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第3話 事実から妄想へ

未熟な点も多く、文章や設定に至らないところがあるかもしれませんが、温かい目で見守っていただけると幸いです。

拙い作品ではありますが、登場人物たちの成長や物語の世界を楽しんでいただけたら嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

リオが反射的に手を伸ばし、小瓶を拾い上げた――その瞬間。


再び、脳裏を閃光のような映像が駆け抜けた。


……厨房の奥。

木の棚が影を落とし、煮込み鍋から立ちのぼる熱気が空気を揺らす。


その中に、新人給仕の少女――リズが静かに立っていた。


肩にかかる黒髪は湯気を受け、しっとりと艶めいて輝く。


だが、柔らかな笑みを浮かべながら放たれる声は、氷の刃のように冷ややかだった。


『これ、バルドさんの好きな激辛スパイスなんです。こっそりスープに入れておいたら、きっと喜んでくれますよ! 私、ちょっと手が離せなくて……ダリルさん、お願いできますか?』


ダリルは、何の疑いもなく受け取った。


少し困ったように笑いながらも、自然に頷く。


だが――その中身は、本当は毒だった。


(……リズさんが……ダリルさんを、騙して……?)


“妄想”のように浮かぶ映像から、リオは目を逸らせなかった。


自分はただ小瓶を拾っただけ。

証拠なんてないし、誰も信じてくれないかもしれない。


(……でも……もしこれが“本当”だったら……!)

(黙っていられない。……もしこれで、真実が消えてしまったら……!)


小さな肩が、かすかに震えた。



「リオさん」


耳元で静かな声がした。


振り返ると、すぐそばにエミリアが立っていた。


いつもと変わらぬ優しい瞳で、真っ直ぐにリオを見つめてくる。


思わず言葉を飲み込んだが――彼女だけは、きっとわかってくれる。


「……もしかしたら……ですけど……」


リオは震える声を抑え、必死に言葉を紡ぐ。


「ダリルさんは……リズさんに騙されていただけかもしれません。毒薬を……渡されたんです。……本当に、ただの妄想かもしれません。でも……」


唇が乾く。


それでも、目は逸らさなかった。


「でも、これが“本当”なら……ダリルさんは、無実なんです」


エミリアの表情から一瞬、優しさが消え、真剣な光が宿る。


ゆっくり、小さく頷いた。


「……分かりました」


そして、全員に向き直り、張り詰めた食堂に響く声で告げる。


「皆さん、少しお待ちください!」


ざわめきがぴたりと止まる。


「ダリルさんが本当に犯人か、もう一度慎重に確認します。バルドさんが倒れる直前――ほかに怪しい動きをしていた者はいませんか?」


沈黙。


誰もが顔を見合わせ、言葉を失っていた。



その時――


「……おい、待てって……」


低くしわがれた声が響く。


ベンチに座ったまま、銀花草の煎じ薬でようやく意識を取り戻した――ギルド長バルドだった。


「ダリルが……そんなマヌケなことするかよ。あいつは昔から間抜け面でも、小さなところにはちゃんと気を配る男だ……」


深く息を吐き、続ける。


「……俺の胃袋は、そう簡単にはやられねぇ。……何か裏があるだろうよ」


ダリルは蒼ざめた顔で、小さく震えながら口を開いた。


「俺は……本当に知らなかったんだ。厨房で……“新人の給仕”に頼まれたんだよ。『バルドさんの好きな激辛スパイスだから、こっそりスープに入れておいたら絶対喜びますよ』って――あんな無邪気な顔で渡されて……」


「新人の給仕……?」


エミリアが眉をひそめ、手帳を取り出して名簿をめくる。


「“リズ”。本日付けで研修登録された新人……でも、記録一覧が……」


と、その時。


「おいっ! 裏口から誰かが走っていったぞ!」


裏の扉を指さし、冒険者の一人が叫んだ。


「黒髪の女だった! 制服はギルドの給仕服! 初めて見る顔だ!」


視線が一斉に裏口へと向かう。


「まさか……そいつが……!」

「……本当の犯人なのか……!?」


どよめきが広がる中、誰かがつぶやいた。


「ダリルさん、疑って……悪かった……」


ダリルは、ぐっと拳を握りしめ、視線を床に落とした。

「……俺は、ただ頼まれただけなんだ……」と、押し殺した声が漏れる。


バルドは荒く息を吐き、苦笑を浮かべた。


「まったく……これだから新人は信用ならねぇ。

……でも、お前らが気づかなかったら、今ごろ俺の胃袋は地獄行きだったかもな」


そう言って、ぎこちなく腕を上げ、リオとエミリアに親指を立てる。

ぶっきらぼうで、不器用な感謝の印だった。


リオの胸が熱くなる。


(……よかった……)

(怖かったけど……ちゃんと、“言えた”……)


足はまだ震えている。

でも――心は、前よりほんの少しだけ強くなった気がした。


(これが……僕だけの“鑑定スキル”……⁈)


胸に手を当て、速く打つ鼓動を感じながら、リオは前を見据えた。


疑念と安堵、そして新たな謎が入り混じるギルドの空気の中で――

少年の“鑑定スキル”は、新たな運命の扉を、静かに開こうとしていた。



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