表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/39

第30.2話 王女セシリア視点――母の偉業、兄の焦燥

【金曜更新】

本日もご愛読ありがとうございます!


もし少しでも楽しんでいただけましたら、いいねボタンでの応援をよろしくお願いします!

今後の展開にご期待ください!

母、王妃セリーヌが世を去ってから、

まだ一年も経っていない。


それでも王都は、

まるで十年分の衰えを一気に背負ったかのようだった。


結界の光は鈍く、

街の空気には、言葉にできない不安が沈殿している。


――すべては、母が亡くなったから……。

そう思わずには、いられなかった。


セシリアは、天蓋付きの寝台から身を起こそうとして――。

胸の奥を締めつける痛みに、息を呑んだ。


(……また、起きられない)


呪いを受けてから、もう数ヶ月。

十三歳の体は、日に日に自由を奪われていく。


本来なら、十四の誕生日に《星辰儀式》を受け、母と同じ“聖女”として覚醒するはずだった。

それなのに――


(王国を護っていたお母様に比べて……

私は、ただ守られているだけ)


自分の非力さが、情けなくて。

国民を護れない無力さが、悔しくて。


そのときだった。


――バンッ!


ノックもなく、乱暴に扉が開かれる。


「……兄様?」


立っていたのは、アルフォンス王子だった。


険しい表情。

苛立ちを、隠そうともしない瞳。


「まだ、寝ているのか!?」


責めるような声に、

セシリアは、わずかに眉をひそめる。


「……申し訳ありません。起きられません。

呪いが、まだ――」


「わかっている!」


アルフォンスは、短く言葉を遮った。

そして、もどかしさを吐き出すように、低く独り言を漏らす。


「……こんなはずじゃなかった」


その言葉に、胸がざわつく。


「《守誓者》だと?

あんな少年が……」


視線が、セシリアから逸れる。

まるで、“想定外”のトラブルが起きたかのように。


(――兄様は、なぜあんなに苛立っているのかしら……?)


セシリアは、まだ知らない。


《王都守護結界》の“カギ”が、

すでに奪われていることを。


結界が、すでに危うい均衡の上にあり、

母の残した魔力だけで、辛うじて保たれていることを。


その“猶予”が、

刻一刻と削られていることを。


アルフォンスは、視線を逸らしたまま言葉を継いだ。


「もし結界が弱まれば、だ」


静かだが――

まるで、それを望んでいるかのような声だった。


「もし結界が弱まれば、

軍を率い、剣を振るえる俺の方が必要とされる」


その声には――。

焦りと、歪んだ期待が混じっていた。


「聖女が不在でも、王国は回る。

……いや、回さなければならないんだ」


冷たい痛みが、

セシリアの胸を貫く。


「……それが、兄様の本音ですか」


アルフォンスは、

はっとしたように口を閉ざす。


「私は……守られるだけの存在ですか?

お母様のように、国を護る資格は……

私には、ないと?」


「セシリア……違う」


だが、その否定は弱い。


「母上は……国民のために死んだ。

自分の命を削ってまで……」


絞り出すような言葉。


「だから、俺は……

同じ道を、お前に歩ませたくない」


――守るつもりで、閉じ込めている。


その事実に、

アルフォンス自身が気づいていないことが、

何よりも残酷だった。


「……私は」


セシリアは、

布団の上で拳を握る。


「守られることが、こんなにも屈辱だなんて……。

お母様が亡くなるまで、知りませんでした」


沈黙。


アルフォンスは何も言えず、

視線を伏せる。


そのとき――。


控えめなノックとともに、

王宮魔術師長リュシアナが入室した。


「とにかく、お前は休んでいろ!」


アルフォンスはそれだけ言い残し、

彼女には目もくれず、

逃げるように部屋を後にする。


――残されたリュシアナは、

呪いに蝕まれたセシリアの姿を、

静かに見つめていた。


痛みに耐える細い身体。

浅く、乱れた呼吸――。


リュシアナは、

そっと視線を伏せる。


「本当に……」


小さく、吐息をこぼした。


「自分を犠牲にして、

まわりを護ろうとするところまで……

あなたは、セリーヌと同じね」


その名を呼ぶ声には、

懐かしさと、悔しさが滲んでいた。


ハーフエルフであるリュシアナは、

見た目こそ変わらない。


だが、王妃セリーヌがまだ幼かった頃から――。

魔法を教え、

剣よりも重い“覚悟”を教え、

共に王国を支えてきた、師であり、盟友だった。


「……だからこそ」


リュシアナは、

ゆっくりと目を細める。


「その身を削る選択を、

誰かに決めさせてはいけないわ。


――あなた自身が、選ぶの」


セシリアの小さな拳が、

布団の上で、ぎゅっと握られる。


(……私は)


母が遺したものを。

母が選び続けた、あの背中を。


この身が壊れようとも――

受け継がなければならない。


《星辰儀式》は、

ただの儀式でも、

呪いを解くためだけのものでもない。


それは、

王妃セリーヌが遺した“覚悟”を――。

次の世代へと繋ぐための、試練。


王国の未来を問う、

厳しく、そして逃げ場のない選択。


極限の状態は、

誰が味方で、誰が敵かを暴き出すための――。

残酷な舞台装置でもあった。


「……材料は、揃ったわ」


リュシアナは、

不意に口元を、わずかに歪める。


「《守誓者》も……

“器”も」


その声は、低く、愉しげで。


「これで――

裏切り者を、炙り出せるわね……フフッ」


不謹慎な、含み笑い。


(……あえて、聞こえなかったことにしよう)


セシリアは、

そっと目を閉じた。


それが、

この王宮で生き延びるための――。

彼女なりの、ささやかな選択だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