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【完結】大天使と最強捜査官のクリスマス戦線 〜セレニスに集う者たち、愛か使命か〜  作者: 久茉莉himari


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16/19

【16】理性、恋に落つ。〜大天使の神の命と、悪魔の策〜

セレニス・ベイの夜明け。


空には淡い金色が滲み、街はクリスマス・イブを迎える静かな熱気に包まれていた。

遠くの鐘の音が微かに響き、凍るような空気の中で光だけが穏やかに揺れている。


ルシアンは窓辺に立ち、胸の奥に広がる名もなきざわめきを感じていた。


「これは……何なのだ……」


理性の名を持つ彼の心に、理屈では説明できない感情が芽を出していた。


――アンジュさまが、リオとアーチボルトと合同パーティー……。


それ自体は問題ではない。

アンジュさまは安全だ。

きっと、笑顔でクリスマス・イブを過ごされるだろう。


だが、それでも――


胸の奥に、言葉にならない熱が渦巻く。

それは焦燥にも似て、切なさにも似て、ただ静かに彼の理性を侵食していく。


苦悩が滲むルシアンの横顔は、朝の光を受けて一層美しかった。

そしてその瞬間――


「……いいねぇ、その表情。俺様の恋の教科書に載せたいくらいだぞッ!ラブ❤️」


背後でカメラのシャッター音。

いつの間にか、ルチアーノが柱の陰で隠し撮りしていた。





ルチアーノから送られてきたルシアンの写真を見て、

ロクシーの唇に黒い笑みが浮かんだ。


――フフフ……。脚本通りじゃない!


彼女は満足げにタブレットをフリックし、

ルチアーノへ次なる指令メッセージを送信する。


そのタイミングで、ふわりと部屋の扉が開いた。

朝日を背に、アンジュが眩しい笑顔で現れる。


「ロクシー、おはよう! ロクシーは早起きだな!」


「アンジュちゃん、おはよう!

今日のヴィラの朝食は、完全クリスマス仕様だよ!

今日は夜のクリスマスパーティーに備えて、ヴィラでゆっくりしない?」


アンジュが小首を傾げる。

金の髪がさらりと揺れ、青い瞳がきらめいた。


「そのパーティーなのだが……ルシアンとルチアーノを誘ってやらなくても良いのか?

せっかくお隣にいるというのに……」


――キターーー!!

アンジュちゃんからのお誘い!!

でも、ここは……!


ロクシーはゴホンと咳払いをして、さらりと笑う。


「なんかね〜、あの二人、男だけで“聖なる夜”を楽しみたいんだって!

理解不能だけど!」


アンジュがにっこりと笑った。


「それも良いな! 友情とは尊いものだ!」


ロクシーはその笑顔を見ながら、心の中で小さくガッツポーズを取った。

――計画は、順調。





一方、隣のヴィラでは――

リオはスマホを握りしめ、半泣きでノアに電話をしていた。


「兄貴〜〜! 一生のお願い!!

俺とアーチーをクロフォード邸に招待して!! 今日しかないんだッ!」


電話の向こうで、ノアの冷静な声。


「……は? なんで?

俺とイーサンとジニーのクリスマスに乱入して来るな! ヤダ!」


――ピッ。

無情な通話終了音。


「ノアーーー!!!」

リオが空に向かって絶叫した。


アーチボルトがため息をつきながら、静かに肩を叩く。


「リオ……諦めろ。

さあ、パーティーに向けて飾り付けをしてもらおう……」


「こんな不毛なクリスマスを過ごすために、セレニスまで来たのーーー!?」


魂の叫びが冬空に響き、

窓の外で小鳥がびっくりして飛び立った。





深緑のフェラーリが静かに停まったのは、音楽スタジオの前だった。


中では、ミキサー室にベレー帽とサングラス、メガホンを手にしたルチアーノが仁王立ちしていた。


「ルシアン! 音楽とは所詮、数学だ! お前なら完璧に理解できるはずだろっ!」


ルシアンが静かに答える。


「理解している。音程は正確なはずだ。何度吹けば良いのだ?」


「だから〜っ!!

アンジュちゃんの心に響かないと意味ないのっ!!

俺様、間違ってますか!? “想い”を音楽に乗せろっ!」


「……想い、か……」


ルシアンが小さく呟いた。


アンジュさま――。

大天使ガブリエルさまが器を持つ前から、あの方は私の敬愛と尊敬の証。

そして、恩寵を消されたガブリエルさまとの日々……。


その記憶が、胸の奥に波紋のように広がっていく。


そして再び、ルシアンが楽器を手にした――その瞬間。


目を灼くほどの眩い光が、音楽スタジオ全体を覆った。


ルチアーノは反射的に身を縮める。

意識とは関係なく脂汗が噴き出し、全身が小刻みに震えた。


そう――大天使ミカエルが降臨したのだ。

大天使の身、そのままに。


ルシアンがすぐに跪く。


ミカエルは静かに彼を見下ろし、冷厳に告げた。


「地獄の王、ルチアーノよ。

そなたを罰しに来たのではない。

ただし――口を開くな。動くな。

その瞬間、私がお前を消す。」


空気が凍りつく。


「ルシアンよ。能天使さまが決定を下された。

恐れ多くも“最大なる竜”の退治の一軍に、私が選ばれ、そなたも選ばれた。

人間の時間にして十七時、我らは戦いに向かう。

それまでに天界へ戻り、準備を整えよ。」


「恐れながら――!」


ルシアンが声を上げる。


「大天使ガブリエルさまも、この地にいらっしゃいます!

ガブリエルさまは……!」


ミカエルの金色の瞳が、烈火のように燃え上がった。


「大天使ガブリエルは、聖母マリアさま直属の大天使。

戦いに行くことなど、あるはずがない!

血迷ったか、ルシアンよ!」


「……いいえ。愚問、失礼いたしました。」


「よろしい。――では時間通り、出撃に備えよ。」


そして――光は、風に溶けるように消え去った。


残されたのは、沈黙と、ルチアーノの情けないため息だけだった。





「だ・か・ら!

今夜はクリスマス・イブ!!

私は慈善パーティーをはしごしなくちゃならないのっ!!

支度の邪魔をするなッ!!」


イレイナの怒鳴り声が、水晶玉の向こうから響き渡る。

だが、ルチアーノは一歩も引かない。


「だって!!

セレニス州は天使も恩寵を使えないんだろ!?

なのに……ミカエルは大天使のまま、セレニスに降り立ったんだぞ!?

おかしいじゃねーか!!」


イレイナが深いため息をついた。


「神は別。――忘れたの? このボンクラ!」


その一言で、ルチアーノの顔から血の気が引く。


「……つまり、ミカエルは正式な“神の使い”として来たのか!?」


「当たり前でしょ!?

能天使の命令よ。神からのお告げと一緒!

じゃあね!」


「待てよ、イレイナ!!

今夜だけでもルシアンを地上に留まらせる方法は無いのか!?

金ならいくらでも払う!」


ルチアーノの涙声に、イレイナの表情が一瞬だけ曇る。

だが――その瞳は揺らがなかった。


「能天使を相手にしろと?

それはこの私の“死”を意味するわ。

ルチアーノ! あんたも手を引きなさい!

地獄の王の座から、引きずり降ろされるわよ!」


そして――水晶玉は淡い光を放ち、煙のように消えた。


残されたのは、青ざめた悪魔の王ただ一人。


「ロクシー先生……! ロクシー先生に連絡だっ!」

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

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