第27話 偶然から始まる、王国の運命⁈
【金曜更新】
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ギルドでの慌ただしい日々を経て、パーティーとして初めてのダンジョン探索に挑むことになった、リオたち――光の絆。
目的は、地下十階に出現するボスモンスターの討伐。
ダンジョン内部は薄暗く、苔むした石壁から滴る水音が、静かな緊張を生み出している。
先頭を進むのはリズだった。
今回は特に――
彼女が持つ《斥候》と《暗殺》の技、そして彼女に託された“影の力”が試される探索でもある。
足音を完全に殺し、影と同化するように進むその姿は、年齢を忘れさせるほど洗練されていた。
罠の気配。
空気の揺らぎ。
微かな足音の反響。
そのすべてを、彼女は逃さない。
「……止まって。三歩先、床石に罠の反応がある」
低く、静かな声。
その一言で、全員が即座に足を止めた。
「リズ、すごいね……斥候って、こんなに頼りになるんだ」
ミナが小声で感嘆すると、リズは小さく首を振る。
「……集中して。敵が来る」
次の瞬間――
通路の奥から、ゴブリンの群れが姿を現した。
リズは迷わなかった。
「《パラライズ・ニードル》」
細い指先から放たれた数本の毒針が、正確に敵の急所を射抜く。
命中したゴブリンたちは一瞬で硬直し、そのまま音もなく崩れ落ちた。
「すごい!……頼りになるね、リズ!」
ルーナも「ギュルルッ!」と嬉しそうに鳴く。
だが、その様子を後方から見ていたリオが、どこか寂しそうに視線を逸らした。
「……また、僕の出番が減ってる気がするな」
ミナが、リオの肩をぽんと叩く。
「お兄ちゃんがいるから、みんな安心して動けるんだよ。
指示があるって、それだけで全然違うもん」
「確かに……リオが全体を見てくれるから、私は前に出られる。
それ、すごく大事」
リズも、一瞬だけリオの方を見てから、視線を戻す。
リオは照れくさそうに笑い、静かに頷いた。
「……ありがとう。みんな、頼りにしてる」
こうして光の絆は、互いの役割を確かめながら、着実に階層を下っていった。
♢♦︎♢♦︎♢
地下十階。
分厚い金属扉の前で、全員が足を止める。
扉の向こうから、重く低いうなり声が響いていた。
「……強いのが一体」
リズの声に、全員が武器を構える。
リオは深く息を吸い、静かに告げた。
「行こう。
――光の絆の初陣だ」
ギィ……と重い音を立て、扉が開く。
そこに立っていたのは、赤黒い毛並みと隆々たる筋肉を誇る、2メートル以上の巨躯。
鋭く伸びた双角を持つ魔獣――ミノタウロス。
「ヴォオオオオオオオッ!!」
咆哮とともに、空気そのものが震えた。
「リズ、動きを止めて!」
リオの指示に、リズが即座に毒針を放つ。
だが――硬い皮膚に弾かれる。
「硬い……!」
次の瞬間、ミノタウロスが突進して来る。
「ミナ、頼む!」
「《プロテクト》!」
展開された防御障壁に、重い拳が叩きつけられ、床がひび割れる。
「リズ、お願い!」
「《ブラインドダート》!」
視界を奪われたミノタウロスは、怒り狂い、無差別に暴れ始めた。
「ルーナ、風で体勢を崩して!
