~ニック編~
~定期会議の前日~
午前の事。定期会議を控えてるのもあって、ジェシカは鬼のようなスピードで業務を終わらせた結果、午後までかかる仕事が予定よりも早く終わったため双子神殿に来ていた
あとは、ちょおーっと話したいこともあるしね?
「こんにちは、ニック。たまにはお茶でもしない?」
「やあ、ジェシカ。良いねぇ〜、どうせならお土産を持っていくよ」
ひょこっと神殿に入るジェシカを出迎えたのはひらひらと手を振る男
双子座の星見のニック。元は一般家庭の子どもで神殿に引き取られて育った自分と違ってニックは生まれも育ちも神殿だという良血の人間だ。
ジェシカの方が実年齢も星見歴も上だが、歳が近いのとお互いの神殿を行き来しては交流してきた幼馴染で同僚。
……口を開けばうるさく規律だの義務だの言っては、1部の星見から疎まれてたり良い感情を抱かれてない頭の硬い自分と、どんな時も楽しげに笑って、自由に振舞っていて器用に他の星見とも良い関係を築いて交流出来てる貴方。普段は不真面目なのに、エクリプシアの文化的発展にも貢献しているほど優秀な星見だ。
自分とは全然違う正反対の貴方。
ーー私、本当はずっと貴方を羨ましいって思ってたの
私にはない部分がいっぱいあったから惹かれたのよ
まあ、そんな事絶対本人には言いませんけど。
だって、言えるわけないじゃないですか
メアリーさんはああ言ったけど、幼馴染だからこそこんな事言えるわけわけないじゃないですか
人間は難しい生き物なんです!
いや、そんな事よりも私はお茶をしながらお喋りがてらニックが仕事をしてるのか、を確かめにきただけですから!
「あら、ありがとう。またサボって遊んでるかと思いましたわ?」
そう言ってニックと向かい合わせで椅子に腰掛ける
「いやいや!サボってるなんてとんでもない!
今週はサッカーE1リーグの大事な試合と、競馬もEcN1ポルックス賞の来賓に行っていただけで……ゴニョゴニョ」」
………………。ふん、知ってるわよ。こちとら昨日全部メアリーさんから聞いてるんだからね。
「………………あら、大変楽しんだようで」
ジェシカはめちゃくちゃ冷めた表情とジト目(¬_¬ )でニックを見る
「……….…ごめんて!」
それを見たニックは慌てて謝る。
そして気まずそうに黙ってしまったので、ジェシカから話題を切り出した。
「私昨日から一人一人に挨拶がてら差し入れを渡しにお邪魔してるんですよねぇ。昨日はメアリーさん ソフィア先生 ローラにクリスさんと今日はアンナとサンドラさんとクリスさんに挨拶してきましたの」
へぇーという顔をするニック
「私は人間の星見の中では最年長ですから。義務というものです。あと好奇心」
「あはは……まあ、交友関係が広がることは良いことだと思うよ〜?」
ニックは穏やかに楽しげに笑っている
私も貴方みたいな人間ならエマやクリスとも仲良く出来たのでしょうか。
でも、
「クリスには全く、優しさと礼儀が足りないようなので今夜またお邪魔しに行く予定ですが」
「うんうん、まあほどほどにね〜?」
んもう、呑気なんだから。
お茶を啜りながら
「クリスさんには差し入れがお金じゃないから去ってくれと危うく追い出されるとこでしたよ?」
「へえ〜?こっそりお金を差し入れたらただの賄賂だよね〜、ちゃんとしたルートで振り込まないと。」
そういう問題……?
「ああ、それはありませんよ。私が賄賂をするとでも?貴方じゃあるまいし。お話をまだしてないのに帰れだなんてと言ったら、渋々受け取ってくれましたよ?」
「俺だって賄賂はしてないよ?!マリアンヌやソフィアへの支援は正当な手続き踏んでるし!まあ、受け取ってもらえたなら良かったんじゃない?」
ふーん、まあソフィア先生もニックはスポンサーとしてはちゃんとしてるって言ってましたしね。
さて本題に入りましょうか。罰を与えないと
「へぇそれは良かったわ。昨夜メアリーさんから聞きましたよ?」
「大変楽しい場所に連れて行ってもらっている、とね。ねぇ?( ͡ ͜ ͡ )」
自分でも驚くくらい冷めた低い声。口は笑っているが、目は全く笑ってない
そんなジェシカを見たニックはしもろもどろと
「…………あはは…………いや、ねえ?他の星見たちも巻き込んでいった方が、より豊かな国になるかな〜ってね……」
ジェシカの冷めた表情は一切変わらない。
「「スリリングで楽しい時間であった」とね。ま っ た く も う ♡」
頬杖をついてニックを見る。もちろんだが、その目は全く笑ってない
「…………すみませんでした…………でも一緒に競馬を見ただけで別にそれ以上のやましいことはしてないんだ、本当に…………」
はぁ???
