【15】セレニス恋愛戦線異常あり。〜悪魔は恋を動かし、科学者はピエロを愛す〜
セレニスのメインストリート。
クリスマス・イブ前日の午後、街は銀と赤の光で満たされていた。
その一角にある高級ジュエリーショップの前――
アンジュとロクシー、そしてルシアンの姿があった。
アンジュはショーウィンドウの中で輝く宝石を見つめ、目をきらきらと輝かせる。
「なんと美しい……! このきらめき、まるで天界の星々のようだな!」
ロクシーがにっこり笑う。
「でしょ? ここは私のおすすめ。アンジュちゃんにぴったりの宝石がきっとあるわ」
「ロクシーの選ぶものは、いつも理にかなっているからな!」
アンジュが嬉しそうに頷くと、隣のルシアンは静かに手を差し出した。
「アンジュさま。お荷物をお持ちします」
「おお、ありがとう! ルシアンは本当に気が利くな!」
ロクシーは――その様子を横目で見ながら、にやりと笑った。
(順調、順調……さて、“午後の布陣”が動き出す頃ね)
そう、店の扉の向こうに――二人の影が潜んでいたのだ。
チリン……。
扉につけられた小さなベルが鳴り、爽やかな声が響いた。
「やあ、アンジュ! 奇遇だね!」
リオだった。
笑顔は爽やかだが、額にはうっすらと脂汗。
そして、その隣には――
「うむ! わしも偶然、ここに通りかかったのだがな!」
アーチボルトが胸を張っていた。
だが、その頬も微妙に引きつっている。
アンジュが嬉しそうに笑う。
「おお! 二人とも! 偶然だな! 一緒に宝石を見ようではないか!」
(よし……セリフ、第一段階成功!)
二人は心の中でロクシーの脚本を確認していた。
――『自然な流れで会話を続けろ。バレたら作戦失敗。』
リオがぎこちなく手を伸ばし、近くのショーケースを指す。
「アンジュ、君に似合うのは……このネックレス、かな!」
「うむ! 見事な選択だ、リオ!」
「そ、そうかな!? はははっ!!」
(……セリフ通り言えた! よし俺えらい!!)
アーチボルトも負けじと続く。
「アンジュちゃん! 明日は合同でクリスマスパーティなどどうじゃろう?
リオとわしとで準備しておるのだ!」
「合同パーティ!? なんと華やかだな! 楽しそうだ!」
(……ふう、言えた……よし、ロクシーの指示通り……!)
二人が台詞を終えた瞬間――
ルシアンの背後の空気が、静かに変わった。
そのヘイゼルグリーンの瞳がわずかに揺らぐ。
無表情の奥に、確かな熱が宿る。
「……合同パーティ、ですか。」
低い声。
その一言に、ロクシーのタブレットを見ていたルチアーノが思わず叫ぶ。
「来たッ!!来た来た来たーーーッ!!!
ルシアンのジェラシー発動ォォォ!!!」
ロクシーがマイク越しに低く呟く。
「――午前の部、完遂。午後の部、効果確認完了。」
ルチアーノが震える声で返す。
「で、ででで……次は!? 夜の部は!?」
ロクシーがタブレットを掲げ、にやりと笑った。
「決まってるでしょ。
押したら引く! 夜は引き離す!
――“恋の終着点”は、明日!
セレニス・ベイのクリスマス・イブの夜会よ。」
セレニス・ベイ署――夜。
窓の外では、街のイルミネーションが波のように輝いていた。
ベックのデスクには、ナディアが差し入れたジンジャークッキーと、マシュマロ入りのココアが置かれている。
「ナディア、いつも差し入れありがとうございます!」
ベックが朗らかに笑うと、ナディアの頬がほんのり染まる。
――この笑顔、何度見ても眩しい……!
彼の笑顔と揺れる巨大だけで、私の研究データの九割は吹き飛ぶわ……!!
「ふふ……こちらこそ。ハロルドにはいつもお世話になっていますもの」
ナディアは優雅に微笑み、そっとスカートの裾を整えた。
数秒の沈黙。
そして――ナディアの瞳が、ふと真剣に光を帯びる。
「……ねえ、ハロルド」
ベックが顔を上げる。
「はい?」
「今度のクリスマス・イブの予定なんですけど…実は内輪でパーティを開こうと思ってますの?
来て下さる?」
「あ!はい!是非にッ!」
即答。ほぼ反射的だった。
ナディアは微笑んで頷く。
「そう……良かったわ。実は、少し変わったパーティでして。
研究者たちと関係者限定の“仮装クリスマスパーティ”。」
「か、仮装……ですか!?」
ベックの顔がぱっと赤くなる。
「ええ。
それぞれが“自分の理想を象徴する衣装”を身に着けて参加するの。
私は……研究者として、“知識と美の融合”をテーマにした衣装を考えているの」
「素晴らしい……!」
ベックの瞳が純粋に輝く。
「ナディアなら、絶対に誰よりも似合いますよ!」
――今よ、ナディア・ウォーカー。ここが勝負時!
「では……ハロルド。あなたも一緒にどうかしら?
あなたには“正義と勇気の象徴”の衣装が似合うと思うの。たとえば……聖騎士とか……ジョン・ゲイシーのピエロとか……」
ベックがビシッと姿勢を正した。
「ぜひ、参加させてください! 全力でピエロになります!!
……あれ?違いました?」
ナディアが上品に微笑みながら、「正解ですわ!」と言い切る。
そして、心の中で小さくガッツポーズを取った。
――もう……!!ハロルド分かってるーーー!!
そこでピエロを選んでくれるって……奇跡よ❤️
よし、第一段階成功。
あとは、私の“女神仮装”で彼の心を完全に落とすだけ……!
夜のセレニスに、
恋と科学、そして少しの策略が静かに交錯していた。
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