ミナ、《フィジカルブースト》!」
「キュルルル!」
「《フィジカルブースト》!」
その瞬間、リオの身体が一気に軽くなる。
「――今だ、リズ。
影を狙って!」
(父さん……力を貸して)
リズの影が、地面に伸びる。
そこから現れたのは、黒き剣影。
「影剣術――《影縫い》」
影がミノタウロスの足元に突き刺さり、巨体が完全に停止した。
「――決めるよ!」
リオが跳ぶ。
蒼白い閃光をまとった剣――“フェンリルブレード”。
一閃。
「ヴォオオオ……!!」
巨体が崩れ落ち、ダンジョンに静寂が戻った。
「……倒した、んだよね?」
ミナの呟きに、リオは静かに頷く。
「うん。
みんなで、ね」
「ギュルルル!」
信じられないように呟くリズ。
「……ミノタウロスって、普通ならAランクパーティーでも苦戦するのに……」
♢♦︎♢♦︎♢
ダンジョン攻略を終えたリオたち――光の絆は、ギルドへと戻ってきた。
カウンターで事務作業をしていたエミリアが、気配に気づいて顔を上げる。
「おかえりなさい。今日は随分と遅かったですね?」
「地下十階のボス部屋まで行ってきたんです。ミノタウロス、倒しました!」
少し誇らしげに答える、リオ。
「ドロップ品、出すね!――《マジックボックス・オープン》」
ミナの手から光とともに現れたのは、巨大な双角と、赤黒く脈打つように輝く“魔心臓”。
「……これは……“ミノタウロスの魔心臓”!?」
エミリアの目が大きく見開かれる。
「角のドロップは珍しくありませんけど……魔心臓なんて、めったに出ませんよ!?」
そのとき――
ギルド奥の重い扉が、軋む音を立てて開いた。
姿を現したのは、支部長バルド。
その隣には、王宮の使者と思われる、品格を備えた男が立っている。
二人は、カウンターの上に置かれた魔心臓を見て、同時に息を呑んだ。
「……お前たち、いま……どこから戻って来たんだ?」
バルドの声音が、目に見えて険しくなる。
「地下十階です! ボスのミノタウロスを倒してきました!」
ミナが元気よく答えると、王宮の使者が思わず声を上げる。
「本当に!?
あのミノタウロスを討伐したというのか!?」
数秒の沈黙の後、バルドは額に手を当て、低く唸るように言った。
「……おいおい、このタイミングでか……
――実は王宮から、“ミノタウロスの魔心臓”を至急確保せよ、という特級依頼が来てたんだ。
Aランクパーティーでも尻込みする、相当な難題なんだが……」
「えっ?
じゃあ、これって――めちゃくちゃ役に立つってこと!?」
首をかしげるミナに、バルドは声を潜める。
「“役に立つ”どころじゃない。
これは内密だが……“王女殿下”の命がかかってるんだ」
ギルド内に、ぴんと張りつめた緊張が走った。
「王女殿下の……命……?」
言葉を失うリオ。
エミリアがぽつりと呟く。
「まさか……リオくん。
また“予感”がしてたんじゃないですか?」
「ち、ちがいますって!
ほんとに偶然です! 多分……きっと……偶然です!」
慌てて手を振るリオ。
「お兄ちゃんの予感って、ほんと当たるからね!」
ミナが無邪気に笑い、ルーナも「キュルル♪」と楽しげに鳴いた。
その様子を見つめていた王宮の使者は、驚きと賞賛を隠さず口を開く。
「君たちが討伐したその“ミノタウロスの魔心臓”が、今、この王国にとって、何よりも必要なものだ。
もし、それがなければ――
王女殿下の命は、長くはもたないだろう」
バルドが短く頷いた。
「今すぐ王宮へ向かう。これは依頼じゃない――《緊急命令》だ。
拒否権はない。お前たちも、今から同行してもらう」
「えっ!?
僕らが、王宮に!? しかも、今から!?」
叫ぶリオの肩を、ミナが笑顔で叩いた。
「だいじょうぶ!
お兄ちゃんの“偶然”は、いつもみんなを救ってるもんね!」
ルーナも勢いよく「キュルルル!」と鳴く。
こうして――
偶然は運命へと姿を変え、
リオたち光の絆は、王国の命運を背負う旅へと踏み出す。
それは、ただの“ギルド依頼”だったはずの冒険が、
国家を揺るがす壮大な物語へと繋がる、確かな第一歩だった。




