第7話 初討伐は、普通のスライム⁈
毎週金曜で更新の予定です。少しゆっくりにはなりますが、よろしくお願いします!
未熟な点も多く、文章や設定に至らないところがあるかもしれませんが、温かい目で見守っていただけると幸いです。
「リオ、緊張してるのか?
顔色が……スライムみたいになってるぞ」
軽口を叩くダリルの声が、薄暗い通路に響いた。
リオは引きつった笑みを浮かべる。
「だ、大丈夫です……たぶん」
王都周辺は“安全地帯”と呼ばれ、ほとんどモンスターが出ない。
リオは今まで、一度も本物のモンスターを見たことがなかった。
これまでは薬草採取や、王都内での荷物運びや雑用ばかり。
戦闘経験はゼロに等しい。
そんなリオが――
Fランク昇格と同時に、ギルド規則に従ってBランク剣士・ダリルと初めてのダンジョンに挑むことになった。
地下一階の空気は、ひんやりと湿っている。
壁面を水滴が伝い落ち、足元では水たまりが光る。
自然と歩幅は小さくなっていた。
「最初に出るのは、大体スライムだ。安心しろ。
俺の初ダンジョンも、そうだった」
「スライムって……そんなに弱いんですか?」
「ああ。初心者でも倒せるくらいだ。
とにかく慌てず、落ち着いてやればいい」
暗い通路を奥へ進むと――
ぷるぷると震える、透き通った塊が姿を現した。
「あれが……スライム?」
「ああ、そうだ。
よし、記念すべき初モンスターだ。やってみな」
リオはごくりと唾を飲み込み、一歩踏み出した。
――だが次の瞬間。
そのスライムが、信じられない速さで左右に跳ね回り始めた。
(え……これがスライム?
めちゃくちゃ速い……!)
リオはそう思い込み、慌てて棒を握りしめる。
一方、ダリルの眉間にしわが寄った。
(あれは……クイックスライム!?
Bランクの俺でも、ソロでは手こずるレア種だぞ……
なんでこんな所に……)
クイックスライムが鋭い跳躍で、一直線にリオへと迫る。
頬をかすめ、細い切り傷が走った。
スライム特有の、ぬるりとした冷たい体液が肌に残る。
(……冷たい……!)
反射的に頬へ手を当てると、指先に血と、ドロリとした粘つくヌメリが付着していた。
瞬間――
頭の奥で、「ピコン!」という澄んだ音が響く。
《鑑定スキルがレベル2になりました》
《新スキル:行動予知》
視界の端に、淡い光の線がふわりと浮かんだ。
それは、クイックスライムの“次の動き”をなぞる軌跡。
未来の残像が、目の前に描かれたかのような感覚だった。
(……これは!? 光の線が……見える!?)
無意識のまま、リオはその光の軌道を追い、
線が自分のそばを通る瞬間を狙って棒を差し出す。
すると、クイックスライムは自ら突っ込み、
水風船のように弾け飛んだ。
床には小さな魔石が転がった。
「……や、やった……倒せた……!」
胸に手を当てながら、リオは大きく息を吐く。
リオはきょろきょろとあたりを見回す。
「……そういえば、さっき何か音がしませんでした?」
頭の中で鳴った“鑑定スキルの通知音”を、誰かの声と勘違いしていた。
「ん? 俺は何も聞いてないな。
……腹の虫じゃないか?」
「そ、そうですか……」
リオは照れくさそうに視線を逸らす。
ダリルは笑ってごまかすが、内心は焦っていた。
(こいつ……ソロでクイックスライムを倒した!? 本当に新人なのか?
あの動きを見切るのは、熟練者でも――オレでも難しいぞ!?)
こうして――
モンスターを見たことすらなかった元雑用の少年は、
“スライムって素早いのが普通”という勘違いを抱いたまま、
初ダンジョンでレアモンスターを討伐。
誰にも知られぬうちに、スキル成長の第一歩を踏み出していた。