第28話 ようこそ王宮へ――模擬戦から始めます
【金曜更新】
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『光の絆』の面々は、ギルド長バルドとともに王宮へ向かう馬車に揺られていた。
窓から見上げる白亜の城壁は、まるで天空を支える柱のようにそびえ立っている。
それを見上げていたのはリオとミナ。
「うわぁ……本当に大きいんだね、王宮って……」
ミナが感嘆の声をもらす。
「キュルルル」
ルーナがふわりと宙を舞い、楽しそうにくるりと一回転する。
リオは思わず息を呑み、緊張した面持ちで、
「これからあそこに入るのか……」
「緊張しなくていいよ」
落ち着いた声音で言ったのは、ギルドに依頼を出すために使者として来ていた、王国騎士団の副騎士団長――若きエース、アレク・ヴァレンティス。
「国王様は、きっと君たちに感謝するからね」
端正な顔立ちに鋭い眼差しを持つ、王都でも名の知れた、将来を嘱望される騎士。
「……意外」
リズが、ぽつりと口を開いた。
「馬車なのに、お尻が痛くならない……」
一同がきょとんとしたのち、笑い声が広がる。
張り詰めた空気が少しだけ和らぐ。
やがて馬車は正門をくぐり、広大な庭園を抜け、王宮の正面玄関へと到着した。
事前に伝えが入っていたため、アレクはそのまま一行を玉座の間へと導く。
♢♦︎♢♦︎♢
荘厳な玉座の間。
国王アルベルトが威厳をたたえて玉座に座し、その傍らには、左右で色の異なるオッドアイを持つハーフエルフの魔術師長リュシアナと、分厚い鎧の隙間から、筋骨隆々の体躯と無数の古傷をのぞかせる騎士団長ガレスが控えている。
周囲には、十名ほどの重臣や貴族が居並んでいる
「そなた達が……我が娘セシリアを救う薬の素材を持ち帰った冒険者たちか?」
低く、重みのある国王の声が響く。
リオは戸惑いながらも一歩進み出て、両手でミノタウロスの魔心臓を差し出す。
「はい……王女様を助けられると聞いて……」
魔術師長リュシアナが、思わず目を見開いた。
「……間違いありません。“ミノタウロスの魔心臓”です。
首を一刀で断たねば得られぬ代物――Aランクでさえ、容易には手にできないというのに……。
これがあれば、解呪薬の調合が可能です」
一瞬、安堵が広がる――が、彼女はすぐに表情を引き締めた。
「ですが、王女殿下の呪いを解く《星辰儀式》には――
《守誓者》の立ち会いが不可欠です」
静かで、しかし重い言葉。
「王国の守護を担うに足る実力を持つ者でなければ、儀式は成立しません。
その場合――儀式は失敗に終わり、この貴重な素材を用いても、王女殿下の命を救うことはできないでしょう」
その言葉に、列席者の間をざわめきが走る。
「守誓者……?」
「その資格を持つ者など、今この場にいるのか……」
重苦しい声が交錯し、玉座の間の空気が、さらに張り詰めていく。
――その沈黙を破ったのは、アルフォンス王子だった。
まだ少年の面影を残す横顔に、意を決したような硬さが宿る。
「父上。諸卿」
一拍置いて、王子は言葉を選ぶように続けた。
「彼らの功績が大きいことは、疑いようもありません。
しかし――王女を託すに足る《守誓者》かどうかは、慎重に見極めるべきでしょう」
その言葉に、場がわずかに揺れる。
王子の瞳の奥には、幼い頃から妹と比べられ続けた焦りと、この場で自らの存在を示さねばならぬという渇望が、静かに燃えていた。
「……ゆえに、私は提案いたします」
アルフォンスは一歩前に出て、声を張る。
「彼らと、王宮騎士団の精鋭との模擬戦を。
その力を、この場で示してもらいたい」
一拍置き、王子は言い切った。
「試合を通してこそ――彼らが《守誓者》たりえるか。
この場に集うすべての者が、納得できるはずです」
玉座の間に、再びざわめきが走る。
一見すれば公平な提案。
だがその奥には、若き王子の焦りと、王国の威信を誇示せんとする思惑が、確かににじんでいた。
光の絆の仲間たちが、思わず顔を見合わせると――その中心で、リオが視線を泳がせている。
「えっ……お、王宮騎士団と模擬戦……?
そ、そんなの……聞いてないんだけど……」
思わず、胸の内が口をついて出る。
するとミナが、少し呆れたようにため息をついた。
「もう、お兄ちゃん。
ここまで来て、今さら何言ってるの?」
腕を組み、じっと見上げる。
「ミノタウロスの首を落としてきた人が、模擬戦くらいで動揺しないでよ」
かわいらしい顔から、物騒な言葉が飛び出す。
「い、いや……相手が王宮騎士団って聞いたら、普通は――」
そのとき。
ルーナがふわりと宙に浮かび、くるりと一回転した。
「キュルルル♪」
楽しげに回りながら、リオの目の前まで飛んできて、ぴたりと静止する。
期待するように首を傾げ、小さな翼をぱたぱたと動かした。
「う……」
無言の圧に、リオが言葉を詰まらせる。
その横から、リズが淡々と口を挟む。
「……別に、無理なら断ればいい」
冷めた声音に、リオが一瞬そちらを見る。
「ただし」
リズは視線だけで貴族席を示した。
「素材は没収。
儀式は延期。
王女様の容体がどうなるかは……保証されない」
「それ、フォローのつもり……?」
「事実」
ミナが、ぽんとリオの背中を叩く。
「ほら、お兄ちゃん。
私たちも一緒なんだから」
ルーナはくるくると宙を回り、最後にリオの肩の上へ着地する。
「キュルルル!」
小さく胸を張るような仕草に、リオは思わず苦笑した。
「……もう、逃げ道ないよね」
一度息を整え、まっすぐ前を向く。
「……わかりました。全力で応えます」
その瞬間――
玉座の片隅で、ひとりの男が冷ややかな視線を向けていた。
細い指で顎を撫で、誰にも気づかれぬように浮かべた、わずかな笑み。
それは、嵐の前の微笑。
彼らがまだ知らぬ陰謀の気配が、静かに宮廷を覆い始めていた。




