第4話 妄想から真実へ
未熟な点も多く、文章や設定に至らないところがあるかもしれませんが、温かい目で見守っていただけると幸いです。
拙い作品ではありますが、登場人物たちの成長や物語の世界を楽しんでいただけたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
「俺は……俺は本当に知らなかったんだ!」
ダリルの声は掠れ、食堂に低く響いた。
その肩は小さくすぼまり、普段の陽気さもベテラン冒険者としての威厳も、今はすっかり消えている。
厳しい視線が突き刺さる中、こみ上げる苦悶と悔しさが、そのまま彼の真実を物語る。
エミリアがゆっくりと歩み寄った。
やさしく膝をつき、目線を合わせ、静かな声で問いかける。
「落ち着いてください、ダリルさん」
「どうして毒薬を預かったのか――詳しく話してもらえますか?」
ダリルは言葉に詰まりながらも答える。
「……リズって子に頼まれたんだ」
かすれ声が場の空気を緊張させる。
冒険者たちの息づかいも静まり返る。
「バルドさんが辛いもの好きだって、リズも知っててさ。『これ、特製の激辛スパイスなんです。バルドさんにサプライズで少しかけてあげてください!』って明るく笑いながら……頼んできたんだ」
「たまに俺の家にも来てて、子どもの面倒もよく見てくれてた。明るくて、優しくて……俺の子どもも懐いてたし、疑いなんて全然しなかった……」
震える声で唇を噛み締めて、重い沈黙が食堂を包む。
エミリアは確認するように言葉を重ねる。
「つまり……ダリルさんは、バルドさんのために、リズさんから頼まれた『激辛スパイス』を使っただけだったんですね」
「……そうだ」
ダリルは目を閉じて、深く息を吸い込む。
肩の震えは止まっていない。
(妄想が……現実になった⁈)
(でも……信じていた人に裏切られるって、こんなに苦しいんだ……)
リオはそう思った瞬間、胸がきゅっと締め付けられた。
ダリルの悔しさも、情けなさも――まるで自分のことのように痛かった。
「まだ捕まえていないのか!?」
「絶対に逃がすな!」
誰かの怒鳴り声を合図に、冒険者たちが次々と立ち上がり、裏口へ殺到した。
食堂は足音と怒号で騒然となった。
その騒ぎの中で、エミリアはリオのそばに戻り、声を落として静かに囁いた。
「……ありがとう、リオさん」
「え……?」
リオは驚いて目を見開く。
「あなたの“妄想”がなければ、私はここまで辿り着けなかった。あなたが勇気を出してくれたおかげです」
エミリアの瞳はまっすぐで、迷いがなかった。
その優しい真剣さが、リオの心をじんわりと温めていく。
(……本当に、僕の“鑑定スキル”が、誰かの役に立ったんだ……)
怖くて、恥ずかしくて、ずっと言えなかったこと。
今、その全てが確かな意味を持った。
胸の中で、小さな火がふわりと灯った気がする。
「……よかった……」
リオの口から、小さな安堵の声が漏れる。
ほんの少しだけ、体の震えが収まったような気がした。
やがて、奥の通路から大きな声が上がる。
「確保したぞ! こいつがリズだ!」
黒髪の少女が、数人の冒険者に両腕を押さえられて連行されてくる。
その顔は、悔しさと諦めが入り混じったような歪んだ表情で固まったままだった。
「荷物を調べろ!」
別の冒険者がリズの肩掛け袋を荒々しく開ける。
中から毒薬の瓶がひとつ、カランと音を立てて転がり落ちる。
「……真犯人は、やはり……あなたでしたね」
エミリアの声は静かだが、決して揺るがない。
リズは悔しげに顔を歪めた。
「……どうして……どうして、バレたの……?」
「ギルドには――誰よりも鋭い“目”を持つ受付嬢がいるんです」
エミリアは言い終えると、リオにそっと微笑みかける。
その優しさに、リオの胸が強く熱くなった。
(……僕でも……! 誰かを守れるんだ……!)
ダリルは、冒険者たちに支えられながらも、震える声で必死に感謝の言
葉を伝えていた。
事件は静かに幕を下ろした。
けれど、リオの胸の奥には新しい確信が芽生えていた。
ギルドを包んだ緊張と安堵の余韻。
その静けさは、これから始まる新しい物語の“はじまりの灯”だった。