第25.5話 バルドとエミリア視線 ― 受け継がれる力 ―
【金曜更新】
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ギルド内は、いまだ慌ただしさに包まれていた。
異端教《深紅の使徒》の壊滅から数日。王国騎士団との合同調査が続き、教団が残した痕跡の洗い出しは、いまだ終わりが見えない。
ギルド長室には夕焼けが差し込み、室内を赤く染めていた。
バルドはその光を背に受け、報告書を片手に受付嬢エミリアと向かい合っていた。
「……つまり、リズさんの母ミレイアさんの“救出”は、最初から彼女自身が仕組んだ“おとり作戦”だった、ということですか?」
エミリアの声には、驚きと信じがたい思いが滲んでいた。
「ああ。ミレイアは、セオドリックの遺した《魂転写術》の真の継承者がリズだと知っていた。
そして――娘を覚醒させるため、あえて危険に身を置いた。……あいつらしい、大胆な賭けだ」
バルドは深く息を吐いた。
「そして、その計画に私は見事に巻き込まれた。
……娘が、俺の暗殺をすることになる“暗殺予告”まで送りつけて、な」
「“暗殺予告”⁈ ……ミレイアさんが、ですか?」
エミリアは思わず目を見開いた。
「そうだ。教団に“鍵の発動条件は裏切り”と思い込ませるための芝居だ。
娘から渡された毒入りの食べ物を、私が“信じて食べる”必要があった……というわけだ」
バルドは肩をすくめる。
「完璧な演技だっただろ?
おかげで、教団側を完全に欺くことができた」
エミリアは額に手を当て、深いため息をついた。
「……解毒薬を用意していたとはいえ、あまりにも無茶です」
「まったくだ。だが――リオが助けたことで、流れが変わった。
リズを拘束し、処罰しなければならなくなり、あいつらも困っていたんだ」
バルドは窓の外へと視線を向ける。
その目は、かつての仲間たちを思い返すように、どこか優しかった。
「ミレイアは、昔からそうだ。
すべてを背負い込み、誰より先に動き、気づけば準備が終わっている……そんな奴だった」
エミリアは静かにうなずく。
「さすが――伝説の元S級パーティー《蒼天の五紋》の斥候ですね」
バルドはわずかに目を見開いた。
「……名前、覚えていたのか」
「ギルドの古い資料で少し。
でも……そのメンバーが全員、リズさんやリオ君の親御さんだったなんて、普通は思いませんよ」
「まぁな」
バルドは苦く、しかしどこか誇らしげに笑った。
「ミレイアは斥候。セオドリックは魔法使い。
ライナスは前衛アタッカーで、サリアが後衛支援。
そして俺がタンクだ。……本当に、いいパーティーだった」
エミリアは軽く肩をすくめる。
「まさか、バルドさん以外の全員が結婚して、次々と子どもを産むなんて……誰も予想しませんよね?」
「ほんとにな」
バルドは喉の奥で笑う。
「あいつら、仲間内で勝手にくっついて、勝手に幸せになっていきやがった。
気づけば俺だけが余っていた、というわけだ」
エミリアは小さく微笑んだ。
「……でも、その縁が、今の子どもたちに繋がっているんですね」
彼女は報告書に目を落とす。
そこには――教団の背後に「帝国の影」があると記されていた。
「……これ、ただの宗教組織の暴走じゃありません。
帝国の工作員が動き、王宮内の貴族と連携しています」
「分かっている」
バルドの表情が引き締まる。
「ミレイアからの手紙にも、『帝国の本格的な侵攻の兆しがある』と書かれていた。
……嫌な流れだ」
エミリアは息をのんだ。
「リオ君は特例でCランク。
リズさんは正式にギルド登録。
ミナさんとルーナさんも、それぞれ昇格……ですよね?」
「ああ。今回の活躍と将来性を考えれば妥当だ」
バルドは机に手を置き、低い声で続ける。
「だが……子どもたちの成長速度に、敵の影が追いつきつつある。
帝国は――必ず“次の一手”を打ってくる」
夕日が沈み、ギルド長室に影が落ちた。
バルドの視線は、その暗がりの奥を静かに見据えている。
「エミリア。これからの動きは極秘だ。
リオとリズの力は、王国の未来に関わる。……絶対に漏らすな」
「もちろんです。私は――あの子たちを守ります」
静まり返ったギルド長室には、
来たるべき嵐を迎え撃つための、重い覚悟だけが残っていた。