「あら、やましい事があったかまでは聞いてないのだけどぉ?へー?ふーん?」
ジェシカの表情は一向に冷たくなっていくだけだった
ニックもそれに気付いたのか、慌てて
「流石に星見とそういう事にはならないよ!そこは信じて!それはそうと、今週はあとは大人しくしてます…………」
ふーん、それなら良いわ。でも罰は与えないといけませんね。仕事そっちのけで遊びに行くなんて言語道断。しかもメアリーさんと「2人きりで」で行ったなんて。
気に入りません。
「そうですかぁ?正座3時間コースと書類仕事一日中コースと、説教2時間コース。どのコースに致しますか?ニック」
えっ、と戸惑うニック
「ああ、拒否権はありません。私も慈悲があるので選択肢くらいは与えてあげますよ?我ながら結構譲歩してるの、優しいと思います」
問答無用に罰を課さないだけマシだと思ってほしい
わざわざ選択肢を与えてるんですから。
「………書類仕事1日中コースをひとつ…………」
ふーん。さり気にマシな罰を選びやがりましたね
ますます気に入らない
この怒りにも似た激情は止まらなかった。
「あら、我ながら甘かったかしら。どうせなら2週間娯楽一切禁止のが良かったかしら」
だって、そうしたら他の女と遊んだりメアリーさんと2人きりで出かける機会も減るんだもん。
それを聞いてニックは青ざめて
「それは嫌だ!!!!」と叫ぶ。
はぁ……全く貴方は。本当に娯楽好きでどうしようもない人ですね。
「……あんまりメアリーさんと2人きりでお出かけは控えてよね」
気付けば思った事を口走ってしまった
「……………」
ニックは少し驚いていたような顔だった
あ、私何を言ってるんでしょう
「あ、えっと、星見2人が遊び回ってるなんて体面が良くないからです!そう!体面です!体面!他の星見にも示しつきませんし!」
私、何を慌てて言い訳してるんだろう
「…………あー…………うん。善処するよ。そうだよね、男女だし…………」
「そうです!貴方の体面はどうでもいいですが、メアリーさんが可哀想なので!貴方に今更守る体面とかありませんし?まあ、別にたまに遊びに行くのは構いませんよ。頻繁には控えなさいって話です」
そう!そういう事です!そういう意味です!ハイ!
「そうだね、うん、向こうの神殿に怒られるのも嫌だからね!」
メアリーさんを女神の如く崇めてる信者もいるしね!納得すればいいわ。
「わかればよろしい♡あ、でも書類仕事一日中コースは変わりませんので悪しからず。幼馴染といえど例外はありませんので。」
秩序とは時に問答無用。ジェシカは幼馴染だからと言って、優遇することは絶対無い。
あくまで公正公平にやる。規律を乱すなら平等に容赦なく罰を与えましょう
「あああああ」と絶望するニック
「残念ですね( ͡ ͜ ͡ )」と笑う私。
絶望するニックを見てジェシカはやっと上機嫌になった。ふん、いい気味です。メアリーさんと頻繁に2人きりで遊ぶほうが悪いんですから
それはそうと。
「……誰かが厳しくしないと秩序が乱れます。厳しい私を良くは思わない星見もいるでしょう。全て承知の上です。12星座、反りが合わない星見も、仲が良い星見も私にとっては星見とはみんな家族です。なので秩序を維持するために鬼になりましょう」
ニックは黙り込む
「というわけで書類仕事頑張ってください。頑張れ、頑張れ♡」
ジェシカは対照的にニコニコ笑い、書類を200枚くらいの束をドカッと置く
「ひぃ〜!」
書類を見て頭を抱えるニック
ふん、本当にいい気味です!反省したらいいわ。
「明日は書類仕事でげっそりしたニックが見られそうですね。大変楽しみです♡」
「楽しみにしていてください……」
項垂れるニックであった
ええ、本当に楽しみにしていますわ。ようやく私の気が晴れたし。
「はいもちろん♡あ、逃げようとしたらどうなるかわかっていますよね?ニック」
と目を光らせてニックを見る
「逃げないよ〜!」
まあもし逃げたら、その時は2週間娯楽禁止にすればいいだけだし、大丈夫でしょう
うふふと内心笑うジェシカ
「よろしい( ᷇ᵕ ᷆ )明日を楽しみにしていますね♪困るニックを見れて大変満足したのでお暇します♡ではまた明日会いましょうニック」
「……うん、また明日。」
そう言って双子座神殿を出てきたジェシカは後悔する。
はー……ダメですね、こんなの仕事よりも難しいです。無理ですよ、ニックが私の事を本当はどう思っているのか、なんて。
気になるけど、そんな事本人に聞けませんよ……。
それを誤魔化すようにいつものように業務だの遊びだのを咎めて罰を与えただけだった。
はぁ とジェシカは溜息を吐く
いつも優しく話を聞いてくれるし、毎回罰を与えてもちゃんと聞いてはしばらく大人しくしてくれる。
だけど上手く言えないが、壁?距離感?を感じる
流石にメアリーさんにはしてないだろうけど、おそらく女遊びだろう。ニックが女を連れて歩いてるのを見てしまった事がある
女にベタベタ触ってはヘラヘラ笑っていたのに
なんとなく自分には妙によそよそしいのだ。
例えば私の手が触れそうになると慌てて引っ込んで困ったように笑っていて、極力私に指1本触れないようにさえしてるように見える。
私達、幼馴染で仲良くしてきたのに。
ニック、私に指1本さえ触れるのが嫌なほど
貴方は私の事が、嫌いなのですか……?
ニックは、本当は私の事はどう思ってるのかな……?
そんな事を考えながら寝台で横になりながら
明日の定期会議が終わったら、少し2人だけで話せる時間とか作りたいなとか思って眠りについた
———————でも、その明日が貴方と永遠に別れる日になるなんて。
その時の私は夢にも、思っていませんでした——-……
まあ、ジェシカ処刑の日のニックとのやり方を改めて見るとまた違うように見えるかも?