静かに彼の理性を侵食していく。
苦悩が滲むルシアンの横顔は、朝の光を受けて一層美しかった。
そしてその瞬間――
「……いいねぇ、その表情。俺様の恋の教科書に載せたいくらいだぞッ!ラブ❤️」
背後でカメラのシャッター音。
いつの間にか、ルチアーノが柱の陰で隠し撮りしていた。
ルチアーノから送られてきたルシアンの写真を見て、
ロクシーの唇に黒い笑みが浮かんだ。
――フフフ……。脚本通りじゃない!
彼女は満足げにタブレットをフリックし、
ルチアーノへ次なる指令メッセージを送信する。
そのタイミングで、ふわりと部屋の扉が開いた。
朝日を背に、アンジュが眩しい笑顔で現れる。
「ロクシー、おはよう! ロクシーは早起きだな!」
「アンジュちゃん、おはよう!
今日のヴィラの朝食は、完全クリスマス仕様だよ!
今日は夜のクリスマスパーティーに備えて、ヴィラでゆっくりしない?」
アンジュが小首を傾げる。
金の髪がさらりと揺れ、青い瞳がきらめいた。
「そのパーティーなのだが……ルシアンとルチアーノを誘ってやらなくても良いのか?
せっかくお隣にいるというのに……」
――キターーー!!
アンジュちゃんからのお誘い!!
でも、ここは……!
ロクシーはゴホンと咳払いをして、さらりと笑う。
「なんかね〜、あの二人、男だけで“聖なる夜”を楽しみたいんだって!
理解不能だけど!」
アンジュがにっこりと笑った。
「それも良いな! 友情とは尊いものだ!」
ロクシーはその笑顔を見ながら、心の中で小さくガッツポーズを取った。
――計画は、順調。
一方、隣のヴィラでは――
リオはスマホを握りしめ、半泣きでノアに電話をしていた。
「兄貴〜〜! 一生のお願い!!
俺とアーチーをクロフォード邸に招待して!! 今日しかないんだッ!」
電話の向こうで、ノアの冷静な声。
「……は? なんで?
俺とイーサンとジニーのクリスマスに乱入して来るな! ヤダ!」
――ピッ。
無情な通話終了音。
「ノアーーー!!!」
リオが空に向かって絶叫した。
アーチボルトがため息をつきながら、静かに肩を叩く。
「リオ……諦めろ。
さあ、パーティーに向けて飾り付けをしてもらおう……」
「こんな不毛なクリスマスを過ごすために、セレニスまで来たのーーー!?」
魂の叫びが冬空に響き、
窓の外で小鳥がびっくりして飛び立った。
深緑のフェラーリが静かに停まったのは、音楽スタジオの前だった。
中では、ミキサー室にベレー帽とサングラス、メガホンを手にしたルチアーノが仁王立ちしていた。
「ルシアン! 音楽とは所詮、数学だ! お前なら完璧に理解できるはずだろっ!」
ルシアンが静かに答える。
「理解している。音程は正確なはずだ。何度吹けば良いのだ?」
「だから〜っ!!
アンジュちゃんの心に響かないと意味ないのっ!!
俺様、間違ってますか!? “想い”を音楽に乗せろっ!」
「……想い、か……」
ルシアンが小さく呟いた。
アンジュさま――。
大天使ガブリエルさまが器を持つ前から、あの方は私の敬愛と尊敬の証。
そして、恩寵を消されたガブリエルさまとの日々……。
その記憶が、胸の奥に波紋のように広がっていく。
そして再び、ルシアンが楽器を手にした――その瞬間。
目を灼くほどの眩い光が、音楽スタジオ全体を覆った。
ルチアーノは反射的に身を縮める。
意識とは関係なく脂汗が噴き出し、全身が小刻みに震えた。
そう――大天使ミカエルが降臨したのだ。
大天使の身、そのままに。
ルシアンがすぐに跪く。
ミカエルは静かに彼を見下ろし、冷厳に告げた。
「地獄の王、ルチアーノよ。
そなたを罰しに来たのではない。
ただし――口を開くな。動くな。
その瞬間、私がお前を消す。」
空気が凍りつく。
「ルシアンよ。能天使さまが決定を下された。
恐れ多くも“最大なる竜”の退治の一軍に、私が選ばれ、そなたも選ばれた。
人間の時間にして十七時、我らは戦いに向かう。
それまでに天界へ戻り、準備を整えよ。」
「恐れながら――!」
ルシアンが声を上げる。
「大天使ガブリエルさまも、この地にいらっしゃいます!
ガブリエルさまは……!」
ミカエルの金色の瞳が、烈火のように燃え上がった。
「大天使ガブリエルは、聖母マリアさま直属の大天使。
戦いに行くことなど、あるはずがない!
血迷ったか、ルシアンよ!」
「……いいえ。愚問、失礼いたしました。」
「よろしい。――では時間通り、出撃に備えよ。」
そして――光は、風に溶けるように消え去った。
残されたのは、沈黙と、ルチアーノの情けないため息だけだった。
「だ・か・ら!
今夜はクリスマス・イブ!!
私は慈善パーティーをはしごしなくちゃならないのっ!!
支度の邪魔をするなッ!!」
イレイナの怒鳴り声が、水晶玉の向こうから響き渡る。
だが、ルチアーノは一歩も引かない。
「だって!!
セレニス州は天使も恩寵を使えないんだろ!?
なのに……ミカエルは大天使のまま、セレニスに降り立ったんだぞ!?
おかしいじゃねーか!!」
イレイナが深いため息をついた。
「神は別。――忘れたの? このボンクラ!」
その一言で、ルチアーノの顔から血の気が引く。
「……つまり、ミカエルは正式な“神の使い”として来たのか!?」
「当たり前でしょ!?
能天使の命令よ。神からのお告げと一緒!
じゃあね!」
「待てよ、イレイナ!!
今夜だけでもルシアンを地上に留まらせる方法は無いのか!?
金ならいくらでも払う!」
ルチアーノの涙声に、イレイナの表情が一瞬だけ曇る。
だが――その瞳は揺らがなかった。
「能天使を相手にしろと?
それはこの私の“死”を意味するわ。
ルチアーノ! あんたも手を引きなさい!
地獄の王の座から、引きずり降ろされるわよ!」
そして――水晶玉は淡い光を放ち、煙のように消えた。
残されたのは、青ざめた悪魔の王ただ一人。
「ロクシー先生……! ロクシー先生に連絡だっ!」
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
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〈ルシアンとガブリエルをもっと知りたいあなたに…〉
【完結】大天使と“ズッ友”になりたい地獄の王。 〜柄物スーツに一目惚れしてから、すべてが始まった件〜
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